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Strain:After tales  作者: Ak!La
20/53

第20話 対面と再会

「事務所かよ!」

「何やのん、人数多いならこっちの方が話しやすいやろ」

 翌日、探偵事務所。朝10時ぴったりに事務所に現れた警察官たちにリアンは叫んだ。

「警察署に行くとは一言も言ってないぞ俺」

「あぁ言ってませんね確かに。言ってませんでした」

 ローエンとの会話を思い返してリアンは天井を仰いだ。

「というか何でアンタこっち側に座ってんだ」

「人数が合わんやろ」

 ローエンはリアンとダミヤに挟まれて座っている。向かいにはエリオットとアナスタシアと、ロジーがいる。ちょうど3:3だ。

「……圧迫面接みたいですね」

「班長がそっち側にいると変な感じです」

 アナスタシアとエリオットが口々に言う。ダミヤはそれに対してヒラヒラと手を振った。

「場所だけやろ。俺たちはコイツらと話しに来ただけや」

 な、とローエンを見るダミヤ。ローエンは少しだけリアン側に寄って距離を取る。……そっちにも出来るだけ寄りたくないが。

「そっちのは初めましてやな。俺はダミヤ・オルグレンや。アザリア警察でスラム地区の担当してる。よろしゅうな」

「……リアン・ローガンす。よろしくお願いします」

 にこりと笑うダミヤに、遠慮がちに自己紹介をするリアン。

「何や、嫌われてるんか俺」

「コイツも訳アリだおっさん。事情があるんだよ」

「はぁん」

 ローエンのフォローに、ダミヤは納得したように頷いてアナスタシアたちの方を見た。

「ほら。お前らも挨拶せんかい」

「……アナスタシア・セリンです。よろしくお願いします」

「エリオット・アーチボルトです。どうも」

「ロジー・エイマーズです。警察官になってまだ日が浅いですがよろしくお願いします」

 いつもならこの辺でちょっかいを出し始めそうなリアンがやはり大人しくしている。余程女性警察官が苦手らしい、とローエンはそこでようやくちゃんと理解した。

 と、アナスタシアがリアンの顔を睨んでいる。

「……何? お嬢さん」

「………あなたも……。……まぁいいです。リアン・ローガン。あなたの名前はアザリア付近で発生した多数の殺人事件の関係者としてデータベースで見かけたことがあります」

「そうなん」

 ダミヤが驚いたように言う。ローエンは折角のフォローが台無しになったので首を振る。

「人違いだよ」

「いいえ。警察官との交戦記録がありました。……スラムで調査中だった警察官のものです。あなたに襲われたと」

「襲われたのはこっちだよ。………あー、そう。……もう25、6年前の話だけど」

 流れで白状したのでリアンは観念した。苦虫を噛み潰したような顔をする。

「記憶力いいね」

「スラムに関わる人物だったので。自分の管轄内のことは出来るだけ知っておきたかったんです」

 するとダミヤは首を捻る。

「………ほーん、なんか見えて来たで」

「……今は俺の同僚だ。それでいいだろ」

 ローエンはそう言って手を振った。これ以上この事について掘り下げたくはなかった。

「かまへん。なんせ人手が一人でも多く欲しいところやしな」

 ダミヤは頷いてアナスタシアを宥める。

「で、例の人攫い集団やな。尻尾掴めたんか」

「あぁ。この前保護って名目で下っ端を連れてっただろ。あいつらから何か聞いたか」

「幹部連中のことはな。名前聞いて調べたら前科モンで警察のデータベースにあったわ。ほら」

 と、ダミヤが指で促すとロジーが茶封筒を出して中から資料を示した。三人の男の写真。名前などの詳細なプロフィールが記されている。

「………いかにもって感じだ」

「アザリアで犯罪犯して捕まって、釈放後スラムでの活動に切り替えたっちゅうかんじやな。三人はそん時からの知り合いやけど、下っ端はどうやろな」

「寄せ集めだろ」

 ローエンは締め上げた下っ端連中を思い出す。

「規模は三十人程度だって言ってたよ。入れ替わりもそれなりにあるとか。メンバーはその辺で幹部の二人……リーダーじゃない奴が適当に集めて来るらしい。スラムにはそういうの多いからな。美味い話があるって釣ってくるんだろ」

