序章5 『銀の星、王都にて迎えられる』
※シルバー幼少期(十二歳)視点――マクガイア王国王都
王都は、思っていたより静かだった。
もっとこうギラギラした黄金とか、兵士の敬礼ラッシュとか、美女の投げる花が舞い「ギグ・マーガさまぁ~!」的な流れだったり、ファンファーレがペンペケペーンって鳴ってると思ってたんだけど。
一言で言うと、地味。
いや、地味という言葉自体、何か逆に不条理。
何か市民の日常の隙間を、ちょっと豪華な馬車が真っ直ぐ通る程度の日常。
まあ、その方が本当は良いのかな? だって何のトラブルも無いんでしょう?
なーんて思っちゃうくらいの、日常。
石畳の足音と、人々の話し声と、鳩。
ただの鳩。俺の頭上で、なんか平和そうに鳴いている。
「案外、地味だな……国家の中枢ってやつは」
ラスティーナは隣で、変わらぬ笑みを浮かべていた。
ふと思い立ったように口を開く。
「あの村で別れの際に、後ろに居た女の子の言っていた、日刊二つ名とは?」
おのれルーシェ、許すまじ。
そんな風に思いつつも、とりあえず思う限りカッコいい表情に、カッコいい声のトーンで返事を返してやる。
「簡潔に言えば、常に俺はカッチョイイ二つ名を探求している、旅人なのだ」
「旅人……ちなみに現在地は?」
「銀嶺を駆ける超絶美形剣士、だ」
「ふふ、村で聞いた名前と既に変わってますね」
笑いながら進むと、白壁の建物や騎士団の詰所のような建物が並ぶ道。
通りすがりの人々がちらりとこちらを見て、ラスティーナに気づいて軽く膝を折り胸に手を当て頭を垂れる。
「やっぱ、それでも気づかれるな。立ち方とか、空気の張り方とか……」
「空気を張っている自覚はありませんが」
「いや、もうちょい気配消したら、普通に歩けるかもしれないぞ?」
「それは……努力します」
王族らしくない返しに、俺は小さく笑った。
石造りの大階段の前でラスティーナが立ち止まり、こちらを見た。
「今日のこと……覚悟はできてますか?」
「ああ、ここから俺の時代が来るのだろう。
とりあえず最初の台詞は『あれ? 俺また何かやっちゃいました?』と決めている」
「……全然私の質問の意図を理解していないです」
俺は笑ってみせたが、王女は何か言いかけてやめたような顔をしていた。
◇ ◇ ◇
謁見の間。
広くて寒くて、音が吸い込まれるような空間。
王の前に進み出ると、自然に呼吸が浅くなる。
ただの空気なのに空気じゃない。それがこの部屋の重さだった。
「ギグ・マーガの星の民よ」
王の声は低くて無駄がない。響きだけで自然と場が締まる。
「……光栄です」
軽く頭を下げた瞬間、視線が交差した。
王の眼差しには、測るような鋭さと『確かめたい』という色が見えた。
次の瞬間、黒衣の騎士がすっと前に出る。
何かが来る――そう思ったときには、もう既に右腕の表面部分を、剣閃が走り抜けていた。
「う゛っ……!」
右腕に走る、鋭い熱。反射的に膝が崩れる。
手を当てると、あふれる様に血が出ていた。
横腹に鋭く焼けた鉄を押し付けられたような痛み。
「いきなり!? 日刊命がけかよ……!」
元々の傷は腕の表面を舐める様に切っただけ。
傷は深くない。けど痛い。
ラスティーナ王女が一歩踏み出して止まるのが見えた。
止められなかったのか、それとも、これが何かの通過儀礼なのか。
「……痛ぇなこの野郎! 一体なに考えてやがる!」
叫ばずにはいられなかった。
自然と俺の傷口から白い蒸気が立ちのぼる。
「まただ。ちゃんと治ってる……」
見てるのは自分の体なのに、どこか他人事みたいだった。
「……でも、やっぱり痛ぇ!!」
声が裏返りそうだったが、なんとか踏みとどまった。
――あれが痛がりの外れ星か。
ぽつりと後ろのほうで、誰かが言った。
ラスティーナ王女がその声の方向へ睨むように視線を向けた。
でも俺は、痛みで生きていると感じていた。
「俺がこの星を背負うのは、光るためじゃない。
倒れても、また立ち上がるって――誰かに見せるためだ。
何故なら、その方がカッコいいしな!」
場が、少しだけ静かになった。
背後から、小さな咳払い。
誰かが「……言うなあ、あの小僧」とつぶやいたのが聞こえる。
でも、ラスティーナ王女は目を見開いたまま、俺を見ていた。
◇ ◇ ◇
王は、静かにこちらへ歩み寄る。
その歩みは重く、だが威圧ではなかった。
何かを測るような、探るような――そんな静かな気配。
「……シルバー・ヴィンセント」
王が名を呼ぶ。
ただそれだけで、空気がまた少し重くなる。
「貴様、痛みに慣れているな」
「……ははっ、昨日荷馬車にはねられたばかりなんで」
俺は肩をすくめて返す。
すると王の口元が、ほんのわずかに動いた。
「ギグ・マーガの星は、ただの再生ではない。
耐える者に、より深く食い込む。無理に戦えば、心までも蝕む星」
「……」
「我が目で確かめたかった。
貴様がそれでも立ち上がる者か、否かを」
語る声は低いが、厳しさだけじゃなかった。
そこにあったのは悲しみ、そして少しの――同情か。
(……そっか)
そうだ。あの一撃は、ただの試しじゃない。
この世界に生きる者たちは、みんな星と共に生きている。
そしてたまたま、俺に与えられたこのクソ星を――この王自身が、確かめたかったんだろうか。
だから俺は、堂々と言ってやった。
「俺は負けねぇよ。
だって『痛いだけ』なら、まだ生きてる証拠だろ?」
王の目がわずかに細められる。
静かに、深く、何かを肯定するように。
「……ならば、突き進め。銀の星の少年よ」
言葉少なだったけど、
確かにそこには、祝福があった。
何時の間にか隣に立っていたラスティーナ王女が、そっと俺の手を握った気配がする。けれど、俺はこの王から目を逸らさないまま。
これが俺の最初の一歩だから。
※参考までに
アラン・マクガイア(王)
年齢:48歳
身長:中肉中背
髪の色:茶髪(短髪)
瞳の色:茶色
体型:標準中年体型




