第五章3 『その胸に誓え、銀月の名を』
※シルバー視点――マクガイア城下町。
人と人が出会うってのは、もっとこう……
言葉とか、空気とか、最低限の秩序ってもんが必要だと思う。
名前を名乗って軽く挨拶して。
目を見てお互い人間なんだって確認する。
それが、たぶん『文明』ってやつなんじゃないかと俺は思ってる。
そう、たとえばこんな感じ。
『はじめまして、銀月に闇衣を纏いし弓の君。
あなたの二つ名はとても詩的でアンニューイに素敵ね。一度お会いしたかったわ』
『光栄です。雷剣風と呼ばれるあなたにそう言ってもらえるとは。
……よければ今夜、ディナァでも如何ですか。』
そんな二つ名交換から始まる、平和な邂逅が、もっと一般的になってもいいと思うんだよな。
……まあ、俺自身そんな光景は見たことはないが。
でも理想くらいは持っていたい。
俺だって――ほんの数秒前まではそう思ってた。
先に断っておく。
面識はない。初対面だ。
断言できる。絶対に俺はこの女と会ったことはない。
念のためにもう一回言っておくけど、間違いなく初対面。
ついでに言えば、俺は二枚目の美男子のはずだ。
なぜなら銀月に闇衣纏いし弓の君――今俺が考えた、結構気に入ってる。
だからこれは、初対面。俺と君の記念すべき、第一声。
「殺ぉぉぉぉぉす!!!!!!!!」
……いやちょっと待って?
最近は馬車とか窓から落下とか星の煌めきも、マンネリ気味だなと思ってたけどこれは新手。
金色のロングのウェーブヘア。
銀の鎧を纏った高身長の美女が、全力の殺意で俺に突撃である。
騎士鎧がギィギィ鳴って、視線が直線的すぎて怖い。
「ディオンを辱めたな! 斬る!」
「待て待て待て! 話を聞こう!? まず対話からだろうが!
初めましてこんにちわああぁぁぁぁっ!」
ビュオッ!
俺の首を借るべく横一閃の剣がかがむ頭上を通り抜ける。
間一髪、腰をかがめ何とか切りぬけた。
――ちなみに……もう一度だけ言わせてもらう。初対面である。
「斬るって言ってるのが会話だ!!」
この人の話を聞かない感じ、間違いない。ディオンの関係者だ。
どうやら文明というものは向こうへ投げるすてるものなのかね。
何だろう……女騎士風ゴリラ?
俺はとりあえずその場から、逃げようと背を向けて糸を放とうとしたその時――
「何やっとるかお嬢」
声が落ちてくる。
逃げるべく背を向けた俺の背後――つまり彼女の背後から。
バゴンッ!!
拳が女騎士ゴリラの頭にクリーンヒット。
「あいだぁぁっ!? 無礼者っ、な、なにお……っ!?」
怒りながら振り返った彼女の動きが止まる。
そして彼女の視線がディオンの姿を見つけた瞬間、何故か真っ赤になって固まっていく。
当のディオンは、そんな視線をスルーして俺の方へ歩いてくる。
俺も自然と足を止めた。
構えず、手も出さず。
けれど互いに視線を合わせる。
それはただの挨拶でも、敵意の探り合いでもない。
マーガの星を持つ者同士――ギグ・マーガと、もう一つの星の民。
この地でマーガの戦いが再び起こってしまうのではないか。
その可能性がほんのわずかでも存在するなら、互いの星が無反応であることを確かめ合う以外に方法はない。
だからこそ、目を逸らさず静かに確認する。
星が起動していないことを――相手に敵意がないことを。
「大丈夫そうじゃな……」
「互いにな」
「まあ……何だかんだあの日の翌日も会っとるしな」
「……ったく、お前の無神経さには、ある意味笑えたがな」
そんな朗らかな二人の会話――その一瞬の後。
――ちなみに、もう一度だけ、もう一度だけ言わせてもらう。
この女騎士風ゴリラと、俺は初対面である。
「やはり、あのように熱く視線を交わし合うとは……そう、そうなのだなディオン。
あの噂――街中で全裸のまま縛り上げられ辱めを受け、そのまま心まで絡め取られ、肉体的に……女装モドキの変態銀色長髪野郎から離れられなくなったというあの話……やはり本当だったのかぁ……っ!
