◆第一章1 『星持ち、天より落ちる』
※シルバー(十六歳)視点――マクガイア王城、闘技場
王都に連れてこられて四年。
シルバー・ヴィンセント、十六歳。
……俺は健やかに――いや、無理やり鍛えられたと言った方が正しい。
訓練、訓練、また訓練。
村に帰る事も出来ず、毎日泥まみれの修行漬け。
そして今――。
第五闘技場。
土と鉄の匂いが満ちた、戦う者たちの性能を測る場所。
上階席にはラスティーナ王女の姿。
あれから四年、互いに何度か話をするうちに同い年だったという事を聞いた。
つまり今の彼女も俺と同じ十六歳。
銀白のドレス、紅い長髪を優雅に束ねた彼女は凛として美しかった。
華やかではない。けれどその静けさだけですべてを引き寄せる――そんな存在感を持っていた。
ほかには軍務省、研究局、星局。
偉そうな連中がズラリと並び、息をひそめる。
だが、闘技場の中心は――誰もいない。
「……上、見てください」
誰かの小さな声に、皆が天井を仰ぎ見る。
そこに――黒い影。
天窓の格子に、黒マントを広げた――俺。
完璧な舞台。完璧な演出。
ここから華麗に降り立って――
「闇銀月の階に抱かれし、影の使徒――!」
銀糸を弾き、空中へ。
「――シルバー・ヴィンセント、ここに参上おおおおおっ……ぎゃああああああああ!!」
ド ガ ア ァ ァ ァ ァ !!!
盛大に着地失敗。
銀糸に巻かれたまま、闘技場のど真ん中に激突。
……いいか? これは事故じゃない。
演出だ。緞帳が開くなら空から降りる、それが礼儀。
「……銀月も何も、今は昼なんだが」
どこからか冷静なツッコミ。知ってた。
◇ ◇ ◇
「模擬戦、開始」
近衛兵三人が前に出る。
盾、槍、剣――ばっちりそろって、こっちに向かって来る。
俺の装備は全身を覆う黒の戦闘服と、糸繰り専用の赤い手袋。
そしてこの端正な顔立ち、長い手足に銀色の長い髪。
総合的な美男子力、知性溢れる語呂力――つまりは無敵。
そして母から受け継いだ銀糸。それが俺のすべて。
でも、問題ない。ここは俺の領域だ。
剣が振り下ろされる。
鈍い音と共に、腹に鋭い衝撃。
避けきれない。それでも身体は本能で捻った。
致命傷は外れたが、背中から土に叩きつけられる。
痛みが爆ぜ、視界が白く滲む。
けれど俺は無言で立ち上がる。
破れた服の隙間から白い蒸気が噴き上がる。
裂けた肉が音もなく、傷を貪るように繋がっていく。
不死の恩恵――ギグ・マーガの星。
「……ったく、マジで容赦ねぇな」
吐き捨てるように呟く。次の瞬間、槍が俺の肩を無常に刺していく。
瞬間、膝が落ちかけたが、銀糸を地面に走らせ、体を支えた。
視界の端に、動揺する剣兵の姿。
――隙あり。
銀糸を巻き、全身を引き上げ宙を舞う。
そのまま、鳥の様に空中を羽ばたき、体ごとぶつかる。
だが、その衝撃で骨が軋み、肉が裂ける。
それでも、相手の動きが確かに止まった。
痛みは、敵じゃない。
痛みは、生きている証拠だ。
「そっちは生きようとしてる動き。
俺は『死なないところから始めてる』んでね」
昨日必死に考えた、決めゼリフを低く吐く。寝不足の産物だ。
「模擬戦、終了」
銀糸をくるりと巻き、指を鳴らす。
「……完璧だったな」
傷は残っている、体中が重い。けどそれでも立っていられる。
今はそれだけで十分だった。
◇ ◇ ◇
控室へ向かおうとしたとき、不意にかけられた声。
「……アンタ、ほんと変わってないね」
俺の足が止まった。
振り返った先――制服姿の少女。
見知らぬ……いや、間違いない。
絶対に、忘れるはずがない顔だ。
ルーシェ・カランディール。
俺が生まれ育った、村の……幼馴染の女の子。
明るい茶色の髪は、ハーフアップにまとめられ、後ろで細く編み込まれている。
くるくると自然にカールした髪先は、光を受けて跳ねていた。
首元には小さなバンダナが結ばれ、太陽を思わせる色彩を添えている。
目元の印象はあの日の、四年前の昔のまま。
太陽の光をそのまま閉じ込めたような、明るい茶色の瞳。
ただ、その中には確かな落ち着きと誇りが宿っていた。
そして――制服の胸元。
……俺の視線が自然と引き寄せられていた。
村にいた頃より明らかに豊かになった輪郭に、心のどこかが反応する。
負けてたまるかと言わんばかりに、俺も胸を張って言ってやる。
「お前、女だったのか?」
「バカッ!!」
拳が頬に飛び打ち抜かれる。不死身でも痛いもんは痛い。
