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第20話 とある日本人の戦いinウクライナ




 俺こと小沢健司がウクライナに入ったのは、2月も終わりが見えた27日の事だ。

 ロシアのキーウ早期攻略が頓挫膠着し、戦線は東部と南部が激化し始めた時期だ。

 俺は、陸上自衛官として4年を過ごした。除隊したのは、ロシアや中国とは、必ず戦闘になると考えていたからだ。何としても、実戦を経験しておきたかった。

 初めての実戦はコロンビアだった。

 ゲリラに加わった訳ではない。アメリカの民間軍事会社に所属しての事だ。正規軍の戦績の裏では、俺達が死闘を繰り広げていたのだ。

 やがて、中南米の内戦は下火になった。

 冷戦も終わり20年近い。俺に言わせれれば、今まで戦っていた事が正気の沙汰じゃない。

 次の戦場は中東かアフリカだ。

 始めはイラクだ。所属を変える事なく戦った。

 とは言え、それは非正規戦だ。予備自衛官として、正規軍の戦闘も経験しておきたかった。

 当然、米軍へのルートもあった。だが、俺が選んだのはフランス外人部隊だ。

 アメリカの戦争は非正規ながら経験した。自衛隊は、決してあの様に戦う事はできない。ならば、より見識を広げるべきだ。そうなると、フランス外人部隊以外に選択肢はない。

 戦闘経験以外に俺が重視したのは語学だ。俺に言わせれば、自衛官なら、日英中露韓、これは話せて当然なのだが、現実は、英語すら怪しい物だ。

 俺は、もう少し語学力を磨く事にした。フランス外人部隊なら、当然フランス語、交流から、オランダ語、ドイツ語、トルコ語に、イラクから続けてアラビア語が期待できる。スペイン語にはイタリア語とポルトガル語はセットでついて来る。この辺りはもういい。

 だが、この選択は外れた。

 この数年、俺がやっているのは通訳だ。

 俺は、戦いたいのだ。自衛隊にない実戦経験の積み重ねはできていない。

 そんな折、ウクライナ戦争が始まった。

 俺は除隊を申し出た。主要業務が契約にない通訳であった事を盾に、即時契約解除と少額ながら違約金を勝ち取った。

 目指すはウクライナだ。

 ここ数年、戦場の常識は一変しつつある。それは、クリミアに端を発したと言って良い。その全てを身に付けよう。

 俺の語学力は二重の意味で活きる事になった。

 一つ目は、どんどん増えて来る雑多な傭兵のまとめ役だ。言葉が通じないのだ。当然重宝された。しかも、ただの通訳ではない。俺の役目に名前を付けるとすれば、外人部隊司令官付無任所副長だろう。時に前線へ、時に後方へ、多くの経験を積んだ。

 二つ目は、西側諸国との連絡役だ。英独仏伊西葡土に日露中韓の11ヶ国語は重宝された。アラビア語だって出来る。その分、前線に出る回数は減るが、新たな戦術や情報が手に入る。

 また、オープンソース・インテリジェンス、オシントにも当たった。まあ、これは時間が空いた時の事だが。

 『ダンジョン』

 その意味不明な情報に触れたのは、そんな時だった。

 戦友達でも夢見た者も多い。

 俺か? 俺は昼寝ていたからな、見ていない。そんな中で、『ダンジョンについて天皇陛下緊急会見』だ。訳が分からなかったが、大統領に呼ばれた。

 大統領の国会演説準備以来、大統領とは2度会った。日本国内の世情調査と多言語通訳としてだ。

 今回は両方だろう。しばらく、前線には出られまい。

 陛下の会見も、アマテラス様のダンジョン案内も、大統領の隣でモニターにかじり付いた。何故か通訳はいらなかったが、文化風習、宗教観等の質問が飛んで来る。事に、ダンジョンルールの解釈についての質問は激しかったが、分からない物は分からない。

 アマテラス様が消え、陛下の口からダンジョン発生時間が告げられると、時差確認だ。

 6時間。

 つまり、明日午前零時にダンジョンが発生する。

 そう告げると追い出されると思ったのだが、残るように要請された。多言語通訳はやはり重宝するようだ。

 様々な情報筋から情報と提案が飛んで来る。

 決まったのは、午後11時頃には作戦を停止し、情報収集に当たる事だ。ロシアは引っ掛けを狙って来るだろうが、決して、決して付き合うなと厳命が飛ぶ。

 そんな中、どうも、チェチェンの狂犬が情報隔離にあっているようだと、情報が上がって来た。

 アゾフ連隊に全力で連絡を付ける。他の隊にも攻撃停止を徹底させる。

 俺に出来るのは通訳と待つ事だけだと思っていたが、ひっきりなしに神道について聞かれる。うろ覚えの神話を語る事になった。あの残念姉弟神の物語は、やはり失笑を買った。

 ただ、『水に流す』文化性には賛同の声が多かった。

「我々も、いつかは水に流す必要がある」

 大統領の言葉は重い。

 戦争は始めるに安く、治めるが難し。

 どこかの兵学書の言葉が浮かぶ。大統領(ツァーリ)は、早期終戦のプランが消えた今、終戦に至るプランを持っているのだろうか。

 時間だ。

 初めの報告はチョルノービル原発だった。一昨日には、ロシア軍の撤退開始があったが、ダンジョン騒ぎで停滞し、一部は再侵攻を期した布陣になっている。キーウ攻略についても、撤退は一度停止しているが、話しが変わるな。

