序章3 『星、銀に落つる日』
※シルバー幼少期(十二歳)視点――生まれ育った村にて
そしてさらに二年後、俺は十二歳になった。
この頃の俺はすでに長髪で、母と同じ銀色の髪色と質感を持っていた。
それが、誇らしかった。
そしてこの年齢は、村の誰もが知る通過儀礼――『星』を授かる年齢だ。
十二の歳を迎える者には、神に名を呼ばれ星を授かる儀式がある。
星の名と共に、その者の未来の役目や性質が定められる。
……らしい。
正直、細かい仕組みは知らないけれど、なんかカッコいいってことなんじゃないか、そんな考えを当時は持っていた。
星を授かるその日、村の教会の中は、緊張と祝福に包まれていた。
そして俺は――最後列で脚を組んでいる。
腕組みをし、視線は斜め上。無駄にポーズをキメながら。
「ねぇシルバー……お願いだから普通にしてくれない?」
隣から、ルーシェの呆れ声。けれど俺は気にしない。
鼻で小さく笑い、静かに宣言した。
「ふっ……ついに、俺の時代が始まる」
「来てないよ。むしろ今、終わってるよ」
スルーだ。今日だけは、誰の言葉も耳に入らない。
何かすごいことが起きる。そんな予感か願望か、そんな未来を描きながら。
――今思えば、それが一番の勘違いだった。
◇ ◇ ◇
祭壇の前で、神官が名を呼び、順に星の光を授けていく。
「アーネスト・トゥルーディアス。星の名は、学者」
「リセア・カルミナ。星の名は、記録者」
淡い光が降り、子どもたちはそれぞれの星を静かに受け取っていく。
村人たちは神妙な面持ちで見守っていた。
俺の胸は、高鳴ったまま。
そしてようやく、自分の番がきた。
「シルバー・ヴィンセント」
名を呼ばれた瞬間、空気ががらりと変わった。
俺はゆっくり席を立ち、歩く。
背筋を伸ばし、世界に見られているような足取りで。
視線の端で、ルーシェが「ほんとやめて……」と小さく呟く声。
――もちろん聞かなかったことにする。
祭壇に立ち、目を閉じ、胸の前で手を組む。
(俺の願いは、白銀の騎士か、せめて銀雷の戦士あたり……。
まあそんな星があるかは知らないがな!)
ステンドグラスから光が差し、空気が張り詰める。
現れたのは――白髪ローブの、明らかに禿げたおっさん。
ステンドグラスから光が差し込み耳鳴りのような震えの中、それは現れた。
白いローブ。長い白髪と髭。そして見事なハゲ頭。
……まごうことなき、神。
そんな事を考えていると、不意にそのハゲ、もとい神が語り出す。
『汝にギグ・マーガの星を与える』
――む? 銀色の騎士は?
『ギグ・マーガ』
だがその響きに俺の周囲、教会内の空気が凍っていくのを感じていた。
神官たちが顔を見合わせる。
老神官が立ち上がりかける。
「マーガ……じゃと」
ざわめく空間。
でも俺は、何が起きているのか、よく分かっていなかった。
「ギグ? 何それ? 新種の魔法?」
小声でルーシェがつぶやく。
彼女も知らないということは、これは本当にレアなやつなのかもしれない。
俺の中で何かが弾けた。
――つまり、それってすごいやつってことだよな!?
神はこちらに視線を向けつつ、語り続ける。
『その身は傷ついてもたちどころに治る、言わば不死身の肉体となる……。
だがその対価に災厄が降る。転倒、殴打、衝撃、爆発、破砕……女難』
「……おい、後半に明らかに地雷ワード混ざってたぞ?」
とっさにそう返した俺に、ルーシェが絶望の顔で首を振った。
『それでもなお立ち上がれる者にのみ、価値がある』
……この時、俺はこう思った。
(説明下手すぎんだろこの神!!)
シルバー・ヴィンセント十二歳。
ここにギグ・マーガの星の民、爆誕。
◇ ◇ ◇
『授与は完了。儂は戻る』
神がふわりと浮き天井へと、光のもとへ昇りはじめる。
だが、そうは問屋がなんとやら。
俺は恭しく、昇り始めたハゲ神の白いローブをそっと掴み声を掛ける
「おお、お待ちくだされ荘厳なる、そして偉大なる神よ」
俺はローブの裾をぎゅっと掴み、そして――。
そのままカーテンを引きちぎるように神を地面に叩きつけた。
『ぬふぅーーーーしっ!!!』
地面に叩きつけられた、ハゲ神の叫びが教会内に響き渡る。
そんな風景を前に、教会内は更に凍りつき、数人の面々が震え始めていた。
というか、あの老神官の震えは、そもそも以前からだ。
俺はしゃがみこみ、倒れた神に静かに話しかけた。
「……ねえ、神様。
災厄って、何? 具体的にどうぞ、説明責任を。
神のくせに髪だけじゃなく、言葉も足りないってどういうこった」
「爆発とか破砕、とか、今さら怖い単語並べないでくれる?
というかそもそも女難って何?」
神はうめくように起き上がり、低く呟いた。
『いずれ判る。マーガの運命からは逃れられぬ』
「ちょっと待てハゲ茶瓶! おい待てチャビンガー!」
絶叫する俺をよそに神は再度、宙へ昇り始める。
――少し前かがみになり、腰に手をあてながら。
この世の理不尽を。
大人の、神の説明放棄をこんな可愛い『十二歳の俺』に見せつけながら、神は光の中へ消えて行った。
……あと数回、叩きつければ良かったか。
◇ ◇ ◇
神官が顔を青くして控え室へ逃げ去る。
村人たちはざわざわと席を立ち始める。
ルーシェが隣に立って、そっと俺の袖を引いた。
「ねぇ……ほんとに、何だったの? ギグ・マーガって」
「俺にもよく分からんけど、なんか強そうじゃね?」
「……不安しかないんだけど」
彼女の声は小さく震えていた。
俺はそっと息を吐き、祭壇の中央で手を見つめた。
光の名残が、まだ指先に残っていた。
「俺は、すごい星を授かった」
誰に言うでもなく、ただ独り言のように俺の口から言葉が漏れる。
背後で、ルーシェが長く小さく溜息をついた。
「はぁ……また始まった」
けれど、もう始まってしまったのだ。
星が宿った以上、物語は止まらない。
――そしてこの日の出来事は、後にこう語られることになる。
『神を引きずり落とし、地に叩きつけた少年』
俺の物語は、こうして幕を開けた。
◇ ◇ ◇
――ちなみに俺はその帰り道、
星の『災厄』ってやつを、さっそく体で知ることになる。
曲がり角で、荷馬車に正面衝突した。
「ぎゃあああああああっ!!」
盛大に吹っ飛び、三回転半して着地。
派手な着地の割に、運よく生きてた。
もちろん痛い。滅茶苦茶に痛い、死ぬほど痛い。
「シルバーーーっ!? し、死なな……え、煙出てる!!」
「いやああああああああ!! 湯気出して歩かないでぇぇぇ!!」
村人たちの悲鳴が飛び交う中、俺はボロボロになりながら思った。
(……これが、災厄、ってやつか)
石畳に転がったまま見上げた空は、今にも吹き出しそうな顔をしていた
いや、マジで笑ってるんだろうなあ、あいつら。
あとがき
ここまで読んで下さってありがとうございます。
星の運命が動き始めました。
良かったらコメント、フォローしてくれたら、星の恩恵により、ウチのカーテンが引き裂かれます。