そんな、そんなの……ふ、二人とも殺すぅぅぅぅぅぅ!!!」
周囲の空気が凍りついていく。
この言葉の破壊力は尋常ではなかった。
兵士たちは目を見開いたまま動けず、衛兵の一人が反射的に後ずさった。
耳を塞ぐ者、祈る者、沈黙する者。
俺とディオンはまた目を合わせる。
そしてきっと同じ言葉を、心の中で唱えたに違いない。
『……なんで?』
やはり星は反応しなかった。
反応しなかった理由は……まあ明白か。
くだらなすぎる。
ディオンは疲れたように目を伏せる。
「……儂、もう国に帰れないのじゃが、この国に亡命して良いか?」
「何だ、今度は駆け落ちの噂でも巻き起こす気か?」
その瞬間――
「ぶっ、あははっ、まっ……待って、無理……っ」
ルーシェが腹を抱えて崩れ落ちた。
「銀月の弓、とか名乗ってたのに……なにその噂……ぶははっ、肉体的に……っふふっ、離れられないって……っあははっ!!」
王都の空に響き渡る笑い声。
今日の日刊二つ名:変態銀糸の祝牢インふんどし。
◇ ◇ ◇
マクガイア王国・政務棟、会議室。
「往来でその様な事を叫んではなりません! セリア王女!」
昔から面識があるのか年齢も近く、気心が知れているのかラスティーナ王女の語気がいつになく鋭い。
会議室の空気が静まり返る中、セリアは肩をぴくりと震わせていた。
セリアは肩を震わせるが目線は合わせない。
腕を組み、足を組み、背筋を正したまま。
「……済まない。ディオンに、そして……そこの銀色」
語尾だけが妙に刺さっていた。
というか彼女、絶対に反省してないな。
でも形式だけは完璧に整えてくるあたり、この子……ほんと大物になるわ、うん。
ちなみに胸は――金髪騎士姫の方が間違いなく上。
間違いな――
「……何か?」
ラスティーナ王女の氷点下の一言。
「いえ、セリア王女の心からの謝罪。確かに頂戴いたしました」
背筋を伸ばしながら、視線は逸らしておいた。
(セリア王女:突撃型。ナディア:評価不能。ルーシェ:抱擁属性……。
ラスティーナ王女は……ある意味シリアスモードというか……)
俺は会議室の片隅で星の未来ではなく、胸の未来を観測していた。
「――そろそろ、真面目な話をしても良いか?」
ナディアの姉御が放つひと言で空気が引き締まる。
「――同盟の件は了承した。
ただし返答は後日。本国へ戻りディオンの話を聞いてから決めたい」
セリアの言葉に場がうなずいた。
「護衛を連れてきたのも、彼を無事に連れ帰るためだ」
「その判断で問題ない」
ナディアが頷く。そして言葉を続ける。
「というのも――この国には、間もなく『最低の星』が到着する。
それ故、むしろ早めに一度この国を出ることをお勧めする」
会議室の空気が止まった。
未来を占う星の名の下で、この国に迫る新たな厄災の影。
――ちなみに俺はその時、周囲の女性陣の胸に関わる『属性』という概念についてじっくり再考していた。
いや……俺は俺で、頑張ってるよ? 本当に。
セリア・ハルメリオス
年齢:15歳
身長:168cm
髪の色:金髪ウェーブ
瞳の色:灰金色
体型:長身・鍛えられた身体
備考:表現は全て剣で語るタイプ。可愛いけど怖い。幼少期にディオンにこてんぱんにされ、それ以降好意を抱いている




