表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第2章 裏切られた英雄編
44/214

第43話 裏切られた英雄

 



  ◇◆◇




 私――セツナ・アルレット・エル・フェアファクスは【魔窟の森】の中でテントを張って野営をし、自分のパートナーである先輩――雨霧(あまぎり)阿頼耶(あらや)を看病していました。


 彼と再会したのは一週間前。水を汲もうと川辺に向かった時でした。まさかあんなところに先輩がいるとは思わなくて気が動転してしまいましたが、どうにかテントを張った場所まで運んで手当てをしました。


 それから一週間は眠ったままの彼を背負って移動し、夜には彼の看病をするといった生活を送りました。その時に、極夜さんから先輩の身に何があったのかを詳しく聞きました。


 ダンジョン遠征で黒龍に襲われ、仲間を鼓舞して、ご学友全員を逃がすために戦って、なのに助けたはずのご学友に裏切られて、死にかけのボロボロになって龍族(ドラゴン)と戦う羽目になった。


 それを聞いて、正直私は腹立たしくて「ふざけるな」と叫びたくなりました。


 どうして先輩がそんな理不尽な目に合わなければならないんですか。

 先輩は、救おうとしたんじゃないですか。

 それなのに殺されそうになるなんて、酷過ぎます。


 ――だから決めました。


 先輩のご学友たちが先輩を見捨てるというのなら、私が先輩の傍に居ます。

 先輩の傍に居て、私が先輩を幸せにします。


 そのためにもまずは、先輩の意識をご学友たちから私の方へ向ける必要がありますね。


 どんな方法が良いでしょう?


 オクタンティス王国の王都でお買い物をしていた時やダンジョンに潜っていた時、たまに先輩から視線を感じてはいました。唇や髪、胸やお尻、足やその付け根の辺りとか。


 魅力を感じていない、ということはないと思います。

 だとしたら色仕掛けが一番手っ取り早いですね。


 何が良いでしょうか?


 胸でも触らせてみるとか?

 さすがに直接的過ぎますかね。


 なら、腕を組むのはどうでしょうか?

 街中でならまだしも、魔物が出る街の外だといざという時に動けなくなりますね。


 だとするなら……



「添い寝から始めるのが妥当ですか」



 そうと決まれば早速今夜から始めましょうか。


 決意を新たに先輩の看病をしていると、先輩が苦しそうにしていることに気付きました。



「先輩! 先輩!」



 呼びかけますけど反応はなく、苦しそうにするばかり。

 うなされている? 何か悪夢でも?

 もしかして、仲間だったはずのご学友に裏切られたから?!

 このうなされ方は尋常じゃない。



「先輩!」



 全力で叫んで思いっきり肩を揺すると、先輩は勢い良く上体を起こしました。




  ◇◆◇




 深い深い暗闇の中に俺――雨霧阿頼耶は沈んでいる。


 水中に沈んでいるかのように、体は重くて息苦しい。

 どうにかしたいのに、体は石のように固まって動いてくれない。


 立川たちの、俺を嘲る声が耳朶を打つ。

 周りに味方はおらず、みんなが俺を蔑んだ目で見てくる。


 やめてくれ。

 そんな目で俺を見るな。

 俺が何をしたって言うんだ。


 泣いても叫んでも喚いても、誰も助けてくれない。



「……、……」



 一人で沈み込んで、孤独でいた時だった。

 立川たちの嘲る声とは別の声が聞こえてきた。



「……! ……!」



 それは、誰かが叫んでいる声だった。


 誰かの名前を呼んでいる?

 一体、誰を?



「……! ………い!」



 体が揺らされる感覚がする。

 声が近くでする。


 これは、俺のことを呼んでいるのか?



