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女神  作者: 勝目博
12/13

理由

残り2話。次々と判明する理由。驚く亮二は・・・。

具合が悪くもないのに、病院のベッドに寝かされるのは、どことなく照れくさかった。亮二はそう思ったが、身体の中では、確実に死への秒読みが始まっていたのだ。母と弟、課長がまわりにあつまっている。だが、病気の話は一切話題には上らない。皆、気を使っているのが、亮二にも伝わった。看護士が体温を測り、注意事項を母に伝えた。時間は刻々と迫ってくる。冬は来ない。時たま母が電話を掛けに行くが、首を振り振り戻ってくるのだ。和やかに見える雰囲気も、看護士の一言で終わりを告げた。

「そろそろ、準備します。廊下でお待ちください」母は、名残惜しそうに亮二を見つめた。カーテンが引かれ、看護士が着替えを亮二に渡した。頭もキャップをかぶせられ、亮二も幾らか緊張し始めた。

「大丈夫、心配しないで」

「ありが・・・・」冬だった。看護士制服を着ているが、その顔は冬に間違いなかった。亮二は驚きで声を失った。自然と目から涙がこぼれた。会いたかった冬、その冬が目の前にいる。

「冬・・・」亮二は声にならないほど小さく呟いた。

「私は冬ではないの。でも、彼女はよく知っているわ」身体はせっせと仕事をしているが、顔だけは亮二に向かい、優しく答えた。

「でも・・」亮二が手を握った瞬間、冬の顔は先ほどの看護士へと戻っていた。

「大丈夫ですよ」看護士は優しく亮二の手をはらった。亮二の涙が、看護士の気持ちも変えたようだった。可哀想にと、その表情が語っていた。準備が終わると、もう一人の看護士が、ストレッチャーを運んできた。テレビとかではよく見る、キャスター付きのベッドだが、それに乗るとは、亮二も思いもしなかった。カラカラという音と共に、天井の蛍光灯が頭上を移動する。エレベータに乗せられたが、上か下かも見当がつかない。母は亮二の顔を覗き込み、ぎゅっと手を握った。多くの扉を抜けたあと、証明の沢山ある部屋に辿り着いた。手術台に移動させられ、医師が亮二に話しかけた。

「これから行いますが、全身麻酔です。気がついたら終わっていますよ。緊張せずに任せてください」マスクで顔は見えないが、声から笑顔が想像できた。その間も、点滴の注射が打たれ、脈拍、血圧、体温などの測定装置が、亮二の身体に取りつけられていった。

「では、麻酔をかけます。10から逆に数えてください」10、9、8・・・亮二は電車に乗っていた。

あの電車だ。古めかしい電車だが、故郷の電車。そして学生とおばあさん。その学生が亮二を見た。あの時と同じ父だった。父は笑いながら亮二に近づいた。

「良かった。手術を受けてくれて」学生の父が言った。その時おばあさんも立ち上がり、亮二に近づいた。しかしその人はおばあさんではなく、冬だった。いや、光の冬だった。

「私たちは、貴方を見守っていました。貴方の運命も決まっていました」光の冬が話した。

「どういうことですか」

「本当ならば、まだまだ、先のある貴方の寿命を、貴方は自ら捨ててしまうのです」

「なぜ」亮二は理由が判らなかった。

「貴方も見たでしょう。黒い霧を。思ったように死神です。貴方は死神に憑かれ、手術を拒否するのです。弟のことを思って」亮二は思い出した。死神が言った言葉を。死神は、弟も同じだと言っていたのだ。おそらくその時に光の冬が現れなかったら、その言葉を信じ、手術は受けなかったかも知れない。しかし、亮二には冬がいる。手術も受けたかもしれない。その時、光の冬が言った。

「彼女は私の娘です。もちろん私たち同様に、貴方を守っていたのです」亮二はその時全てを悟った。冬が亮二の前に現れたことも、皆が冬に注目したことも、老婆が拝んでいたのは、それが見えたからだったのだ。学生の父が亮二の肩を抱き、静かに言った。

「お前には苦労をかけた。すまない。でも、これからは幸せになってくれ」亮二も父に抱きついた。そして光の冬に尋ねた。

「じゃあ、もう冬には会えないんですね」

「あの子の仕事は終わりました。春の訪れと共に。あの日貴方が送った日が最後です」亮二の目から涙がこぼれた。手術台の亮二も涙を流していた。手術は4時間で終了した。亮二は麻酔で眠ったまま、病室の戻ってきた。手術の成功をきき、母も弟も安堵の表情を浮かべ、医師に感謝の言葉を何度も言っていた

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