第三章5 『名も交わさず、ただ斬る』
※シルバー視点――マクガイア王城屋根、夜時。
風が紅を編んでいた。
纏うでも、押しつけるでもない。
ただ静かに――夜の帳をすくい取るように。
王城の屋根、その最も高い棟の上。
夜は深く、空は墨を流したように黒く沈み、星々は静かにまたたき、ただ一つ、白い月だけが寄り添っていた。
その下で、俺は糸を舞わせている。
左足を瓦にそっと添え、右足で風を踏む。
腕を撓ませ、腰を切り、旋回する動きは舞踏のように軽やかに。
指先の糸が月光をすくい上げ、紅い弧を描く。
王女がくれた紅の銀糸は鮮やかさよりも深さをたずさえ、闇に溶ける。
それでも静かに、夜を割く力を持っていた。
触れれば切れそうな繊細さを宿しながら、どこか血のような体温を滲ませる、静かな命。
その軌跡を描きながら、ずっと自分の胸の奥に言葉にできない気配。
夜風の温度がどこか違う。空気の流れが微かにざわついている。
まるで、何かが近づいていると、糸が先に気づいているかのように。
俺はその紅を指先から腕、背へと流し、最後に中指と薬指に絡める。
軽く風を撫でるように指を弾く。
それが――俺の舞いの終わりの合図だった。
◇ ◇ ◇
その瞬間、風が息を潜める。
夜の空気がきしみ、見えない何かが緊張で震えを奏でるように。
月光を滑る視線の先、王城裏庭の石畳に――剣を携えた一人の男。
鉄製の鎧を纏い、剣を帯び、顔を晒し、こちらをまっすぐに見上げたまま。
名は知らない。だが分かる。
あの日、王都の裏路地で互いに日常会話を交わし同じ風景を見ただけの――。
俺が『剛剣』と呼んだ、あの男。
言葉にできない。憎しみや何かの感情でも、ただの敵でもない。
ただ、いつからか――『知っていた』
今宵、何かの星と出会う事を。
(……そうか、やはりお前だったか)
互いに言葉を必要ともせず、また名乗りも問答も、何も必要なかった。
それよりも先に、俺たちの内に宿る、マーガの星が互いを引き寄せてる。
マーガの星――洗礼の際にこの身に刻まれた、魂の欠片たちが静かに共鳴する。
視線と呼吸、重心の落とし方、空気の震え。
それだけで、すべての了解は成されていた。
戦いはもう始まっている。
星がそれを望んでいる。
◇ ◇ ◇
俺は、膝をわずかに曲げ指先で紅の糸を引く。
夜空に細く、しなやかな線を描きながら、屋根の端から庭へと滑らかに伸びていく。
その銀糸の道に、俺は迷いなく足をかけた。
再び風が吹き始める。
だがそれは、舞いを運ぶ風ではない。
血の匂いを含み、夜の静寂をぎりぎりと揺らす風だ。
俺の銀糸が月光を裂く。
その細い道は、夜そのものを斬り開く刃――俺はその刃を踏み抜く。
相手のあの男もまた、己の大剣に手をかけ一歩を踏み出す。
沈黙と共に、ただひとつの動作ですべてを語る。
言葉はない。
名も、交わさない。
ただ、月明かりの下で。
ただ、この瞬間に、すべてを懸けるだけ。
紅の糸が空を走り、剣が鞘を離れる。
銀と紅、それと剛剣。
それぞれの軌跡が、互いの背負う夜を切り裂く。
――風が、音を切った。
互いの足が、同時に地を蹴る。
一瞬。たったそれだけですべては始まっていく。
この星が選び取った――宿命だった。
◇ ◇ ◇
※ディオン視点――マクガイア王城裏庭、夜時。
気づけば儂の脚は、この石畳を踏んでいた。
誰に呼ばれたわけでもない。
だが、確かに『ここへ向かえ』と促されるような感覚。
星の導きかとも思ったが……そのような小奇麗な言葉とは違う。
もっと曖昧で、もっと濁った名のない衝動。
――けれどあの者の姿を見た瞬間、儂は静かに悟る。
ああ、これが『星同士は引かれ合う』ということかと。
夜風がわずかに揺れる。
儂は裏庭の石畳に立ったまま、静かに屋根の上の奴を見上げる。
王城の屋根、高き棟の頂き。
そこにひとり、銀糸を操る長い銀髪の男が舞っておる。
あの日、儂が『銀糸』と呼んだ、あの長髪の男。
紅を纏い、夜を裂くように。軽やかにして淀みなく。
星の下で月の光を背負いながら、あいつは指先から紅の線を描いていく。
……美しかった。
だがそれは飾りではない。
そしてあれは……舞うためのものではない。
あの糸は――夜を斬るために在る。
糸など玩具と思っていた、だがあれは違う。
動き、重心、間――斬り合いの呼吸でしか見えぬものを、あいつは備えておる。
儂は今知った。
あの日王都の裏路地で渡り合ったときから――
『マーガの星同士は引かれ合う』
その言葉の意味と、マーガの星同士の引力を。
あの銀髪の男の何かの『マーガの星』
そして儂の持つ『ギ・ガ・マーガの星』
本来なら相容れぬはずのもの。されど今は星が、波が。
そして互いを引き寄せ交わい、互いを裂こうとしておる。
そしてそれは敵意ではない。憎しみでもない。
――ただ、定めだ。
この夜に『戦わねばならぬ』と――星が告げておる。
◇ ◇ ◇
棟の上の男が、最後の一歩を踏み出す。
指が振るった紅が、夜空に弧を描く。
それを見て儂は静かに、剣に手をかけた。
鞘に眠る刃が、月光を映してわずかに震える。
一歩、前へ。
重心を落とし、呼吸を夜に溶かす。
言葉を求めぬままに、名乗りも求めぬままに。
ただ互いの星が共鳴し、この夜に答えを刻む。
生き残るか、討たれるかそれだけじゃな。
自然に儂の口元に、笑みが零れる。
――この戦場、斬り合うに値する。
星の理、そして儂の理、それがたまたま重なっただけの些事。
地を蹴ったのは、互いにほぼ同時であった。
紅の糸が夜を裂き、剣が月を断つ。
交差する影。一瞬が、すべてを呑み込んでいく。
空気が悲鳴を上げ、石畳が軋み、風が後ずさったまま。
――夜が震えた。
※参考までに
◇ ◇ ◇
主人公
◆【マクガイア王国】
シルバー・ヴィンセント
年齢:16歳
身長:178cm
髪型:銀色(腰くらいまでのロングヘア)
幼少期は編み込んだりされてた、しかし今はケアはしっかり行うが編み込みはしない(恥ずかしい)三つ編みされた事もある(ルーシェ)
瞳の色:灰銀色
体型:細身の筋肉質
星:ギグ・マーガ
※ギグ・マーガの星詳細
恩恵内容:肉体の自己再生能力を持つ。高所落下や爆発でも死なないが、痛みは伴う。
シリアスモード:再生能力が完全に停止。痛いし泣きたいしついでに普通に死ぬ。
◆【ハルメリオス騎士国】
ディオン・バルザス
年齢:16歳
身長:185cm
髪型:黒(老け顔+髭面)
瞳の色:黒
体型:筋肉質
星:ギ・ガ・マーガの星
備考:一見老け顔なため年齢詐称疑惑あり。
※ギ・ガ・マーガ詳細
恩恵内容:シリアスモード突入時に、他の星の民のシリアスモード上昇値よりも身体能力・戦闘力が大幅上昇。一撃の重みが変質する。元の能力も相まって最終的に破壊神レベル。星の価値としては当たりに近い。




