第一章2 『姫と幼なじみ』
※シルバー視点――マクガイア王城、闘技場
父さんは、生前こんなことを言っていた。
「いいか、シルバー。
男同士の戦いってのはな、いわば国境線でのにらみ合いみたいなもんだ。
張り合ってときどき拳を交えるけど、境界は超えねぇ。
でも一線越えたら戦争、つまり殺し合いだ」
俺は「へー」とか適当に返したけど、父さんはどんどん真顔になって続ける。
「でもな、女同士の戦いはもっと怖い。
あいつらは敵国の女と平気な顔で落ち合って、笑顔で一緒に買い物して、ついでにしれっと互いの国の井戸に毒を放り込む。
で、そのまま『またね~』って手を振って自国に戻って、顔にキュウリ貼りながら自分とこの井戸に毒が入ってたのよ! って怒るんだ」
「で、その時点でもう自分がさっき同じことしたのは忘れてんの。
怖いだろ? マジでこえぇって。
しかもな、息を吸うみたいに、被害者ヅラで自国の男に八つ当たりまでキメてくる。
あれはもう戦争っていうか……毒笑いの応酬だな。ほんともう、こっちの正気が――」
その時、俺と父の居る部屋のドアが、静かに……スッと開く。
母さんが立っていた。
にこやかに微笑みながら、無言でこちらに近づいてくる。
父さんがピタリと黙る。
その目がようやく状況を把握した。
沈黙。
数秒。
そして――震えるような声で、言った。
「……それでも、パパはママのこと、真剣に愛してるんだ」
母さんは変わらぬ笑顔で、そっと父の肩に手を置いた。
「あなた、少し……こちらへいらして?」
「ん? お、おう……」
父さんは完全に動揺していたけど、されるがまま別室へ連れていかれた。
扉が、静かに、確実に、閉まる。
何故か、父に親近感と、血の繋がりを感じた。
◇ ◇ ◇
ティーカップの湯気の向こう側、微笑み合うふたり。
俺が世話になって居るラスティーナ王女と、俺の幼馴染ルーシェ。
テーブルの上には菓子と紅茶。
けれどその笑顔の下に何か見えない火花が散っている。
「お茶いかがですか?」
「恐縮です。ラスティーナ王女のお手前でいただけるなんて」
「最近はシルバー様も紅茶に慣れてきましたの。
お食事のあと『もう一杯だけ』って……ふふ、可愛らしいんですよ?」
「へぇ……あの人が。泥だらけで畑に寝転んで『水でいいや』って言ってたあの人が」
「それもまた無邪気で素敵だったのでしょうね」
「王女様の前ではそれっぽくしてるだけかもしれませんよ?」
「素のままです。楽しい時間を過ごしていますわ」
「……頑張りすぎてないのならいいんですけど。シルバーは昔から気い使いだから」
「最近はたくさん笑ってくれますよ。自分の言葉でまっすぐに。私、それがとても――」
「それ村の頃から変わってませんよ。
からかわれて、怒って、オチまで完璧に拾ってくるのが彼の様式美で」
「まぁ。それもやっぱり……可愛いですね」
互いに微笑んでいた。
けれど、ティーカップの表面には、微かに波紋が広がっていた。
テーブルの上では白い湯気が立ちのぼる。
そしてその下――俺の右足からも、もうもうと白い回復の蒸気が立っていた。
ラスティーナ王女の回転を重ねたヒール。
ルーシェの無言の捻りを加えた踏みつけ。
笑顔と同時に、繰り出された連携攻撃は、正確に俺の右足を仕留めていた。
ちなみに俺は喋ってないし、動いてもいない。
どうやら今回の井戸は俺のようだな。
だが、大きな問題が一つ。
『俺が二人の国のどちらにも所属してない、第三国の、のどかな国』
の可哀そうな井戸という事だ。
ちなみにラスティーナ王女の待女は、俺の部屋の窓の前に立っている。
つまり逃げ道は既に……無い。
◇ ◇ ◇
「……行きましょうか。」
「はいっ」
「ルーシェさん。今度、二人きりでお茶でも」
「……ぜひ」
ごく丁寧に交わされたやりとり。
二人は並んで扉を出ていく。
――俺を残して。
「……あれ? 俺……一人……?」
そんな独り言を零す、俺の背後から今までこの部屋に無かった野太い声が耳元に響く。
「……ラスティーナの茶は、美味かったか?」
背後から静かに降ってきた声に、俺は固まった。
「っ、王……!?」
いつの間にか王が背後に立っていた。ノックも扉の音もなかった。
「あっ、はい。香り高く、とても……」
「そうか」
王は静かに席に近づく。
俺はその場で凍りついたまま、ただ一つの真実にたどり着く。
(親父……この世界には『自走式の国境』が存在するらしいぞ)
バタン、と背後で扉が閉まった。
今度は俺と王の――お茶会かな?
◇ ◇ ◇
同時刻、星局記録課・特別記録室。
静かな灯りの下、ナディアは封筒を受け取っていた。
黒服の使者は何も語らず、ただ深く頭を垂れるだけ。
卓上に置かれた一通の封筒を、ナディアは静かに開いた。
そこに記されていたのは――ただ一行。
――前回のマーガの戦いの勝者。
デオブルグ帝国所属。
先代ヴィエル・マーガの星――――老衰による死去。
右手の封筒が堅く握りしめられた。
※参考までに。
◇ ◇ ◇
◆ルーシェ・カランディール
年齢:16歳
身長:165cm
髪型:明るい茶色、上げ目のハーフアップ、
瞳の色:茶色(太陽のような明るさ)
体型:グラマーな女性らしさを強調した体格
備考:シルバーの幼馴染であり、お世話係ポジション。内心では好意あり。だけど基本的に素直じゃない為、本人もなかなか認めない。
◆ラスティーナ・マクガイア
年齢:16歳
身長:160cm
髪型:紅(肩甲骨くらいまでのロングヘア、後部で編み込み)
瞳の色:藤色・藍色
体型:細身
主人公への呼び方:幼少期:シルバーさん、現在シルバー様
備考:初対面時、銀糸の舞に心を打たれる、マーガの星の件でシルバーを王都へ招いた。想いはゆるやかに暴走中。