「……! ……ぱい!」



 暗闇の中に光が射し込む。

 それは太陽のような黄金色で、俺を優しく包み込んだ。


 そしてその光の源へ手を伸ばした時、俺の意識は急速に暗闇から浮上した。



「先輩!」


「っ!?」



 ガバッと俺は身を起こした。



「はっ……はっ……はっ……」



 呼吸が荒い。心臓の鼓動も速くなっている。


 意識して深呼吸をして呼吸を整えることに専念する。しばらくして、呼吸が整った俺は最後に大きく息を吐いた。



「大丈夫ですか?」



 そのタイミングを見計らったように、こちらを労わるような声が耳元でした。鈴の音のようなその声に聞き覚えがある。そして、やはり見覚えのある陽光のような黄金色の長髪が視界に入る。体を絞めるような感触に、ようやく俺は抱き締められていることに気付いた。



「セツ、ナ?」


「はい。アナタのパートナーのセツナですよ」



 どうやら俺が落ち着くのをずっと抱き締めてくれていたらしい。彼女は俺から離れ、顔を覗き込んでくる。



「悪い、セツナ」



 一言そう言うと、彼女はニッコリと笑みを浮かべた。



「良いですよ。でも、汗びっしょりですね。風邪引いちゃいますから、体を拭きますね。洗濯もするから、服を脱いでください」


「あぁ、悪い。ありがとう」



 彼女に言われて初めて、かなりの汗をかいていることに気付いた。


 悪夢を見たせいか?


 そう考えつつ脱いだ服を渡すと彼女はそれを脇に置いて、程よく濡れたタオルで俺の体を拭いてくれた。



「……ここは、どこなんだ?」



 辺りを見渡すが、テントの中のようで、周囲の状況が良く分からない。



「魔窟の森の最東端ですよ。オクタンティス王国からは出ていて、フェアファクス皇国内に入っています」



 オクタンティス王国とフェアファクス皇国は【魔窟の森】を国境としており、両国はこの森を半分に分け、互いの国側で魔物を狩っている。つまり、最東端にいるのでオクタンティス王国側のヤツが来ることはない。国境を超えるからだ。


 そのことに一先ずは安心した。


 しかし、【魔窟の鍾乳洞】は【魔窟の森】の最西端にあったはず。まさかもう最東端にまで来ているとは思わなかった。


 セツナと別れてから三日くらいしか経っていないはずなんだけどな。



「水を汲もうと川辺に行ったら先輩がいるんですから驚きましたよ。でも、無事に目が覚めて良かったです。一週間も気を失っていましたから心配しました」



 甲斐甲斐しく体を拭いてくれる彼女の言葉に俺は目を見開いた。



「い、一週間!? そんなに眠っていたのか!?」


「はい。昼間は先輩を背負って進んで、夜は休んでって繰り返してここまで来たんです。森の中の街道を通ると衛兵に見付かってしまうので、街道を外れて隠れながら移動していました」



 それってつまり不法入国なのでは、と思ったけどセツナの事情を考えれば仕方ない面もあるので黙っておくことにした。



「……迷惑をかけたな」


「いいえ。気にしないでください。それよりも体の調子はどうですか? 特にその左腕とか」


「左腕?」



 言われて左腕に意識を向けると、カルロスに食われたはずなのに感覚があった。驚いて見ると、そこには包帯に巻かれた左腕が確かにある。しかし、そのサイズがどこかおかしい。明らかに普通よりも倍くらい大きくなっている。



