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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第三部 序章 星の港
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第三部 序章8『戦場の形を変える星』

 ※ディオン視点――ノバル・ハン国港


 バァン!


 強烈な爆発音が、港の空気を震わせる。

 音の出どころは――あの帝国の剣士の方角。

 全身の毛穴が開くような悪寒が走り、次の瞬間に脳内を巡る、確信を伴う――直感。


 肌に感じ取る、迫る殺意。

 剣を握った瞬間、衝撃が全身を打った。


 ガァン――!


 火花が散り、腕が痺れる。

 儂の剣にこれまでに無い、凄まじい一撃が叩き込まれた。


「……小僧」


 振り返る。リヒト――帝国の少年。

 だが今やその眼は、怯えも迷いも呑み込み、ただ赤く爛々と輝いていた。


「あぁぁ……あああ、ああ」


 胡乱な視点の赤い目で、虚空を見つめながら、人ならぬ声を漏らす小僧。


「人を捨てたか」


 背後から迫る気配は、熱と殺意そのもの。

 焼け付く風が肌を裂く。

 それが『星の力』だと理解するよりも早く、儂の中の『ギ・ガ・マーガの星』も反応する。


 シリアスモード――再点火。


 ギ・ガ・マーガの星。

 戦いを求める互いの本能に呼応し、己の肉体を強烈に奮い立たせる星。


 マーガの星同士が対峙し、真剣になる事で互いに能力を高め合うシリアスモード。

 その能力の上昇値が、他のマーガの星よりも、上昇が高いという、儂の星。

 己を削り、戦いに身を捧げることで燃え上がる星。


 握り直した剣の柄が、掌に馴染む。

 血の滴る腹を抱えながらも、振り返る動作に迷いはなかった。


「フン……!」


 振り返った瞬間には、既に小僧の姿は掻き消えていた。

 しかし次の刹那――


 ガァンッ!!!


 鋼と鋼が噛み合う轟音。

 空気が裂け、振動が港を揺らす。

 儂の剣と、小僧の軍刀が、再びぶつかり合っていた。


 その衝撃と共に、驚くべきことが起きた。

 裂けていたはずの腹部からの血が流れ出るのが止まる。


 まるで星が戦いを欲し、己の命を強引に繋ぎとめたかのように。


「ハァァァ……小僧」


 呼吸は荒い。だが、声は確かに届く。


「もう……後戻り出来んぞ!」


 少年の瞳に燃える紅。

 それは後悔も躊躇も呑み込み、ただ純粋な『殺し』へと向かう光だった。


 儂は剣を構える。剣士として。


「……儂はギ・ガ・マーガの星の民、ディオン・バルザス。

 人を捨て随分と背伸びしおったな、クソジャリ風情が!」


 戦場の形を変える星、再度剣を持つ。



 ◇ ◇ ◇


 儂の大剣、小僧の軍剣がぶつかり合い、甲高い音が夜の港を震わせた。

 火花が散り、その一瞬の閃光が暗闇を切り裂く。

 腕に走る衝撃は骨の奥まで響き、握る手の感覚が鈍るほどだ。


「ふん、それがショーネ・マーガの星の力か!」


 吐き捨てるように叫び、振り払った剣先が石畳を裂く。

 砕けた破片が飛び散り、足元に細かな痛みを刻む。

 だがこの小僧、リヒトは怯まない。


 血に濡れた剣を必死に振るい、赤く濁った瞳で、ただ真っ直ぐ儂を狙っていた。


 ガァン! ガンッ!


 金属音が立て続けに響き、夜に眠る海鳥さえ、目覚め飛び立つ。

 斬撃と斬撃が噛み合い、押し合うたびに力が跳ね返り、二人の体躯が軋む。


 一閃を受け流し、逆に叩き込む。


 剣筋は鋭いがまだ浅い。

 儂の刃は風を切り裂き、少年の肩口をかすめただけだった。


「アアアアアアア!」


 息を荒げ、低く滑るように迫るリヒト。

 その勢いを正面から受け止め、儂もまた半歩踏み込み、横薙ぎに剣を振り抜いた。


 ギャリッ、と石畳が抉れ、白い粉塵が立ち込める。

 その粉塵に紛れる様に、互いに船の方向へ駆け、再度剣を互いに振るう。


 ドォン!


 帆柱が無惨に折れて海へ傾いていく。

 その船の船員たちは、悲鳴を上げて飛び込み黒い水面が泡立つ。


 ドォン! ドォン!


 沈みかける船を足掛かりに、儂と小僧は別の船へ。

 飛び上がり、重力に任せ剣を叩き伏せる。

 その衝撃は甲板を割り、また船は静かに傾く。


 時が経つごとに、儂の中の星の輝きが増すように、全身を爆ぜる力と剣が荒れ狂う。

 ……だが余裕など無い。


 未だ塞ぎ切らぬ腹の傷が疼き、血の匂いが喉を灼く。握る剣に込める力が、わずかに揺らぐのを自覚していた。


「ガァ……アァ……アァァァ」


 ゆるりと波しぶきを立てながら沈みゆく船の甲板に、儂とリヒトの二人。

 互いに視線をそらさず、剣先は互いの喉元に向けられたまま。


 耳に刺さる小僧の呼吸。

 見た目は子供の、荒い息遣いのはずなのに、そこに宿る気迫は獣の咆哮に等しい。

 視線が絡んだ一瞬、迷いは既に消えていた。


「ガァァァァァ!」


「ハァァァァァ!」


 夜空の雲を割る程の二人の咆哮。

 そんな叫びと共に剣を振り下ろす。


 リヒトもまた吼え、軍刀を薙ぎる。


 ――衝突。


 甲高い悲鳴のような金属音が走り、二人の剣は互いを押し合った。

 やがて弾けるように、儂と小僧はまた別の船へ飛び立ち、駆け、向かい合い、逸れ、穿つ。


 ズズゥンッ!

 縦に裂けた海面から水飛沫が吹き上がり、近くの軍船の船体を直撃する。

 木片が宙に舞い、甲板に叩きつけられた船員たちが次々と転げ落ちた。


「……ッ!」


 その船の帆柱がゆっくりと傾いていく。

 その傾き、その内崩れるであろう柱の方向。



 ――そこに、あの幼子二人の姿。



 既に事切れたであろう、銀髪の姉ちゃんの亡骸に寄り添い、何とか起そうと声を上げる二人。


 ――やはり、銀髪の者は碌な事をせんな。


 そう考えると儂は、その場所へ一気に駆けるのだった。

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