「詳しいのぉ、そういうの」

「美味い話だつって適当に誘われて乗ってる奴らだ、だから結束は弱い。身の危険を感じれば安全そうな方に傾く。そういう連中だ。だからとっ捕まえるのも案外手は掛からないかもな」

 そう言いながら、ローエンは机の上の資料を指差す。

「だがそいつらは違う。抵抗して来る。自分たちの商売だからな。折角見つけたオアシスを荒らされちゃたまらねぇと、何をしてでも守ろうとするだろう」

 そしてポン、と隣のリアンの肩を持った。

「……おっ?」

「幹部連中は俺たちに任せてもらう。アンタらは下っ端を無力化して拘束してくれ」

「任せてええんか?」

「逮捕するのはアンタらの仕事。俺たちは手伝い。まぁ、手荒な事は俺たちの専門だ」

「殺さんといてや」

「しねぇよ。……激しく抵抗するなら万が一もあるが」

 ぱっぱと話を進めるローエンに、ダミヤは腕を組む。

「何や、分担には慣れてるいう感じや」

「……時々あったからなそういうの」

 もちろん、ほとんどは一人での仕事だったが。

「アンタこそ、その刀でバッサリやったら死人が出るだろ」

「峰打ちやてそりゃ。……銃で撃つのも足とかや」

「当てられるのか?」

「うちのセリンは銃撃の腕は一流やからな」

 ふぅん、とローエンはアナスタシアを見る。何ですか、とアナスタシアは睨み返して来た。ローエンには彼女が撃てる印象は無かった。

「そっちは。何が出来る」

「えっ、僕ですか……。えーと、撃てますよ、はい」

「どうだかね。格闘は」

「それはまぁはい、人並みには」

 緊張した顔のエリオット。未だローエンへの警戒心が拭えないといった様子である。それはそうだ。特に親しくしている訳でもない。

「警察官やで。舐めんといてや」

「ヘイヘイ」

 ダミヤに言われてローエンは一度目を逸らすと、ロジーへと目を向けた。

「君も?」

「あっ、はい! 悪い人をやっつけるのは得意です!」

 ガッツポーズをするロジー。まぁダミヤの娘であることを思えばその才があってもおかしくはない。

 殺し屋だったローエンを知らないロジーは、他の二人と違ってごく普通に接して来る。ローエンも彼女についてのイメージはそんなにない。ただ、ダミヤのような方言でないことが少し意外だった。

「……何て呼んだらいいかな?」

「ロジーでいいですよ。えっと、私もローエンさんで良いんですかね」

「いいよ。……この前はあまり挨拶出来なくてごめんね。探偵のローエンだ」

「お話はと……オルグレン班長から聞いてます」

 ほんのりイントネーションに訛りを感じる。父親の方も少しは努力したらどうなんだと思った。

「────まぁ、それなら下っ端はそっちに任せて大丈夫だな。相手は大人数だが……おっさんがいれば大丈夫だろ」

「なぁ、俺は名前で呼んでくれへんの?」

「嫌だ」

「何でなん、なぁ〜嫌やわ俺だけ属性なん」

 と、ダミヤはふとローエンの向こう側のもう一人の“おっさん”に目を向ける。

「………お前いくつ?」

「え、俺っすか……55っす……」

「なんやタメかいな。えらいええ顔やからも少し若いか思たわ。リアンでええな。俺のこともダミヤでええで」

「……ハイ」

 満足げなダミヤと、彼のペースについていけないリアン。そうだろうなとローエンは二人の視線を避けながら眉根を寄せた。

「せやせや、人攫いの話はそれで良いとして一つ相談があるんやローエン」

 思い出したようにダミヤが言って、ローエンの肩を叩く。

「何だ」

「スラムに駐屯所を設置しよか思うねん。どない?」

「どない?」

「どう思う?」

 言い直されて、彼の言葉を理解しながらも相談意図が分からない。

「………と言われても。それはそっちの組織で進めることだろ」

「勿論、上に提案せな事は進まへん。その前に、現実的にどんなもんか思て」

「何でスラムに作りたいんだ?」

「街からスラムへパトロールに行ったりはしてるんやけど、何やこう、実情みたいなとこはよう分からんままや。あと一々行ったり来たりいうのも面倒や。どの道俺らの仕事はスラムにしかあれへんし、ほならスラムに拠点があった方がええやんか」

