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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 序章 シルバー幼少期
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序章4 『銀の糸に目を奪われて』

 ※シルバー幼少期(十二歳)視点――生まれ育った村にて

 朝の光はまだ柔らかく、洗い立ての空気には昨日の騒ぎの名残がうっすら漂っていた。


 星の洗礼を終えた翌朝、村は妙に静かで、俺に向けられる視線もどこか遠い。

 いや、正確には『あいつ、神に突っかかったぞ』という視線だ。



 ……問題児扱いを超えて『人としてどうか』の域に突入した感があるな。



 俺はそんな空気を振り払うように、自宅の鍛冶場の裏手にいた。

 昨日の喧騒なんてどこ吹く風。指先には、母が遺してくれた、銀糸ぎんし


 ――織るのではなく、「舞う」。


 銀糸ぎんし

 即ち、金属製の糸。

 だが、ただの細い針金とは違う。


 細くしなやかで、光を吸うような銀。

 冷たく、尖っていて、それでいて暖かい……なぜか触れていたくなる不思議な感触。


 熱に応じて性質が変わる。

 冷たいままだと反発し、温もりが伝われば、するりと従う。


 まるで、気まぐれな猫。

 ……もしくは、昨日の俺だ。


 銀糸を、指先でそっとつまむ。


 空気を滑らせ、円を描くように引き出す。

 動きは慎重、でも流れるように、舞う様に、寄り添うように。


 指の角度、腕の振り、そして全身の回転を糸に乗せ、銀糸は徐々にほどけ、伸びていく。


 下手に止まれば、糸はすねて絡まり、最悪の場合断ち切れる。

 それがこの銀糸の性格だと、母はよく言っていた。


 ――舞え、心を映せ。


 昔、母に教えられた言葉がふいに浮かぶ。


 俺の、伸ばした銀髪が風に揺れる。

 光に透けるたび、母に似てきたなと思う瞬間が、ちょっとだけ誇らしい。


 陽の下できらめく銀糸は、指先で小さな光粒となり、俺の周りを跳ねる。

 それは、まるで――


「……奇麗」


 不意に、背後から声がした。


 振り向くと、そこにいたのは、白いドレスに紅の髪、紅の瞳を持つ少女。

 光を背負ったその姿は、まるで絵本から抜け出してきたようだった。


 ――見惚れた。


「あ、その……糸が綺麗で、つい……」


 彼女は、言葉を探していた。

 怖がっているわけじゃない。何かを正しく伝えたくて、さ迷っている。

 そんなふうに見えた。


 俺は、すました顔で銀糸を巻き戻す。

 照れたら負けだ。負けたら死ぬ。


 いや、違う。なんかカッコ悪い気がするからだ。


 何故なら俺は――カッコいいからだ!(ドヤ顔)


 ◇ ◇ ◇


 村長に呼ばれ、表に出ると少女――いや、王女は改めて名乗った。


「ラスティーナ・マクガイアと申します。マクガイア王国の第一王女です」


 村人たちはどよめき、慌てて頭を下げる。

 俺も一応、軽く会釈しておいた。大人対応だ。えらいぞ俺。


 王女。しかも第一王女。


 なるほど、確かにこの気配は普通じゃない。

 空気の張り方が違う。たぶん村長二千人分ぐらいのオーラがある。


 でも、俺が知ってる貴族の空気とは、どこか違った。


(命令のために来た、って感じじゃないな……)


「俺は、シルバー・ヴィンセント。

 人呼んで、銀月より舞い降りし片翼の光だ」


 名乗った瞬間、空気がさらに数度冷えた気がした。


 ルーシェの「……日刊二つ名」という呟きが後ろから刺さる。

 だが、当然聞こえないフリをして、俺はドヤ顔を維持した。


 何故なら俺は――やっぱりカッコいいからだ!(ドヤ顔)