「これ、は?」



 シュルシュルと包帯を解くと、その姿が露わになる。それは、異形とも言える姿をしていた。黒い鱗、鋭い爪。それはまさしく、黒龍の腕だった。



「極夜さんから、先輩の身に何があったのか全て聞きました」



 まるっきり変わってしまった自身の左腕に驚いていると、俺の背中を拭いていたセツナが緊張した声で言った。


 全て……全て、か。


 となると、彼女には俺がクラスメイトに裏切られて黒龍と戦い、白銀の光に包まれた存在によって脱出したという経緯も知っているんだろうな。


 できれば、知られたくなかったんだけどな。


 まぁ、この状態の説明をするってなると、経緯についても語らざるを得なかっただろうから、遅いか早いかの違いでしかないのかもしれないが。



「先輩のその左腕は、おそらく欠損してしまったから黒龍の腕になってしまったんだと思います。他の傷はきちんと元通りになっているので」


「と、いうと?」



 セツナは天使が使う言語であるエノク語に対する理解がある。ということは、神聖属性魔術に対しても何か分かることがあるのかもしれない。


 俺は彼女に先を促した。



「魂の大半を損傷した先輩は、黒龍――カルロスでしたっけ? その魂を使って修復をしました。それで合っていますよね?」


「あぁ、その通りだ」


「体を傷付けられて魂も損傷したということは、治す時も同じことが起こるということです。つまり、欠損してしまった部分を補うために黒龍の腕が生えた、ということではないでしょうか」



 なるほど。そういうことか。


 あの白銀の光に隠れていた彼女が言っていた副作用とはこのことだったんだ。確かに彼女の言うように、戦闘では役に立ちそうだが、私生活では不便しそうだ。


 試しに左手を閉じたり開いたりしてみる。


 壊れた人形のように動作が上手くいかないな。



「どうですか?」



 動きを確認していると、肩越しにセツナが見てきて状態を聞いてきた。



「まだ感覚がボケているけど、問題はなさそうだな。しばらくすれば元通りに動かせるようになるだろう」



 イカサマやピッキングはまだ無理かな。でも、無いよりはマシだな。あの白銀の彼女には礼を言わないと。


 そこまで思って、俺は俺を助けてくれたあの白銀の彼女を思い出す。


 あの子、天使種(アンゲルス)戦乙女種(ヴァルキリー)か分からないけど、天族(エリオス)だよな。神聖属性魔術を使っていたし、銀色は神族(ディヴァイン)や天族の特徴だし。


 また会えると良いんだけどな。



「早く左手が元に戻ると良いんですけどね」


「ん? 元に戻る?」



 彼女の言葉に疑問を浮かべると、今度はセツナが首を傾げた。

 どうやら互いの認識に齟齬があるようだ。



「えっと、セツナ。俺の左腕って、元に戻るのか?」


「戻りますよ。先輩、いつの間にか【人化】スキルを獲得しているみたいですし」



 更に意味が分からなくなる。【人化】スキルだって?

 確認のために、俺はステータス画面を開いた。





====================

雨霧阿頼耶 17歳 男性

レベル:64

種族:半人半龍

職業:学生、魔術剣士、冒険者、魔導士、鑑定士、軽業師

HP :3854/3854(+819)

MP :5800/5800(+800)

龍力:5800/5800(+800)

筋力:3934(+819)

敏捷:3962(+836)

耐久:5970(+820)

スキル:

 言語理解、鑑定Lv.8、隠蔽Lv.8、偽装Lv.4、軽業Lv.4、剣術Lv.5、不屈Lv.6、胆力Lv.6、無属性魔術Lv.4、火属性魔術Lv.4、水属性魔術Lv.3、風属性魔術Lv.3、土属性魔術Lv.4、闇属性魔術Lv.4、暗黒属性魔術Lv.2、召喚魔術Lv.1、気配察知Lv.4、魔力感知Lv.4、物理耐性Lv.4、魔術耐性Lv4、経験値倍化、成長率倍化、聖剣適性、魔剣適性、限界突破、龍の栄光、龍の威圧、人化、龍化、危険察知Lv.2、格闘術Lv.3、投擲術Lv.3、槍術Lv.3

称号:

 異世界人、虐げられし者、名も無き英雄、龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)

補助効果:

 隠蔽Lv.8、偽装Lv.4、創造神(アレクシア)の加護、経験値倍化、成長率倍化

====================





 エルダーリッチ戦の時と同じように大変なことになっているステータスに、俺は悪夢によって抱いていた不安が吹き飛ぶほど驚いた。

阿頼耶くん、何だかんだでかなりセツナちゃんに面倒をかけてますね(笑)


次話は29、30、31日の三日間で更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