「………なんか少し前に似たような言い分を聞いたような………」

 そう言ったAFTには教会を提供した。しかし今度はそうは行かない。

「新しく建物を建てるのか?」

「そうなるやろな。使えそうな所があるならリフォームでもええけど」

 なるほど。うーん、とローエンは考える。

「……実はAFTが町興しを計画してる。まだだいぶ先になるが」

「そうなん」

「だからその、その中心付近にあるなら悪い話じゃないかも」

 それを聞いたアナスタシアが口を挟む。

「町興し? ただの学生の団体にそんなことが出来るんですか」

「今は無理だよ。だからその前準備中だ」

 安易に出来るとは言わないが、出来ると思ってはいる。彼らがいるなら、さらに。

「町として機能するようになる為には、当然治安も良くしなきゃならない。あんたらが来てくれるなら話は早い」

「なるほどなぁ。ある程度町として機能するようになったら、政府も、勿論警察も放ってはおかれんなる」

「目的はスラムの住人を救うことだ。人間でいられない彼らを人間に戻す。その為の計画だ」

「よう考えたもんやな」

「この前警察署にAFTのリーダーを連れて行っただろ。その時に彼が思いついたんだ」

「あん時に? へぇ」

 感心したようなダミヤが首を傾げる。

「工事するにしても治安悪いと進まんやろしなぁ」

「その為のあんたらだろ」

「せやな」

 おし、とダミヤは手を叩いた。

「ほなら、しっかりスラムで悪いことしたら裁かれるいうんを示したらなな。頑張るでぇ」

 ハイタッチの手を出してニカリと笑うダミヤ。渋々ローエンはため息を吐きながらその手にぱちんと手を合わせる。

「決行は明後日。しっかり準備してくれ」

「おうよ。いやー、久々やな共闘」

 あの頃は二度とないと思っていたものだが。奇妙な縁だ。ローエンはふっと笑った。

「……あんたが変わり者で良かったよ」

「なんなん」

 


 警察署に戻ったダミヤは一人署内の道場にいた。制服を脱いで、簡素なTシャツとスウェットという格好でいる。

 広い空間の中心に立って、刀を構え目を瞑りじっとしている。静かな、ゆっくりとした呼吸が微かに空間に響く。その鼓動は手を伝って、手にした愛刀へ届く。それは体の一部になったかのようにダミヤと繋がって、彼は今鋒を撫でる風の動きすら捉えるようだった。