 ◇ ◇ ◇


「あなたを、王都へお連れします」


 ラスティーナと名乗る王女は、そう言った。

 だけどその声には命令ではない、願いの色。


 誰かに言わされたわけじゃない。

 彼女自身が、俺に向き合っている。


 その目を、俺は知っている。

 孤独と誇りを抱えた誰かの目だ。


(――悪くない)


 俺は、銀糸を指に巻きながら思った。


 村の支度は静かに進み、誰も俺を止めなかった。

 さっきまで『神に逆らった子』を見るみたいな空気だったのに、今は、

 何となく――送り出そうとしている。


 ラスティーナは少し離れたところで、また呟いた。


「今朝の銀糸……どうしてあんなに美しかったんでしょう」


 誰にも向けてない、独り言みたいな声だった。

 でもその声を、俺はちゃんと聞いた。


 あれは、ただの銀糸。だけど、たぶん――


 ほんの少しだけ、誰かに伝わった瞬間だったんだと思う。


 俺は無言で空を仰ぎながら、銀糸を手繰り寄せる。

 王城。国。戦い。運命。まだ何も知らないけれど。


 だけど、きっと。これもまた、悪くない物語の始まりなんだと思った。


 静かで眩しい村の朝だった。


 ◇ ◇ ◇


 王族用馬車の前で、ラスティーナ王女が静かに待っていた。

 王族らしくない控えめな立ち方――だけど、絶対に目を逸らさない。

 そんな不思議な強さが、彼女にはあった。


 一方俺はというと。


「じゃ、行ってくるわ。ちょっと王都で喋って、偉い人にぺこっと頭下げて、それでサクッと帰ってくるからさ!」


 超軽いノリで、ルーシェに向かって親指を立てていた。


「……旅行か何かのテンションなの?」


 ジト目で睨むルーシェ。

 怒ってるというより、本気で呆れてる感じだ。


「いやいや、王都だぞ? まあなんかこう王様に『お主、中々やるな』って言われるだろうから『あれ? 俺また何かやっちゃいました?』とか言って、惜しまれつつ帰ってくるパターンだろ?」


「……その発想、すごいわ。逆に感心する」


 ルーシェは小さくため息をついた。

 けれど、それ以上何も言わなかった。


 代わりに、ポンと俺の胸を軽く叩いた。


「無茶しないでね。あと、帰る時はちゃんと生きて帰ってきなさいよね」


「当たり前だろ。俺様だぞ? 銀月より舞い降りし片翼の――」


「はいはい、わかったから早く行きなさいこの日刊二つ名が」


 ぴしゃりと切られた。

 でも、その口調はどこか優しかった。


 ラスティーナ王女も、それを見て微笑んでいた。


 俺は、最後にもう一度だけルーシェを振り返る。


「ちゃんと帰ってくるから」


 今度は、ドヤ顔も、冗談もなしで。


 ルーシェは何も言わなかったけど、頷いた。

 ほんの、ほんの少しだけ、顔を背けるみたいにして。


 ラスティーナがそっと手を差し出す。

 白い手袋越しじゃない、素手の手。


「では、王都へ。――一緒に」


「任せとけ。伝説、作ってやるさ」


 俺は、その手を軽く叩くように握り、馬車に飛び乗った。


 馬車の車輪が、ゆっくりと動き出す。

 村の空気が、じわじわと遠ざかっていく。


 ルーシェは、ただそこに立ったまま、

 でも確かに俺に向かって手を振った。


 その手を見ながら、俺は小さく呟く。


「……何だかんだ、良い村だしな。すぐに帰って来るさ」


 そう思いながら、俺はまだ知らなかった。


 この旅が、どれだけ長く、どれだけ痛く、どれだけ大切なものになるかを――

あとがき


 ここまで読んで下さってありがとうございます。

 舞台は動き始めました

 良かったらコメント、フォローしてくれたら星関係なく、自分も舞います。

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