表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 二章 引かれ合う星
18/41

第二章4 『名乗らぬ者たち、動きは既に』

 ※シルバー視点――マクガイア王都星局 

 マクガイア王城の廊下は、夜だからか異様に静かだった。

 石の床が俺の靴音を響かせるたび、妙に場違いな音を立ててる気がして、つい歩幅を狭めてしまう。


「報告、本当に大丈夫?」


 横を歩くルーシェがちらりともこっちを見ずに言った。


「いや、そこまで失礼なことしてないんじゃ」


「よろしくふんどし」


「……反論できない」



 ◇ ◇ ◇

 星局執務室の扉が開き、重々しい空気を一気に身に浴びる。

 奥には、星管理官と軍務長官。


 そして――


「うわ出た。バインバインの女上司」


 星局のナディア・カーヴィエルが、静かにこちらを見つめている。

 なんとなく、あれは見ているというより『査定』しているかのような目。


 冷静で整った顔。

 髪は後ろでゆるくまとめ、眼鏡の奥には油断したら書類にしてあげる、というような妙な圧と色気を持っている。


 そして制服。

 星局特注のお堅い制服の筈が、妙にやる気のない留めボタンによりどう考えても胸の主張を隠す気がない。


 正に『師匠』って感じだ。


 ルーシェの肘が軽く俺の脇腹を突く。

 とりあえず、ルーシェの胸元にも目をやる。


 フッ……まあ『ライバル』として扱ってやるか。


「目線をそこに固定すな」


「いやいやいや、ふんどし見た直後にこれは……ギャップがなぁ」


 そこへ既に室内にて待っていたラスティーナ王女が、俺への労いの声を掛ける。


「おかえりなさい、シルバー様」


「……ああ、ただいま」


 すっとラスティーナ王女の胸元に目をやる。

 とりあえず、素通りしておいた。


 とはいえ、ナディアの姉御には何だかんだ四年もお世話になっている。

 俺からすれば、そりゃ何時の間にか顔なじみにもなる。


 星の記録とか制度とか『あっち側』の話になると必ず顔を出す人。

 言葉選びは丁寧だけど、内心では何手も先を読んでくるタイプ。


 ついでに言うと年齢の話はタブー。

 ちなみに昔、俺の方からその話を持ち出し、無表情の姉御に思いきり窓から外へ放り出され、更に追撃の重めの卓を投げられた記憶が残っている。


 ちなみに俺の即死状態から、ギグ・マーガの星の恩恵による復活にまでかかった時間、最長時間を保持者の女性おにである。


「遅くなりました、報告に」


 ルーシェが頭を下げ、俺もそれに倣いつつ、今度は俺の方から報告を開始する。


「妙な男に会ったとだけ。名乗らず敵意も見せず。

 けれど、ただの通りすがりとは思えない。

 不思議と居心地の良い会話ができたかな……変な話だけどそんな感じだ」


「君がそう感じた理由は何かしら?」


 ナディアの姉御が問いかけてくる。

 その声は静かに、でも絶対に嘘を許さない響き。

 俺は少しだけ考えてから、答えた。


「多分、息が合ったってやつ。言葉じゃなくて間合いとか。

 なんというか……戦うわけじゃないけど、同じ場所に立ってるって感じ」


 ナディアの姉御は小さく眉をひそめた。


「しかし、隣国のマーガの星の民たちは、現在『沈黙中』との報告ね。

 もしも本当に動いているとすれば、それは……異常事態と呼ぶべきかしら」


 ナディアが、机に手を添えて言った。


「歴史的に通常、マーガの星の民は国家の管理下に置かれる。

 特にこの状況下で本来、単独での行動はあり得ない筈なのだけれど」


 そう、常に監視の目が光り満足に単独行動すら許されていない筈。

 そんな思いから、俺は姉御へ質問する。


「つまり、本当に一人で動いていたのだとすれば、本物の規格外の可能性が?」


「そうね……基本的にどの国に何のマーガの星の民が降りて来たのか、基本的にはマーガの戦いの度に、どの国にどの星が降りたのかはランダムだから」


 そう俺の言葉に応える姉御。

 そして今度は、俺を見据える様にこう問いただす。


「……本名や、己の星の話はしていない?」



 ――そう、ここが昔からこの人に、何度も何度も言われてきた言葉。



 この世界には、マーガの星の中には決して『俺の本名』を知られてはならない星が居る。


『ヴィエル・マーガの星の民』の存在。


 そのマーガの星は、前回56年前のマーガの戦いに於いて、テオブルグ帝国へ星が降り、その星の恩恵を最大限に生かしテオブルグ帝国は数年の戦いの果てに無事、勝利国となった。


 それ故に、どの国も星の持ち主に関しては一切の情報を遮断……更にはダミーの情報が何十何百とまかれている。


「いや、それは言ってない……けど、そういえば向こうも同じく名乗りはしなかったな」


 その言葉を聞くと姉御は少し難しい表情をしつつ、資料を一枚俺の前に差し出しながらこう言った。


「君のギグ・マーガについて、少し振り返るわね」



 ◇ ◇ ◇

 ギグ・マーガの星――それが俺の星の名。


「通常マーガの星の同士の戦いから、互いに極限状態に至ったとき、互いにその力が飛躍的に強化される。それが所謂、シリアスモードといわれるものね」


「ああ、何度も聞いた」


「死闘の最中に互いの意識が、勝利・生存に一点集中する。

 その瞬間、互いのマーガの星は更に力を発揮し始める」


 この話もここでお世話になってから、何度も何度も言われた話。

 そして恐らく、この後に続くであろう話もまた……然り。


「……だけど?」


「――そう、あなたの『ギグ・マーガの星』だけは、例外」


 言葉の温度が変わった。


「本当に追い詰められた時、君のそのマーガの星だけは『再生を止める』

 能力は上がらず、傷は癒えず命は削れるだけの、ただの……人」


「……それ、普通にハンデだよなあ」


 俺の思わず言った声に誰も返さない。

 姉御は静かに書類を閉じ、机の上に置いた。


「過去にもちろんギグ・マーガの星を持った者はいた。

 ……だけど誰一人として、最後まで勝ち残ってはいない」



 ◇ ◇ ◇

 会議室の空気が、少しだけ重くなった。

 星を持つ者同士の接触が、始まりつつある。

 誰も意図しないまま、誰も止められないまま。


「他国の動きは、まだ静観なのですか?」


 ルーシェがぽつりと呟く。

 そんな呟きに姉御は静かに答える。


「きっとでも静かに始まってる……誰も気づかないうちに」


 俺はその言葉に何も言えなかった。

 何も知らないまま、この星を背負って。気づけば、世界が俺の周りをぐるぐる回り始めているかのように。

※参考までに

 ◇ ◇ ◇

 ナディア・カーヴィエル(記録課副長官)

 年齢:不明(20代後半~30代)

 身長:推定170cm前後

 髪型:紫 基本的に伸ばしているだけだが、仕事中は後ろで一纏めにかんざし纏め。

 瞳の色:紫

 体型:細身・長身

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