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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
し 第一部 五章 最低の星
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第五章4『まだ見ぬ、最低の星』

 ※シルバー視点――マクガイア城下町。

 不思議とどこか爽やかな見送りの空気。


 城門の前、朝の光に包まれながらディオンは無言で馬にまたがっている。

 そして周囲に指示を出しているセリア王女に背を向け、背中越しにそっちへ指を差し、こう爆弾発言をしてくれる。


「あれ、一応儂の婚約者という事らしいんじゃが……はぁ」


 その一言を聞いた瞬間、俺の中で何かがパチンと弾けた。


「何だと!? 貴様あのセリアとやらの王女の胸をこれでもかとねぶって、うらやまけしか――あ、ルーシェにラスティーナ王女……」


 次の瞬間、俺の尻に左右から手がめり込む。


 右からルーシェの指がコインを曲げるんじゃないかってレベルの角度で、尻をつねり上げる。


 左から王女の微笑みとともに添えられるのは、鉄爪のごとき痛み。

 そもそもこの人の爪、何でできてるんだ? 鉄? 星鋼?


 どちらも表情は朗らかな笑顔。

 しかしこの場で俺のビューテホーな尻だけは笑っていなかった。


「気を付けて下さい、無事に帰れますように」

 ルーシェは、にこやかに。


「まあ! 王女と騎士の恋なんて……素敵ですわね」

 ラスティーナもまた、完璧な王族スマイル。


 同時に何故か俺に尻から回復の蒸気が静かに漂い始める。

 俺は、黙って空を見上げた。


 最後にあのディオンに。

「よ、よく判らんのじゃが……その、頑張るのじゃぞ?」


 と気を遣われる始末。


 ――ちなみに、まだ尻は拘束され、治癒の蒸気はまだ上っている。



 ◇ ◇ ◇

 会議室は静かだった。空気が一段重たい。


「さて――本題に入るわよ」


 ナディアの姉御がそう言いながら、分厚い書類の束を机に置いた。

 トン、と控えめなのに妙に重い音が響いた。

 ヨルグが横で記録帳を開き、ペンを走らせる準備を整える。


「まずシルバー。君をバカにする訳じゃなく過去の歴史から評価すると、君の星ギグ・マーガはこう評される――先人曰く『最弱の星』とね」


 まあこれまで散々戦いに使えないだの、仕事で例えたら何らかの納期前に、何でお前お仕事辞めちゃうの? みたいな社会人不適格の極みのような星である。


 ちなみに個人的には『闇銀月の夜に瞬け仇星』を推したいのだが。

 意味は不明、だがとりあえずニュアンスだけで推したい。


 そんな事を考えていると、更にナディアの姉御は、更に語る。


「話すのは『最低の星――エセイ・マーガ』について」


 その名前だけで、ラスティーナ王女のまつげがぴくりと揺れた。

 ルーシェも、腕を組んだまま、視線だけで空気の流れを警戒している。



「この星の恩恵は『生活習慣病リスク向上』」



 ナディアはさらりと告げた。


「………………は?」


 思わず間抜けな声を発してしまう俺。

 何か……あれ? イメージ違うな。


 最低とでもいうから、その、こう……。

『周りの女性の握力や指先の力、つねる力をゴリラ並みにする』

 とか……ああ、既に両隣がゴリラ並みだった。


「右手限定。『マーガの星の民限定』で、握手をすると高血圧や糖尿病、動脈硬化のリスクが一気に上がる。放っておくと日常生活にも支障が出るくらいね」


「でも、それでも『病気を運ぶ星』って印象だけが一人歩き。

 昔は今ほど医療も発展してなかったし、呪いの手なんて呼ばれてたくらい」


 ナディアの声音は淡々としていたが、その目だけが少し鋭くなっている。


「実際は一般人には何の影響もないのに手袋を強制されたり、挙句にはマーガの星関係なく『握手したら死ぬ』なんてデマもあったのよ」


 ナディアの姉御は椅子の背もたれにもたれ掛り、室内に木の軋む音が響く。


「最低の星って呼び名はただの評価じゃなくて、そういう差別の名残でもあるの」


 俺は小声でつぶやいた。


「……言い方は悪いがその、地味じゃね?」


 ルーシェがうなずき、姉御は否定せず無表情のまま。

 ヨルグだけが地味という言葉をメモしようかどうか迷っているのかペン先が泳いでいる。


「地味だけど最低。発症した本人は何が原因か気づかないことが多い。

 考えてみてね。まずその星の持ち主が――

『初めましてエセイ・マーガの星の者です、これから握手しましょ』

 なんて言いながら接触すると思う?」


 確かに俺の場合、街中で仮にだが――。


『キャー! 銀月の君だわ! 握手してください!』


 なんて言われた日には、決めポーズのまま握手どころか抱きしめてキスまでしてしまうかもしれん。


 しかし美人限定だ、この時点でかなり絞れるな。

 フッ……残念だったな最低の星の民よ。


 するとナディアの姉御は少しだけ視線を俺に向けてくる。


「……だからこそ他国も同様、マーガの星と国家、そして政治も戦いが始まった以上、完全に一体化して動く。特にこのエセイ・マーガ。

 人呼んで――『最低の星』だけど各マーガの星の中で、唯一エセイ・マーガに対し例外がいる」


 ナディアの言葉が、会議室の空気をさらに重たくする。


「いくらでも接触しても『バカは風邪ひかない理論』で何の影響もない。

 それが君。ギグ・マーガの星の民である貴方よ」


 すると何故か視線がギュンと鋭くなるナディアの姉御。

 ちなみに、ヨルグは何故か「ちょっとお手洗いに……」である。


「貴方の身体は成長はするけど、生活習慣病も風邪も、二日酔いも無い。

 食べ過ぎても太る事は無い、甘いものは食べ放題、炭水化物は飲み物だ、風呂の代わりに赤ワイン上等。

 仮にこれだけやっても、健康体。何なの貴方、馬鹿なの? 阿呆なの? 喧嘩売ってるの?」


 何故かその発言を聞いた、ルーシェにラスティーナ王女も俺を少し睨むように見据える。


 実にとばっちりである。


 俺はまたしても、何とも言えない表情で天井を見上げた。

 それが誇らしいのか、恥なのか……今は、判断がつかなかった。


 だが何故か、少し尻が疼くのだった。

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