「……誰や」

 目を開けて、振り向く。部下たちではない事は分かっていた。足音もなく道場の入り口に立っていた人物は、壁に寄りかかってわざとらしく目を見開いた。

「うわ、さすが。気付くんやねぇ」

 短いアッシュブランドの髪と、大きめのサングラスが印象的だ。警察の上官のコートを纏っているが、シャツの胸元は大きく開いている。

 その姿を見て、ダミヤは刀を下ろし驚いた。

「フィン……⁈」

「なんやの。死人でも見たような顔やな。久しぶりやんダミヤくん。元気してた?」

 フィンと呼ばれた女性は、にか、と笑う。ダミヤは混乱したまま叫ぶ。

「何でおるんや!」

「何でって、今日からここに移って来たからやで」

 そう当たり前のように言いながら歩いて来た彼女は、180cmあるダミヤよりも背が高い。

「……移って来た、って、何でや」

「異動になったってだけやで。懐かしなぁ、何年ぶりやろか。また戻って来れて良かったわ」

 と、そう言って彼女は道場を見回す。

「折角帰って来たし、ダミヤくんがここにおるーて署長から聞いて来たんよ。ほんま、会えて良かったわ〜!」

 むぎゅ、とダミヤは勢いのままフィンにハグされる。────固い。……じゃなくて、ダミヤは刀を持ったままであることを思い出して慌てる。

「ちょちょちょ待て危ない」

「あ、刀」

 解放されたダミヤは腰に提げていた鞘に刀を納める。

「……まだ使てんのやなぁ、さすがに時代遅れちゃう」

「ほっときぃな。……元気してたんか、フィンリー」

 ダミヤは彼女の顔を見上げる。フィン……フィンリーはにこりと笑った。

「元気やで! ダミヤくんはちょっと老けたなぁ」

「お前もやろ」

「ウチ全然変わらんやろ」

「変わっとるわボケ」

 フィンリーはダミヤと同郷の警察官だ。かつてはこの部署で同じ班として二人で動いていた。つまりはかつての相棒である。15年ほど前に、彼女は首都ウィスタリアへ異動になってしまいそれからは会っていなかったのだが。

「心配しとったんやで、ダミヤくん周りから浮いてるから、ちゃんとやれてるんかなって」

「そっくりそのまま返したるわ」

 と、ダミヤはフィンリーの制服を見て首を傾げる。

「……お前も部下持つくらいにはなったいうわけやな」

「うん。ダミヤくんもやろ。署長から色々聞いたわ」

 と、フィンリーは真剣な顔になると、声のトーンを下げた。

「………今スラムの事件担当してるんやろ」

「せやな」

「何でなん、ダミヤくんが何でそんなとこ……」

 そう言うフィンリーの顔はどこか悔しそうに見えた。かつての相棒を憐れむような、そんな顔にダミヤは胸がざわついた。

「……何でって?」

「だってそんなん、左遷みたいなもんやんか!」

「………左遷ちゃう。俺ここにおるし……」

 だが実際、スラムに拠点を置くとなるとそんな風に見えるのかも、とダミヤは思った。

「なぁダミヤくん、また一緒に────」

「悪いがそれは出来へんわ」

「何で⁈」

 ダミヤは一つ大きく息を吐く。縋るようなフィンリーの顔。彼女はかつて────二人でアザリアの街で功績を上げていた時代のことを思い出しているのだろう、とダミヤはその心中を察する。

「俺は今押し付けられてやってるんとちゃう。きちんと使命感を持ってやっとる。ついて来てくれる部下もおるし、協力者もおる。……明後日には一つ大きな仕事が入ってる」

「ダミヤくん……」

「あの町をあんな風にしたのは俺らや」

「そんなこと……!」

「そうなんや。……誰も目を向けて来んかった結果や。せやから逃げる訳には行かん」

 二人の視線がぶつかる。揺らがないダミヤの視線に、フィンリーは諦めの色を見せる。

「………そっか。ウチのおらん間に変わってもうたんか、ダミヤくんは」

「そういうことや。またフィンがいてくれるんはまぁ……嬉しくない訳やないけど。一緒にやりたい言うんはちょっと難しい話やな」

「そっか……」

 しょんぼりとしたフィンリー。そんな彼女にダミヤは一呼吸置いて言った。

「……フィン。久々に組み手しようや」



「いっだぁ…」

「わはは! やっぱ組み手じゃウチの方が上やなダミヤくん」

「リーチがちゃうねん手足長いなほんま!」

 頭を抑えながら立ち上がるダミヤ。格闘は正直苦手な方である。サングラスを外したフィンリーが朗らかに笑っている。

「女やからって手ェ抜かへんでいてくれるのはダミヤくんくらいやわ、やっぱ」

「アホ吐かせ、抜いてたら死ぬわ……」

「あー、満足した。やっぱ帰って来て良かったわ〜」

「おっそろしい女やで……」

 提案しなければ良かった、とダミヤはどかっと床に座った。

「俺が木刀やったら負けへん」

「いや負けへん、ウチの方が若いし」

「関係ないやろ」

 はぁ、とため息を吐くと正面にフィンリーがどかっと座る。

「…………何や」

「決めたわ」

「何を」

「明後日の大仕事ってやつ、ウチも連れてってぇや」

「………………は?」


#20 END

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