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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 一章 シルバー16歳
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第一章2 『姫と幼なじみ』

 ※シルバー視点――マクガイア王城、闘技場 

 父さんは、生前こんなことを言っていた。


「いいか、シルバー。

 男同士の戦いってのはな、いわば国境線でのにらみ合いみたいなもんだ。

 張り合ってときどき拳を交えるけど、境界は超えねぇ。

 でも一線越えたら戦争、つまり殺し合いだ」


 俺は「へー」とか適当に返したけど、父さんはどんどん真顔になって続ける。


「でもな、女同士の戦いはもっと怖い。

 あいつらは敵国の女と平気な顔で落ち合って、笑顔で一緒に買い物して、ついでにしれっと互いの国の井戸に毒を放り込む。

 で、そのまま『またね~』って手を振って自国に戻って、顔にキュウリ貼りながら自分とこの井戸に毒が入ってたのよ! って怒るんだ」


「で、その時点でもう自分がさっき同じことしたのは忘れてんの。

 怖いだろ? マジでこえぇって。

 しかもな、息を吸うみたいに、被害者ヅラで自国の男に八つ当たりまでキメてくる。

 あれはもう戦争っていうか……毒笑いの応酬だな。ほんともう、こっちの正気が――」


 その時、俺と父の居る部屋のドアが、静かに……スッと開く。


 母さんが立っていた。

 にこやかに微笑みながら、無言でこちらに近づいてくる。


 父さんがピタリと黙る。

 その目がようやく状況を把握した。


 沈黙。

 数秒。


 そして――震えるような声で、言った。


「……それでも、パパはママのこと、真剣に愛してるんだ」


 母さんは変わらぬ笑顔で、そっと父の肩に手を置いた。


「あなた、少し……こちらへいらして?」


「ん? お、おう……」


 父さんは完全に動揺していたけど、されるがまま別室へ連れていかれた。

 扉が、静かに、確実に、閉まる。


 何故か、父に親近感と、血の繋がりを感じた。



 ◇ ◇ ◇

 ティーカップの湯気の向こう側、微笑み合うふたり。

 俺が世話になって居るラスティーナ王女と、俺の幼馴染ルーシェ。


 テーブルの上には菓子と紅茶。

 けれどその笑顔の下に何か見えない火花が散っている。


「お茶いかがですか?」


「恐縮です。ラスティーナ王女のお手前でいただけるなんて」


「最近はシルバー様も紅茶に慣れてきましたの。

 お食事のあと『もう一杯だけ』って……ふふ、可愛らしいんですよ?」


「へぇ……あの人が。泥だらけで畑に寝転んで『水でいいや』って言ってたあの人が」


「それもまた無邪気で素敵だったのでしょうね」


「王女様の前ではそれっぽくしてるだけかもしれませんよ?」


「素のままです。楽しい時間を過ごしていますわ」


「……頑張りすぎてないのならいいんですけど。シルバーは昔から気い使いだから」


「最近はたくさん笑ってくれますよ。自分の言葉でまっすぐに。私、それがとても――」


「それ村の頃から変わってませんよ。

 からかわれて、怒って、オチまで完璧に拾ってくるのが彼の様式美で」


「まぁ。それもやっぱり……可愛いですね」


 互いに微笑んでいた。

 けれど、ティーカップの表面には、微かに波紋が広がっていた。


 テーブルの上では白い湯気が立ちのぼる。

 そしてその下――俺の右足からも、もうもうと白い回復の蒸気が立っていた。


 ラスティーナ王女の回転を重ねたヒール。

 ルーシェの無言の捻りを加えた踏みつけ。


 笑顔と同時に、繰り出された連携攻撃は、正確に俺の右足を仕留めていた。


 ちなみに俺は喋ってないし、動いてもいない。

 どうやら今回の井戸は俺のようだな。


 だが、大きな問題が一つ。


『俺が二人の国のどちらにも所属してない、第三国の、のどかな国』

 の可哀そうな井戸という事だ。


 ちなみにラスティーナ王女の待女は、俺の部屋の窓の前に立っている。

 つまり逃げ道は既に……無い。



 ◇ ◇ ◇

「……行きましょうか。」


「はいっ」


「ルーシェさん。今度、二人きりでお茶でも」


「……ぜひ」


 ごく丁寧に交わされたやりとり。

 二人は並んで扉を出ていく。


 ――俺を残して。


「……あれ? 俺……一人……?」


そんな独り言を零す、俺の背後から今までこの部屋に無かった野太い声が耳元に響く。


「……ラスティーナの茶は、美味かったか?」


 背後から静かに降ってきた声に、俺は固まった。


「っ、王……!?」


 いつの間にか王が背後に立っていた。ノックも扉の音もなかった。


「あっ、はい。香り高く、とても……」


「そうか」


 王は静かに席に近づく。

 俺はその場で凍りついたまま、ただ一つの真実にたどり着く。


(親父……この世界には『自走式の国境』が存在するらしいぞ)


 バタン、と背後で扉が閉まった。

 今度は俺と王の――お茶会かな?



 ◇ ◇ ◇


 同時刻、星局記録課・特別記録室。


 静かな灯りの下、ナディアは封筒を受け取っていた。

 黒服の使者は何も語らず、ただ深く頭を垂れるだけ。


 卓上に置かれた一通の封筒を、ナディアは静かに開いた。


 そこに記されていたのは――ただ一行。


 ――前回のマーガの戦いの勝者。

 デオブルグ帝国所属。

 先代ヴィエル・マーガの星――――老衰による死去。


 右手の封筒が堅く握りしめられた。


※参考までに。

◇ ◇ ◇

◆ルーシェ・カランディール

 年齢:16歳

 身長:165cm

 髪型:明るい茶色、上げ目のハーフアップ、

 瞳の色:茶色(太陽のような明るさ)

 体型:グラマーな女性らしさを強調した体格

 備考:シルバーの幼馴染であり、お世話係ポジション。内心では好意あり。だけど基本的に素直じゃない為、本人もなかなか認めない。


 ◆ラスティーナ・マクガイア

 年齢:16歳

 身長:160cm

 髪型:紅(肩甲骨くらいまでのロングヘア、後部で編み込み)

 瞳の色:藤色・藍色

 体型:細身

 主人公への呼び方:幼少期:シルバーさん、現在シルバー様

 備考:初対面時、銀糸の舞に心を打たれる、マーガの星の件でシルバーを王都へ招いた。想いはゆるやかに暴走中。

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