第一章 少女の決意
森に抱かれた小さな村は、今夜も闇に沈んでいた。
空には雲ひとつなかったが、星はほとんど見えない。時折、夜空を流れる黒々とした影が、瞬いたはずの光をひとつずつ飲み込んでいく。
「……星を、竜が喰った」
焚き火を囲む村人たちの声は怯えに震えていた。
星を奪う竜――村に伝わる古き言い伝え。
人々はそれを災厄と恐れ、供物を捧げ、祈りを捧げてきた。
だが星が戻ることはなく、夜空はますます暗さを増している。
リアナは焚き火の光の外、闇の中から村人の様子を見つめていた。
同年代の子どもたちでさえ、竜の名を出すと怯えて泣き出す。
だが彼女だけは、胸の奥でどうしても否定できない感覚を抱いていた。
――あの竜の瞳は、恐ろしいものじゃない。
――あれは誰かを守ろうとする目だ。
幼い頃、一度だけ空を見上げ、竜と目が合ったときに感じた確信。
それが彼女の心を離れなかった。
「リアナ、また変なこと考えてるんでしょ」
傍らで、親友のミラが小声で言った。
「竜を信じるなんておかしいわ。だって、ほら……あんなに星がなくなってるじゃない」
リアナは答えず、夜空を見上げた。
暗闇の奥で、巨大な影がゆるやかに身を翻し、光を覆い隠していく。
だがその姿は、彼女にはどこか苦しげに見えた。
――もし本当に竜が人を守っているのなら。
――真実を知っているのは、この村で私だけ。
リアナの胸に、決意が芽生えた。
誰も信じなくても、彼女は竜に会わなければならない。
その夜、月明かりがわずかに森を照らす頃。
リアナはひそかに家を抜け出し、竜の棲むという黒き山の方へと歩き出した。




