第一章3 『神託戦争〈マーガの戦い〉』
※シルバー視点――マクガイア王城。
朝。
王城の石造りの廊下に乾いた足音が静かに響く。
呼び出しは唐突だったが驚きはなかった。
あの空気に触れてしまった以上、もう誰も傍観者ではいられない。
テオブルグ帝国から届いた報せ。
前回、56年前のマーガの戦いの勝利国。
テオブルグ帝国所属――先代ヴィエル・マーガの星の民、死去の報。
一度『神に選ばれた』存在。
それでも命は尽きる。誰にも告げず何も残さず。
その死の報は静かな合図だった。
何かが終わり、同時に何かが始まる。
◇ ◇ ◇
王の執務室の奥に設けられた密室の会議室。
空気は重く誰の足音も響かない。
集められたのは限られた面子だった。
アラン・マクガイア王。
王女ラスティーナ・マクガイア。
星局、ナディア・カーヴィエル。
星局補佐官見習い、ルーシェ・カランディール。
そしてこの俺、シルバー・ヴィンセント。
天井に彫られた神話の図も、今日は沈黙の色を放っていた。
「先代のヴィエル・マーガの星の民が、死んだ。
一応ウラを取る為、他国にも確認したが……同じ連絡が入っていたそうだ」
アラン王の静かな声が場を開いた。
「つまり――これで56年前のマーガの戦いは終焉を迎え、そして今回のマーガの戦いがいよいよ始まるということだ」
息を呑む音すらない。
「前回の勝者が地上から去った今、神の意図は再び彷徨い出す。
新たな勝利者を、彷徨い求め始める様にな」
◇ ◇ ◇
「……マーガの戦いとは何なのか」
王の『開戦』の言葉に、追うように言葉を紡ぎ出したのはナディアの姉御。
「マーガの星は神の火種。神が地上に遺した『対話の手段』です」
彼女の声は淡々としていたが、それでも言葉の裏に熱を感じさせる。
「星が一つならそれはただの力であり個性。
けれどそれらの数が揃ったとき、神はどの灯火を選ぶかを試す」
「各国に一人ずつ。星はただ一人にランダムに与えられ、それをたまたま受け取った者が……今回のマーガの星の民となる」
会議室内に広がる沈黙。
更にナディアの姉御はさらに言葉を続けていく。
「では、その星の民が何かの拍子に命を失ったら?
もしくは事故。あるいは『マーガの星を持たない者』による攻撃。
……それでは終わらない。神託は維持され、また急ぎ、その国の誰かにマーガの星が渡る」
「つまり『星を持ってない人間が倒しても意味はない』ってことか」
俺が言うと、ナディアは頷きながら返事を返す。
「ええ、そうね……つまりマーガの戦いをを終わらせる条件は『マーガの星と星の衝突』のみ」
「じゃあ星を減らすには……」
「――マーガの星の民が、自らの手で他のマーガの星の民を殺すしか無いわ」
その言葉が会議室を冷たく貫いていく。
「それを最後の一人まで……延々と続けていく。
それが唯一の……マーガの戦いの終わらせ方」
「……ひっでぇ話だな」
無意識に俺の口から言葉が漏れる。
まあ、それ以外に言い様のない事実だけどな。
「……ひとつ例外があるとすれば、自害。
星の民が自ら命を絶てば……戦いから離脱できる」
ナディアの表情は変わらない。
「ただしその瞬間、国はマーガの戦いに参戦する資格を失う。
その国にマーガの星は再び降りず、自動的に今代のマーガの戦いに『敗北』したとみなされる」
今まで俺の傍らで無言だったルーシェが小さく息を呑み、目元を強く拭った。
「つまり生き残るための戦いじゃない……自分以外、殺さなきゃ終われないってことですか?」
誰も否定しない、つまりはそう言う事か。
そしてルーシェの言葉に王が静かに言葉を継ぐ。
「マーガの星の民は選ばれた者。
だが、選ばれた者には『戦場を選ぶ権利』はない」
「こんなの……!」
ルーシェが立ち上がった。
机に掌をを叩きつけながら、声を震わせ叫び声をあげる。
「誰がこんな事を望んでいるの!
たまたま星をもらっただけで『覚悟しろ』とか『殺し合え』とかって……!」
「全部勝手に決められて! 命を『試される』なんて、おかしいにもほどがある!」
「誰がそんなの望んだの!? 神様? 帝国? 星局!?
シルバーは……シルバーは子供の玩具なんかじゃない!!」
そのルーシェの悲しみと怒りを纏う叫び声に、誰も返せなかった。
それでも俺は俯いたまま口を開き、言葉を灯らせる。
「……でも知らないふりは、もうできないんだろ」
ルーシェがこちらを見た。
「知ってしまったら、もう『逃げたい』だけじゃ済まされねぇ。
だったら、俺は――逃げずに踏みとどまる方を選ぶ」
ナディアの姉御は、そんな俺の言葉に静かに目を伏せる。
ラスティーナ王女も、指先を僅かに震えさせたまま、黙ったまま涙をこらえていた。
ルーシェは、唇を引き結んだまま座り直した。
目元の赤みが引かず、何も言葉を出さないままに。
◇ ◇ ◇
会議はそれ以上進まなかった。
誰も何も決められない。そして何も始まっていない。
ただ――場が静かに『整った』
それだけが確かだった。
そんな空気の中、王が最後に言葉を落とす。
「……星は、揃った。
あとは、神が……星がただ、火を点けるだけだ」
※参考までに。
◇ ◇ ◇
ナディア・カーヴィエル
年齢:不明(20代後半~30代)
身長:推定170cm前後
髪型:紫 基本的に伸ばしているだけだが、仕事中は後ろで一纏めにかんざし纏め。
瞳の色:紫
体型:細身・長身
アラン・マクガイア(王)
年齢:48歳
身長:中肉中背
髪の色:茶髪(短髪)
瞳の色:茶色
体型:標準中年体型