いやちょっと、かなり痛いが。
というか腰の使い方と拳の握りが女性じゃねぇ。
「……無事だったなら、そう言いなさいよ」
涙が彼女の袖に吸い込まれていく。
そのまま俺の胸に、ルーシェは自分自身の顔を預けるように寄りかかってきた。
「……ごめんな」
俺はただそれだけの言葉を零す。
「あのまま……まさか王城に住むことになるとは思ってなかったしな」
どこか言い訳じみた言葉。
けれど、それでも彼女の肩がかすかに揺れた気がした。
「……今日、配属されたばかりなの。星局の補佐官見習い」
小さく、けれど少し誇らしげに笑うルーシェ。
その笑顔に懐かしい、あの俺が生まれ育った村の光と風が宿ったままの様に。
「そうか……おめでとう、ルーシェ」
まっすぐに言えた。それだけは、今の俺にできたことだった。
……のに。
「それにしても補佐官の制服って、胸元に国家の威厳出てんな。
フッ……流石俺のライバルと呼ぶべき存在だな」
「し、シルバー!!?」
拳が飛んでくる。頬が鳴る。骨が喜ぶ。
でも俺は笑って言ってやる。
「いや、安心した。そこも育ってたんだなって――」
「関係無いアンタに言われたくないわよ!!」
――これが、俺たちの再会だった。
そこに、さらりと割り込んできた静かな声。
「随分と、楽しそうですね」
振り向けばいつの間にか背後に――ラスティーナ王女。
微笑を浮かべている筈なのに――足元の空気が不思議とひんやりしていた。
「補佐官として来たのなら、まずは任命者に挨拶を。……ね?」
ルーシェがぴしっと背筋を伸ばして姿勢を正し、敬礼を行う。
その間、王女は俺にだけ笑みを保ったまま横目を向け、ふっと一言。
「……先ほどの、胸の話は、あとでじっくり詳しく聞きますから」
その言葉の後、笑みを保ったまま、くるりと踵を返して去っていった。
ラスティーナ王女のローブの裾がやけに勢いよく揺れていた。
「……何かよく判らんが、怒らせた気がする」
普段は基本的に気品と清楚さを保ちながら、のほほんなんだが。
その場に残った俺の呟いた言葉、不意に袖が何かに引っ張られる。
呆れ顔と膨れ顔を足して二で割った顔の様なルーシェ。
俺の袖を摘まみながら、目を細めながら一言。
「あんた、あたしの居ないこの四年間で随分と仲良くなったみたいね」
あー懐かしいな……このルーシェの表情。
『何よぅ……あたし放っておいて、他の子と遊んでるなんて、ずるい!』
みたいな昔のやり取りを思い出す。
何だかんだ、こいつも寂しがりやだなあ。
そんな少年時代、生まれ育ったあの村での記憶がよみがえる。
まあ、これもマーガの星の導きか。
「フッ……ギグ・マーガの星よ、確かお前の持つ災厄の中に確か『女難』という言葉もあったな……」
俺は自分の銀髪をかき上げ、俺は空へ祈りを送る。
いつか絶対あのハゲのチャビンガーをぶん殴るという想いも込めて。
俺はそのまま目を細めつつ、廊下の窓から外の風景を眺め、その光に目を閉じる。
俺の脳裏に走るのは、幼い頃のルーシェが拗ねた『後』の少年時代の思い出。
そのまま幼いルーシェは拳を作り、俺の顎先を無言で貫く流れ。
そして幼少とは思えない、体重移動と腰運びで、器用に俺の顎を貫くあの記憶。
まあ、何だ……俺のここからの未来の予定調和。
間違いなく、俺は全部見えている。
◆シルバー・ヴィンセント
年齢:16歳
身長:178cm
髪型:銀色(腰くらいまでのロングヘア)
幼少期は編み込んだりされてた、しかし今はケアはしっかり行うが編み込みはしない(恥ずかしい)三つ編みされた事もある(ルーシェ)
瞳の色:灰銀色
体型:細身の筋肉質
星:ギグ・マーガ
※ギグ・マーガの星詳細
恩恵内容:肉体の自己再生能力を持つ。高所落下や爆発でも死なないが、痛みは伴う。
シリアスモード:再生能力が完全に停止。痛いし、泣きたいし、ついでに普通に死ぬ。
発動条件:常時発動(ただしふざけた精神状態で維持される)
弱点:マーガの星同士による『シリアスモード』に至ると治癒の恩恵が止まるという理不尽な仕様。
シルバー曰く。
『戦争が始まると真っ先に逃げて、戦後の酒場での祝いにしれっと参加している星』
あとがき
ここまで読んで下さってありがとうございます。
あれから四年、いよいよ本編です
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