表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 一章 シルバー16歳
8/23

◆第一章1 『星持ち、天より落ちる』

 ※シルバー(十六歳)視点――マクガイア王城、闘技場

 王都に連れてこられて四年。

 シルバー・ヴィンセント、十六歳。


 ……俺は健やかに――いや、無理やり鍛えられたと言った方が正しい。


 訓練、訓練、また訓練。

 村に帰る事も出来ず、毎日泥まみれの修行漬け。


 そして今――。


 第五闘技場。

 土と鉄の匂いが満ちた、戦う者たちの性能を測る場所。


 上階席にはラスティーナ王女の姿。


 あれから四年、互いに何度か話をするうちに同い年だったという事を聞いた。

 つまり今の彼女も俺と同じ十六歳。


 銀白のドレス、紅い長髪を優雅に束ねた彼女は凛として美しかった。

 華やかではない。けれどその静けさだけですべてを引き寄せる――そんな存在感を持っていた。


 ほかには軍務省、研究局、星局。

 偉そうな連中がズラリと並び、息をひそめる。


 だが、闘技場の中心は――誰もいない。


「……上、見てください」


 誰かの小さな声に、皆が天井を仰ぎ見る。


 そこに――黒い影。


 天窓の格子に、黒マントを広げた――俺。


 完璧な舞台。完璧な演出。

 ここから華麗に降り立って――



「闇銀月のきざはしに抱かれし、影の使徒――!」


 銀糸を弾き、空中へ。



「――シルバー・ヴィンセント、ここに参上おおおおおっ……ぎゃああああああああ!!」



 ド ガ ア ァ ァ ァ ァ !!!



