表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 四章 激闘
29/38

第四章6『白くて、少し大きなシャツ』

 ※リヒト・フリード視点――テオブルグ帝国

 僕の父さんが病気で亡くなったのは、僕が九歳の時。


 長い長い、闘病だった。

 そんな闘病生活の最中も、母さんはずっと無理をして笑ってた。


 弟は事情がわかっていないのか、わかっているのにわざとなのか、妙に元気で変な踊りを毎晩やっていた。

 妹は父さんの毛布を抱えて離さなくなって、夜中に何度も泣いてた。


 最初のうちは誰も泣かなかった。

 家の中の空気が少しだけ薄くなって、少しだけ静かになった、それだけだった。


 でも、ある日――母さんが洗濯物を干していたとき、急に立ち止まる。

 風に揺れるタオルの陰で、しばらく顔を俯かせたまま。ただ静かにうずくまるようにして、動かなくなった。


 日差しが強かっただけだよ、と後から母さんは笑っていた。

 けれど僕にはわかった。


 あの時、母さんは――泣いていた。


 あんなふうに泣く母を見たのは、あれが初めてだった。


 そんなやり取りの中、母さんはすぐに立ち上がり洗濯物干しを再開する。

 それ以降、僕の前では一度も泣かなかった。


 弟の変な踊りも妹の泣き顔も、時と共に少しずつ消えていく。

 父さんの席もそのままだったけど、誰も触れないままに。

 食卓だけが、以前と同じように続いていた。


 そして今――僕はここにいる。



 ◇ ◇ ◇

「今回の目的は、能力上昇値の定量化だ。発現後――母親の死以降、な」


「ショーネ・マーガの星か……フン、まったく面倒な星をあてがわれたものだな。

 確か『大切な人を目の前で失った』ときに反応する星だったか」


「ああ。感情ではない。喪失そのものが条件だ」


「対象の精神状態は?」


「安定している。今朝から一言も発していない」


「戦闘対象は?」


「死刑囚。制限解除済み。武装あり。構えを取ってから開始させる」


「……充分だな」



 ◇ ◇ ◇

「第一戦、完了。次、準備――投入!」



 確か、妹弟が七歳の時だったか。

 僕の白いシャツを着たがって、妹弟で取り合いになったことがある。

 何でもないシャツなのに、最終的に胸のボタンもひとつ外れていて、袖も伸びきってた。

 そして、夜中に母がこっそりとボタンは直していてくれたっけ。



「第二戦、構え確認! 開始!」

「え?――斬られた!! 今、確かにこっち向いてただろ!?」

「いや、待て、動いた……速すぎて、踏み出した音が遅れて聞こえたぞ」

「お、おい! そっち側から何か見えたか!?」



 誰もが、何故かそのシャツを着るだけで、幸せで嬉しそうだった。

 だから、僕も黙って譲った。

 何も言わずに、袖の伸び切った僕のシャツを。



「第三戦、構えよし! 記録班、測定中――」

「移動、目測不能! 死刑囚の視界が追いついてない!!」



 母が小さく笑っていた。

 黙っていたけど、洗濯籠の下に同じシャツをもう一枚、置いていた。



「第四戦、投入完了! 構えよし……っ!」

「……まただ。構えた瞬間、あいつが消えてる。

 直進じゃない。斜めから回り込んで……いやあり得ない角度から斬ってる」

「移動が、そもそも『線』じゃない……『面』か? どうやって――」



 幸せな時間。

 そういえば母の作った豆と肉の煮込み、その肉の大きさが、やれそっちが大きいだの、そっちのほうか脂身じゃなく赤肉の部分が大きいだので、妹と弟が喧嘩をした事もあったな。


 その後、何だかんだしれっと一緒に遊んでいるんだもの、双子ってのは不思議なもんだ。



「第五戦、開始! 構えよし! 斬撃確認!」

「もはや人の動きじゃない。

 剣が意思を持っているみたいに……あれ、本当に人間か……?」

「いや、動きながら斬っているんじゃない。あの少年そのものが剣になってるんだ……!」



 記憶の中で、あの白いシャツが風に揺れている。

 少しだけ、洗剤の匂いがしていた。でもその匂いはもう思い出せないけど。


 そういえば、あんな事もあった、妹と弟が――



「第六戦、開始準備――」

「……あ、あいつ……斬りながら笑ってる……?」



 ◇ ◇ ◇

「測定終了。反応値、異常域。記録継続中。……全戦闘完了と判断していいな」


「妥当だ。あれ以上の連戦は意味を持たない。

 ……というより、被験者側の変化を抑えたい」


「次の手筈は?」


「グレイジア諸侯領。向こうの星の民とで、初の直接接触になるだろう。

 ここで得られたデータは、その場で使われる」


「冗談だろ。これ、普通の段階でこの動きだぞ?」


「……あれでシリアスモードになったら、あの小僧どうなるんだ?」



 ◇ ◇ ◇

 父さん、母さん安心して。


 僕、ちゃんと弟と妹のことを忘れるからさ。

 ちゃんと何もかも忘れるように……頑張るから。


 きっと僕が忘れたら、テオブルグ帝国は妹と弟に手を出しても意味が無いと判断してくれる筈だから。

 ※参考までに

 ◇ ◇ ◇

 リヒト・フリード(ショーネ・マーガの星の民)

 所属国:デオブルグ帝国

 年齢:16歳前後

 身長:162cm

 髪の色:青(短髪)

 瞳の色:灰色(死んだような光)

 星:ショーネ・マーガ

 備考:家族を人質にされ、帝国の戦力強化実験の被験者として扱われている。


 ※ショーネ・マーガ詳細

 恩恵内容:大切な人を目の前で失う度に、能力・肉体が強化される。

 発動条件:喪失という極端な感情トリガー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