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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第三部 序章 星の港
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第三部 序章4『ギ・ガ・マーガ対ショーネ・マーガ』

 ※ディオン視点――ノバル・ハン国港


 剣を振るい周囲に漂う、銀糸を吹き飛ばす。

 目の前の名も知らぬテオブルグ帝国の剣士。

 随分と小さい体躯よ、しかしこれで、あの金髪の二枚目兄さんを追い詰めたのか。


「……はてさて、どんな星かのう」


 自然と儂は、その様な言葉をこぼしていた。

 まあ油断はできぬ。


 マーガの戦いに生きる者は、外見や腕前、性別では計れぬ『何か』を用い戦う。


 ましてや、この相手の事は何も知らぬ。即ち何を隠し持っているか分からん。

 ちらと横を見やる。縄で縛られた幼子が二人、そしてその幼子を庇うように抱きしめている、傷ついた女。



 ……銀髪の長髪か、シルバーとどこか似た面立ちの女。



 そしてその幼子を斬るべく、その女に向け何かを叫ぶ男。

 恐らく、テオブルグ軍のお偉方、見繕い的に司令官クラスといった所か。


 状況や関係性は分からんが……まあ、面白可笑しい状況に見えぬな。


「……テオブルグの剣士よ、あのチビ達二人は人質か?」


 そんなことを小僧に向け問うた矢先――視界の端が閃いた。

 強烈な速さで振り抜かれた横薙ぎの一閃。反射的に剣を合わせ、火花を散らす。


「素直な剣じゃな」


 駆け引きも何もない。ただ速く、鋭く、最短で命を奪うためだけに磨かれた刃。

 迷いも虚飾もない、それゆえに研ぎ澄まされている剣。



 ――の、『筈』なのじゃろうがな、本来は。



 間違いなくこの帝国の剣士は、まったく集中出来ておらぬ。

 それもこれも、向こうのあの状況が気になってしょうがないのじゃろう。


 そう考えると儂は、一気に間合いを詰め、剣士の胸倉を掴み振りかぶる。

 そしてあの、今まさに幼子と女子を斬ろうとしている『軍のお偉いさん』へ向け、槍の様にこの剣士を投げる。


「邪魔じゃ、退けい」


 ドサァッ!


「ぐろおっ!」


 うむ、実は儂、投擲術にも自信があるのじゃよ。

 そんな事を考えながら、剣士をぶつけられ、その勢いのまま海に落ちていくあのお偉方を見送るのだった。



 ◇ ◇ ◇

 ※リヒト視点――ノバル・ハン国港


 肩で息をしながら、僕は剣を握り直す。

 ……強い。間違いなく、この男は僕よりもはるかに強い。


 あの時、母を殺されたあの光景と引き換えに手に入れた力なのに。

 ――だけど、それでも、あの大剣を携えた大男には届いていない。


 力量も体格も、全てがあまりに差がありすぎる。

 近づくたび、まるで山そのものが、震動を撒き散らしながら歩いてくるような圧迫感に胸が潰れそうになる。


 さっきもあの屈強な大男は、僕の身体をまるで石ころのように掴み、司令官へ向かって放り投げ、まるで石を投げるように、そのまま激突させられ、司令官は呻き声を上げながら海へ落ちていった。


 横目に映るのは縄で縛られ、猿ぐつわをされた妹と弟。

 その上に覆いかぶさるように、マリスが身を挺して守ってくれている。

 震えながらも、絶対に離さないという気迫が背中越しに伝わってくる。



 僕の足が、勝手に震えていた。

 逃げたい。でも――負けられない。



 歯を食いしばり、よろけながら立ち上がる。

 背後からは、港の暗い水面でもがく司令官の声が聞こえる。

 助けを求める声、溺れる水音。だが、耳に届くそれらが自分の遥か遠くに霞むほど、あの大男の存在感が圧倒的だった。


 肩に両刃の大剣を担ぎ、あの男がゆっくりと歩み寄ってくる。

 一歩ごとに石畳がわずかに沈むように見える。

 足音が胸の奥にまで響き、体内の鼓動と重なってくる。


 怖い。


 この場に立っていること自体、まるで自分が何かの拍子に、強大な捕食者の縄張りに踏み込んでしまった小動物のようだ。

 全身が硬直し、喉が渇き、呼吸がうまくできない。



 でも――勝たなきゃ、殺される。


 それにもし僕がもしここで倒れたら、テオブルグ帝国は間違いなく、僕の弟妹を「処分」する。

 想像するだけで、胃の奥が冷たく締めつけられる。



 胸の奥から湧き上がる恐怖を、感情そのものを、僕は声にして吐き出す。

 それは、恐怖に飲み込まれそうな自分自身を引き戻すための、願いのようなものだった。



「あああああああああ!」



 気合を振り絞り、全力で――あの圧倒的な剣士に向かって駆け出す。

 耳の奥で血流の音がざわつき、視界の端はもう揺れている、そして手の中の剣が震え、足裏から伝わる石畳の感触を感じながら。


 駆ける。


 大剣を肩からゆっくりと下ろし、男は構えを取った。

 その瞳は笑っている。いや、僕を値踏みし、試しているのだ。


「ハァァァ……来い、小僧!」


 その声と同時に、戦場の空気が一変する。


 空気が重く、冷たく変わり、体の芯が凍るような感覚に襲われる。

 呼吸が浅くなる。背筋に氷の針が何本も突き刺さったかのよう。


 僕はもう、後戻りできなかった。


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