 チョルノービル原発は、広大な立入禁止区域ごとダンジョンに飲まれたそうだ。戻って来ていたロシア軍も飲まれ、重装備を喪失したそうだ。ただ、指令書等は吐き出されたと言う。

 次は大統領夫人だった。

 寝室にダンジョンが出来たとやってこられた。

 全土に調査命令が飛ぶ。

 この頃、アゾフ鉄鋼所の映像が届いた。

 鉄鋼所は何も無くなり、ダンジョンが出来ている。部隊を心配する声が上がる中、狂犬旗下と思しき部隊から攻撃が始まった。戦車砲と榴弾砲だろう。

 直ぐに、辺りに不可思議な光が溢れ、小さな鳥居が一面に現れる。その中から銀色の何かが出て来るのが見えた。それがロシア軍にまとわりつくのが見えた。距離と解像度的にそれ以上は分からないが、以後、攻撃が再開される事はない。

 気が付くと、会議室の壁ぎわにダンジョンがあった。いやいや、そこにそんな鳥居何か無かっただろう!

 混乱するが、このメンバーなら俺が偵察に入るべきだ。何故、大統領が先頭に立とうとする! みんな止めろ!

 何故か俺は留守番だった。ダンジョンスマホが使える方が良いだろうと、一度入ったが、半径1キロ程の果樹園とイモ畑だった。俺も探検してみたいのだが、「仕事に戻れ!」と命令される。

 おかしい。理不尽だ。何故それをアンタが言うんだ大統領!

 !!!

 コイツら、コメディアクターの大統領と、それを俳優時代から支えていたヤツらじゃねえか!

 つまり、お笑い芸人と制作会社のスタッフだ!

 大統領夫人も喜々として入って行く。

 それでいいのかウクライナ!!!

 結局、アメリカ大統領が、核兵器の喪失宣告をするまで、戻ってきやがらねえ!

 大丈夫かこの国。

 いや、大丈夫じゃねえから俺がここいるんだった。

 熱くなっても仕方ない。

 集まる情報を峻別する。つまり、オシントと言うヤツだ。ただの情報収集と違うのは、真偽判断と裏取り、フェイクに対してカウンターを行ったりする事だろう。当然、こちらからもフェイクを流す事はあるが、1番は『正確な情報を正確に伝える』事だ。今は、信頼性こそがプラスになる。

 スタッフ達と流す情報を決める。

「チェチェンの狂犬とその部隊は、ダンジョンを攻撃して、ダンジョンから出て来る銀色の何かに喰われた」

「ダンジョンから誰かを引きずり出すような事をすれば、二度とダンジョンに入れない」

「ダンジョンの中の産物は食べられる」

「ダンジョンから石油・ガスが自噴している」

「ダンジョンの中で人を殺せば、ダンジョンに殺される」

「ダンジョンの中での強姦は、その瞬間、去勢される」

 この情報を各方面に流す。

「ダンジョンに攻撃して増えた極小ダンジョンは、攻撃勢力は利用出来ない」

「ダンジョン外からダンジョン内での戦争行為を命令実行すれば、攻撃部隊と命令者はダンジョンに殺される」

「ダンジョン外からダンジョン内での殺人を命令実行すれば、実行者と命令者はダンジョンに殺される」

「ダンジョン外からダンジョン内での強姦を命令実行すれば、実行者は去勢され、命令者はダンジョンに殺される」

「ダンジョンの中での強盗はダンジョンからの排除され、ダンジョンが利用出来ない」

「ダンジョン外からダンジョン内での強盗を命令実行すれば、強盗者はダンジョンから排除され、命令者はダンジョンに殺される」

 この情報は公開しない。見つけ次第消す、ないしはカウンター・フェイクをぶつける。

 情報工作は学んだ。その一部でも、実際に実行した事は大きい。さて、そろそろ前線に戻らなければならない。ダンジョン発生下の戦闘を経験して、それを自衛隊に還元しなければ。

「今さら君が直接戦闘を経験する必要はないだろう。君はもっと上の経験を積んで自衛隊に戻れば良い。君がこの国を去る時は日本の防衛大臣に推薦状を書こう。小沢君、君を大統領補佐官に任命する」

「何だってぇ!!!」


 小沢健司、彼の戦いは続く。

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