第一章6 『動き出す星々:ギ・ガ・マーガの星』
※ディオン・バルザス視点――ハルメリオス騎士国、訓練場。
「──こら、ディオン・バルザス。聞いてるか貴様」
「ん……?」
訓練場の隅、塵と汗の混じった空気の中。
騎士たちの列からわずかに離れた石台に、儂は尻を下ろしておった。
上官の声は、もう慣れた。
訓練命令、行軍計画、演武の手本──毎度のことじゃ。
だが儂にとっては、ことごとくどうでもいい。
「すまぬが、本日たまたま儂の耳は休日でな……」
「お前の耳は生まれたときから眠っとる!」
周囲の騎士らがちらりとこちらを見る。
笑っている者もいる。だが誰一人としてこちらへ近寄ろうとはせん。
無理もない。まあ上司に説教されとる儂に絡んで巻き込まれてもな。
それに儂は──この国の『異端』じゃからな。
黒髪は乱れ、鎧は傷だらけ。剣は人並みの倍はある。
髭は剃らず、声は低く濁り、体躯も態度もデカいとな。
身長にして一八五、齢は十六とて、どう見ても三十路超えの風貌。
「それでも奴は、戦場に出せば三十人分だ」とか
「星を持っとるらしいぞ」だとか──。
好き勝手に言うておる。本人の耳に届いておると知らずにな。
まあ構わぬ。どうせ儂は、どこであろうと戦の匂いがせんと動かぬ。
このマーガの星を得てから、ますますそうなった。
◇ ◇ ◇
背中に、冷たいものが貼り付いた感覚がある。
星は未だ沈黙したまま。
だがそれは眠っているのとは違う。
静かに、確実に脈打っておる。
まるで血の代わりに熱を巡らせる器官のように。
『ギ・ガ・マーガの星』
それが儂が偶然得た、マーガの星の名。
星局の学者どもが歴史書や戦時記録を読み解き、過去に現れたギ・ガ・マーガの持ち主とされる者たちの戦跡を辿っておるが──それでも、具体的に正確な能力までは判然とせんらしい。
「どうやら戦いを喰らう星」
そんな仮説が立てられとる、という噂だけが先に儂の耳へ届く。
儂自身も、その星の真価を目の当たりにしたことはない。
というより──
儂もまだ『他のマーガの星の民』と斬り合ったことがない。
実際マーガの星の民となって早四年、未だ開始の合図は無い。
マーガの星の民同士が出会い、戦場でぶつかるとき星は『応える』という。
それを『シリアスモード』と呼ぶそうな。
命を懸けた意志、むき出しの本音、本気のぶつかり合い。
そのシリアスモードに達した瞬間、マーガの星の恩恵は跳ね上がるというのじゃ。
中でも──ギ・ガ・マーガの星は、
その『上昇度』が桁外れだと書にあったそうな。
通常のマーガの星によるシリアスモードが肉体や感覚を底上げするだけなら、ギ・ガ・マーガの星は、その戦いそのものを塗り替える星。
思考が研ぎ澄まされ、感覚が張りつめ、足が地を激しく蹴飛ばし、周辺の何もかもを消し飛ばす。音が遅れ、血しぶきが先に届く。
──戦いそのものの風景を変える星。
あくまで、そう記録されている、らしい。
だがそれも、あくまで記録上の文字のみ。
儂は、まだその状態に至ったことがない。
この星が何を喰らい、何を叫ぶのか──それを知るにはまず、同じ星を背負った者と巡り合い、真に命を懸けて斬り結ばねばならぬ。
ゆえに、まだ戦っておらぬ。
まあ始まってもおらんがな。
それ故に、どこまで何が跳ね上がるか、儂自身にも測れぬのだ。
その『爆発』の先に何があるか。
もしも同じく、マーガの星を得た者と巡り合うときが来たならば──ギ・ガ・マーガの星はきっと、語り出すのだろうな。
◇ ◇ ◇
その夜、砦に小さな報せが届く。
「……テオブルグ帝国の先代ヴィエル・マーガ星の民が死んだらしい」
儂はその場におらなんだが砦の空気が一気に走り出す。
誰もがその話題を避けるようにし、なのに動きだけが騒がしくなる。
人のざわめきが減り、馬の呼吸が多くなる。
若き騎士たちは星を畏れ、星局は紙束を積み上げ、上官たちは口数を減らす。
そして、儂はただ一人。砦の門前に立って空を見た。
「さて……戦の香りが、ようやっと立ちはじめおったか」
儂のマーガの星が疼く。
背中のそれは、明らかに空気の変化に反応している。
学者より聞いたもう一つの、マーガの星の理。
『マーガの星同士は引かれあう」
儂は己の大剣を背負い、腰の小さな布袋に水と干し肉を詰め始める。
何の命令も、指示もない。だが出るべき本当の間は命令の前にある。
◇ ◇ ◇
砦を出たのは曇りの日。
山脈を巻くようにして伸びる獣道。
風が儂の背中を押してくる。
「して、ここから一番近き隣国と申せば……マクガイア王国か」
「よかろう。儂も少々、剣の鈍りを見直しておかねばの」
「戦の香りが立ち始めたゆえな――」
足元には、二つの死体が転がっていた。
一体は賊、もう一体は灰色の野獣。
つい先ほどまで『待ち伏せ』のつもりで潜んでおった者たちじゃ。
だが儂は振り返らぬ。
剣を一振りした記憶すら曖昧なまま。
振り返らず、見下ろさず。
ただ『マーガの星の沈黙』を背負って、歩き出す。
◇ ◇ ◇
ギ・ガ・マーガの星は、いまだ語らぬ。
だが儂は知っておる。
星は選ばん。戦場も選ばん。
選ぶのは、常に人間のほうだ。
儂は、儂の理で戦場を選ぶ。
その先に、何があろうとも。
※参考までに。
◇ ◇ ◇
ディオン・バルザス
年齢:16歳
身長:185cm
髪型:黒(老け顔+髭面)
瞳の色:黒
体型:筋肉質
星:ギ・ガ・マーガの星
備考:一見老け顔なため年齢詐称疑惑あり。
※ギ・ガ・マーガ詳細
恩恵内容:シリアスモード突入時に、他の星の民のシリアスモード上昇値よりも身体能力・戦闘力が大幅上昇。一撃の重みが変質する。元の能力も相まって最終的に破壊神レベル。星の価値としては当たりに近い。