 盛大に着地失敗。

 銀糸に巻かれたまま、闘技場のど真ん中に激突。


 ……いいか? これは事故じゃない。

 演出だ。緞帳が開くなら空から降りる、それが礼儀。



「……銀月も何も、今は昼なんだが」


 どこからか冷静なツッコミ。知ってた。



 ◇ ◇ ◇

「模擬戦、開始」


 近衛兵三人が前に出る。

 盾、槍、剣――ばっちりそろって、こっちに向かって来る。


 俺の装備は全身を覆う黒の戦闘服と、糸繰り専用の赤い手袋。


 そしてこの端正な顔立ち、長い手足に銀色の長い髪。

 総合的な美男子力、知性溢れる語呂力――つまりは無敵。


 そして母から受け継いだ銀糸。それが俺のすべて。


 でも、問題ない。ここは俺の領域ステージだ。


 剣が振り下ろされる。

 鈍い音と共に、腹に鋭い衝撃。


 避けきれない。それでも身体は本能で捻った。

 致命傷は外れたが、背中から土に叩きつけられる。


 痛みが爆ぜ、視界が白く滲む。

 けれど俺は無言で立ち上がる。


 破れた服の隙間から白い蒸気が噴き上がる。

 裂けた肉が音もなく、傷を貪るように繋がっていく。


 不死の恩恵――ギグ・マーガの星。


「……ったく、マジで容赦ねぇな」


 吐き捨てるように呟く。次の瞬間、槍が俺の肩を無常に刺していく。

 瞬間、膝が落ちかけたが、銀糸を地面に走らせ、体を支えた。


 視界の端に、動揺する剣兵の姿。


 ――隙あり。


 銀糸を巻き、全身を引き上げ宙を舞う。


 そのまま、鳥の様に空中を羽ばたき、体ごとぶつかる。


 だが、その衝撃で骨が軋み、肉が裂ける。

 それでも、相手の動きが確かに止まった。


 痛みは、敵じゃない。

 痛みは、生きている証拠だ。


「そっちは生きようとしてる動き。

 俺は『死なないところから始めてる』んでね」


 昨日必死に考えた、決めゼリフを低く吐く。寝不足の産物だ。


「模擬戦、終了」


 銀糸をくるりと巻き、指を鳴らす。


「……完璧だったな」


 傷は残っている、体中が重い。けどそれでも立っていられる。


 今はそれだけで十分だった。



 ◇ ◇ ◇


 控室へ向かおうとしたとき、不意にかけられた声。


「……アンタ、ほんと変わってないね」


 俺の足が止まった。

 振り返った先――制服姿の少女。


 見知らぬ……いや、間違いない。

 絶対に、忘れるはずがない顔だ。


 ルーシェ・カランディール。

 俺が生まれ育った、村の……幼馴染の女の子。


 明るい茶色の髪は、ハーフアップにまとめられ、後ろで細く編み込まれている。

 くるくると自然にカールした髪先は、光を受けて跳ねていた。

 首元には小さなバンダナが結ばれ、太陽を思わせる色彩を添えている。


 目元の印象はあの日の、四年前の昔のまま。

 太陽の光をそのまま閉じ込めたような、明るい茶色の瞳。

 ただ、その中には確かな落ち着きと誇りが宿っていた。


 そして――制服の胸元。


 ……俺の視線が自然と引き寄せられていた。

 村にいた頃より明らかに豊かになった輪郭に、心のどこかが反応する。


 負けてたまるかと言わんばかりに、俺も胸を張って言ってやる。


「お前、女だったのか?」


「バカッ!!」


 拳が頬に飛び打ち抜かれる。不死身でも痛いもんは痛い。

 いやちょっと、かなり痛いが。


 というか腰の使い方と拳の握りが女性じゃねぇ。


「……無事だったなら、そう言いなさいよ」


 涙が彼女の袖に吸い込まれていく。

 そのまま俺の胸に、ルーシェは自分自身の顔を預けるように寄りかかってきた。


「……ごめんな」


 俺はただそれだけの言葉を零す。


「あのまま……まさか王城に住むことになるとは思ってなかったしな」


 どこか言い訳じみた言葉。

 けれど、それでも彼女の肩がかすかに揺れた気がした。


「……今日、配属されたばかりなの。星局の補佐官見習い」


 小さく、けれど少し誇らしげに笑うルーシェ。

 その笑顔に懐かしい、あの俺が生まれ育った村の光と風が宿ったままの様に。


「そうか……おめでとう、ルーシェ」


 まっすぐに言えた。それだけは、今の俺にできたことだった。


 ……のに。


「それにしても補佐官の制服って、胸元に国家の威厳出てんな。

 フッ……流石俺のライバルと呼ぶべき存在だな」


「し、シルバー!!?」


 拳が飛んでくる。頬が鳴る。骨が喜ぶ。

 でも俺は笑って言ってやる。


「いや、安心した。そこも育ってたんだなって――」


「関係無いアンタに言われたくないわよ!!」


 ――これが、俺たちの再会だった。

 そこに、さらりと割り込んできた静かな声。


「随分と、楽しそうですね」


 振り向けばいつの間にか背後に――ラスティーナ王女。

 微笑を浮かべている筈なのに――足元の空気が不思議とひんやりしていた。


「補佐官として来たのなら、まずは任命者に挨拶を。……ね?」


 ルーシェがぴしっと背筋を伸ばして姿勢を正し、敬礼を行う。

 その間、王女は俺にだけ笑みを保ったまま横目を向け、ふっと一言。



「……先ほどの、あれの話は、あとでじっくり詳しく聞きますから」



 その言葉の後、笑みを保ったまま、くるりと踵を返して去っていった。

 ラスティーナ王女のローブの裾がやけに勢いよく揺れていた。


「……何かよく判らんが、怒らせた気がする」


 普段は基本的に気品と清楚さを保ちながら、のほほんなんだが。

 その場に残った俺の呟いた言葉、不意に袖が何かに引っ張られる。


 呆れ顔と膨れ顔を足して二で割った顔の様なルーシェ。

 俺の袖を摘まみながら、目を細めながら一言。


「あんた、あたしの居ないこの四年間で随分と仲良くなったみたいね」


 あー懐かしいな……このルーシェの表情。


『何よぅ……あたし放っておいて、他の子と遊んでるなんて、ずるい!』


 みたいな昔のやり取りを思い出す。

 何だかんだ、こいつも寂しがりやだなあ。


 そんな少年時代、生まれ育ったあの村での記憶がよみがえる。

 まあ、これもマーガの星の導きか。


「フッ……ギグ・マーガの星よ、確かお前の持つ災厄の中に確か『女難』という言葉もあったな……」


 俺は自分の銀髪をかき上げ、俺は空へ祈りを送る。

 いつか絶対あのハゲのチャビンガーをぶん殴るという想いも込めて。


 俺はそのまま目を細めつつ、廊下の窓から外の風景を眺め、その光に目を閉じる。

 俺の脳裏に走るのは、幼い頃のルーシェが拗ねた『後』の少年時代の思い出。


 そのまま幼いルーシェは拳を作り、俺の顎先を無言で貫く流れ。

 そして幼少とは思えない、体重移動と腰運びで、器用に俺の顎を貫くあの記憶。


 まあ、何だ……俺のここからの未来の予定調和。

 間違いなく、俺は全部見えている。

◆シルバー・ヴィンセント

 年齢:16歳

 身長:178cm

 髪型:銀色(腰くらいまでのロングヘア)

 幼少期は編み込んだりされてた、しかし今はケアはしっかり行うが編み込みはしない(恥ずかしい)三つ編みされた事もある(ルーシェ)

 瞳の色:灰銀色

 体型:細身の筋肉質


 星:ギグ・マーガ

 ※ギグ・マーガの星詳細

 恩恵内容:肉体の自己再生能力を持つ。高所落下や爆発でも死なないが、痛みは伴う。

 シリアスモード:再生能力が完全に停止。痛いし、泣きたいし、ついでに普通に死ぬ。

 発動条件:常時発動(ただしふざけた精神状態で維持される)

 弱点:マーガの星同士による『シリアスモード』に至ると治癒の恩恵が止まるという理不尽な仕様。

 シルバー曰く。


『戦争が始まると真っ先に逃げて、戦後の酒場での祝いにしれっと参加している星』









あとがき


ここまで読んで下さってありがとうございます。

あれから四年、いよいよ本編です

良かったらコメント、フォローしてくれたら、自分も二階から落ちます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