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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 序章 シルバー幼少期
7/15

★閑話1 『外れ星の名を記す時』

 ※ヨルグ視点――星局事務所

 ――星局査定室・第六記録課


 僕の名前はヨルグ・レヴィン。

 星局せいきょくに勤めて、今年で五年目になる。

 業務内容は、星の記録と管理、それから他国のマーガの星の情報整理。


 地味だけど、誰かがやらなきゃ世界が回らない、そんな仕事だ。


 第六記録課――この局のトップは、ナディア・カーヴィエル局長。

 誰よりも正確で、誰よりも静かで、そして誰よりも『冷たい』と言われる人だ。


 帳面に、一つの名が書き加えられていくのを僕は静かに見ていた。

 長らく空白だったその欄にギグ・マーガの文字が左下にそっと書き加えられる。


 灯火がわずかに揺れている。風はない。

 それでも占星盤の針は静かに時を刻み、星々の影を壁に投げかけていた。


 帳面の前に座るナディア局長は、相変わらず無音の空気をまとっていた。


 冷たい、整った美貌。

 きっちりと結われた黒髪と、夜を映すような眼鏡の奥の瞳。

 顔立ちは若いのになぜか若さを感じさせない。

 完璧な身なりと感情の出ない声音とで、彼女はまるで氷細工のような存在に見える。


 静かな美しさだった。

 誰にも触れさせない、それでいて記録だけは確実に残していくような。


「ナディアさん。ひとつ聞いてもいいですか?」


 僕の問いに、彼女は目線を帳面から外さず小さくうなずいた。


「ギグ・マーガって……どうしてはずぼしなんです?」


 ナディア局長は帳面を閉じ、静かに息をついた。


「言葉にすると簡単すぎて、かえって伝わらないかもしれないけど……」


 白く整った指先が耳元にかかる髪を払う。

 その所作すら彼女の一部として刻み込まれていた。


「ギグ・マーガの星を持つ者は、基本的には『死なない』

 どんな傷も時間さえあれば癒える。骨も、内臓も、心臓でさえも」


「……それって、戦いにおいては強すぎるくらいじゃ」


「そうね、普通に生きていくなら」


 ほんの少し彼女は笑った。けれどその微笑みに温度はなかった。

 それは評価ではなく例外の理解に近いものだった。


「ただギグ・マーガには『黙る時』があるのよ」


「……黙る?」


「戦いが激しくなった時。

 勝ちたい、倒したいと強く願えば願うほど星は沈黙する」


 僕の手の中の紙束が、わずかに震えた気がした。

 ナディア局長は、引き出しから記録束を取り出す。


「他のマーガの星ならその星同士の戦いの中で、お互いに戦う、殺すという互いの真剣な意志が力になり、爆発する様に互いに『身体能力が増す』『集中力が増す』

 シリアスモードって俗に呼ばれる状態ね」


「ギグ・マーガは……?」


「願いを拒むのよ。

 勝ちたいと強く願った瞬間、星は静かに沈黙するの。

 力を貸すどころか引いてしまう。

 片方は力や集中力が爆発し、片やギグ・マーガは……沈黙する」


 ナディア局長の声がわずかに低くなった。


「五十六年前の戦争以前、最初に注目されたのは不死の再生、希望の象徴だったギグ・マーガの星。

 けれど次第に姿を消していくようになった」


「消える……?」


「ええ、誘拐や戦場での行方不明。

 あるいは星を封じるという目的での捕縛。報告例はいくつもあるけれど戻ってきた者はいない。そして、記録だけが残る」


 言葉がそこで途切れた。

 だから僕は思わず口にしていた。


「だから、外れ星なんですね……」


 けれど、ナディア局長は首を振った。

 それは肯定でも否定でもなかった。


「――誰よりも早く走って、誰よりも早く消えてしまう。

 だから人は、その名を帳面の隅にだけ記すの」


 その瞬間、占星盤の針が深く沈んだ。

 風もないのに帳面がふと音を立てて閉じられる。


 僕の肩がわずかに跳ねる。

 ナディア局長はそれにも振り返らず、記録束を棚に戻しながら静かに言った。


「……また、うたが始まるわ」


 油灯の火が、大きく揺れた。

 ナディア・カーヴィエル

 年齢:不明(20代後半~30代)

 身長:推定170cm前後

 髪型:紫 基本的に伸ばしているだけだが、仕事中は後ろで一纏めにかんざし纏め。

 瞳の色:紫

 体型:細身・長身



 ヨルグ(記録課補佐)

 年齢:20代前半

 身長:170cm

 髪型:黒のセンター分け、耳にかかるくらいの長さ

 瞳の色:黒

 体型:やせ型

 備考:眼鏡、以上。

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