第四章5『これもまた決着』
※シルバー視点――マクガイア王城屋根、夜時。
ディオンは、しばし黙ってこちらを見ていたが、
やがて静かに息を吐き、わずかに口元を緩めた。
「……儂は何に負けたのか、先程まで理解が出来なんだが」
低く、どこか楽しげな声音だった。
そして、俺の方へと軽く顎をしゃくる。
「これも、またマーガの戦いか……なるほど、中々に面白いものよ」
俺は少し驚きながらも、微笑み返した。
互いに星を持ち、戦い、生き残った者同士。
その一言だけで十分だった。
「……ああ」
ディオンは最後にひとつ、豪快に笑う。
「ブハハハハハハ! やはりアホじゃのう!」
そう言い残し彼はくるりと背を向け、夜の奥へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
……ところがどっこい、残念ながら俺はすかさずディオンを呼び止める。
「おい、ディオン」
「ん? なんじゃい」
「……あーそもそも君、不法侵入だから、な?」
ディオンはぴたりと立ち止まり、わずかに首を傾けた。
そんなディオンの周囲にばたばたとマクガイアの兵が集まる。
「む? どういうことじゃ!」
「いやいや、国境単独無許可突破、この城壁よじ登り王宮裏庭侵入。
おまけに俺と大暴れして瓦礫とクレーターまで残して去ろうとしてるよな?
これどう考えても……普通に犯罪だぞ?」
「ぬ……儂は堂々と来たつもりだったが……」
「堂々と来れば合法になると思うなよ!」
俺が深くため息をついたその瞬間、低く静かな声が横から差し込んできた。
「……ちなみに、シルバー。お前の切り裂いた木もあるからな。
互いにやりたい放題しやがって……。
まあ一応生き残ったって所は……俺は褒めてやりたいがな」
振り返らずともわかる。マクレーン教官だった。
「……ぐっ」
夜空を見上げる。星々は黙して語らずただ冷たく瞬いている。
この空の下で、俺たちはとんでもない迷惑を撒き散らしていたらしい。
だが、それもまた、マーガの戦いの余韻か。
そんな達観をしかけたとき、左右から肩にずしりとした重みが乗る。
「……シルバー? もういいよね?」
「……少し話がありますわ、シルバー様」
左からルーシェ、右からラスティーナ王女。
二人の圧力が俺の両肩を容赦なく掴む。
ぎりぎりと、問答無用の力加減だ。
「いやいや、これ一応、正当防衛の延長線で……」
「そう……でもとりあえず、もういいよね?」
「……あっちが、ルーシェさんがたまたま、近かっただけですよね?
何で答えないのですか? 偶然という一言で宜しいのですよ?」
……もはや弁明どころか、俺の反論も何もない。
ついでに王女は俺に返答の強制すらしかねない。
あの星の瞬き。
間違いない、ギグ・マーガの星も今ごろ大爆笑だろうなあ。
そして俺は、ただ静かに悟った。
――今夜の運勢はきっと、女難絶好調。
ちなみに、未だにナディアの姉御は腹を抱えて転げまわっている。
◇ ◇ ◇
◇ 星局管理日報 ◇
発行日:〇年〇月〇日
記録部署:中央星局・特別観察課
提出先:局長官房/王城直属戦略部門
【局長所見】
記載者:ナディア・カーヴィエル(星局局長)
も で
にゅ シリ
アス かいじょて
※本書面は提出形式に則り受領されましたが、所見記述中に筆跡の著しい乱れが認められ、記載内容の判読が困難な状態にあります。
内容の明確化を目的とし、所見欄の再記入および文書の再提出を求めます。
※局長、嬉しいのは理解しますが、腹抱えて笑いながら書類書かないで下さい、文字が読めません。
差し戻し担当:星局観察記録官 ヨルグ・フェンブラッド




