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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 一章 シルバー16歳
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★閑話2-1 『静かなる記録拒絶者』

 ※テオブルグ帝国 星記録局 書記官視点

 帝国星記録局 第四分室所属、書記官として――

 私は一冊の帳面と、簡素な指示書だけを携え、東離宮の門をくぐった。


『ヴァルテリア・アミューゼ』


 前回――今からおよそ五十六年前のマーガの戦いにおいて、我がテオブルグ帝国に勝利をもたらしながら、ほとんど語られることのなかった英雄。


 老衰により、先日死去。

 享年七十三。遺体は既に埋葬済み。


 埋葬、供養後、星局上層部から下された指示は、こうだった。


「検証は最小限でよい。

 記録は控えめに。公開は……未定だ」


 だが現場には、それ以上に強い違和感があった。


 名誉なき勝者。記録されぬ星の民。

 いったい彼女は何を守り、何を拒んだのか――


 その答えを、私は探していた。



 ◇ ◇ ◇

 屋敷の中は静かだった。

 いや、正確には――沈黙していた。


 居室の暖炉には、つい最近まで火が入っていた痕跡。

 その灰の中で、私は焦げた紙束を見つけた。

 黒く焼け焦げたそれは、見た目こそ廃棄物のようだが、内部の紙はほとんど無傷だった。


 めくれたページのすき間から、手書きの文字がわずかにのぞいている。

 それは、彼女が残した私的な記録――おそらく日記であり、その断片だった。



「書かないために燃やしたのか。

 残すために、あえて焦がしたのか……」



 私は小さく一人呟く。

 テオブルグ帝国では星の民が遺した記録は、すべて管理局の手で保管される。


 だがこの記録は――まるで『誰にも読まれないこと』を願いの残骸の様だった。



 ◇ ◇ ◇

 私は一人、白紙の紙束を開き、口述と筆記による記録を開始する。


「先代ヴィエル・マーガの星の民、ヴァルテリア・アミューゼ。

 前回の戦い後、ヴィエル・マーガの恩恵はすべて消失したとされている」


「ヴィエル・マーガの星は、マーガの星の中で、特殊な恩恵を持つ。

 本名を知った星の民同士を、選定という形で強制的に戦わせる力だ。

 相手の本名を『知り、唱え、祈る』ことで、ふたりは否応なく導かれ、出会う様に仕向けられる」


「この力により、テオブルグ帝国は数多の勝利を手にする。

 ヴァルテリアの選定により、他のマーガの星の民たちは、互いに出会いを強制され、ぶつかり合い、そして消えていった」


 だが――


「戦後、彼女は帝国が与えようとしたあらゆる称号や褒章を拒んだ。

 記録への名記載も辞退し、式典への出席も拒絶。

 栄誉を求めず、ただ沈黙の中に身を置き続けた」


「彼女にとってマーガの星は、力などではなかったのではないか。

 それは誰かを殺すために、誰かの名前を選ぶという重すぎる責任だった」


 この離宮の静謐さ、そしてこれまでの沈黙。

 もしや彼女は『選ぶことが許された者』として、選び続けた――。


 その罪とともに生きていたのか。



 ◇ ◇ ◇

 ――私は手元の資料を開き、記録された彼女の人物像を再確認する。

 彼女は、外見だけを見れば、間違いなく『美しかった』とされる。


 凛とした佇まい、静かな瞳、整った顔立ち。

 それらは長く帝都でも噂になり、ある時期にはテオブルグ帝国の幹部、若しくは貴族家から幾度となく縁談の話も持ち上がったという。


 だが彼女はそれをすべて、やんわりと――けれど、決して揺らぐことなく拒んだとされている。


 仮説だが一人を選ぶことは、また『誰かを選定する』という行為に繋がりかねない。その可能性を、彼女自身が何よりも恐れていたのか。


 そして彼女は、己の星がどれほど多くの命の在り方を歪めてしまったかを、深く理解していた。


 だからこそ――


 彼女は『出産』という選択肢すら取らなかった。


 新たな命をこの世に生み出すという行為。

 それは……女性にとって命を賭けた行為になりかねない。


 つまり『少しでも次のマーガの戦いが始まる事を、引き延ばすという判断の為、出産リスクを切り捨てた』可能性がある。


 それは決して祝福だけで済まされることではなかった。

 彼女は知っていた。


 己の死が『次のマーガの戦い』の引き金となることを――確かに。

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