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 本能が訴えています。

 この人を私が相手にするにはまだレベルが足りません!

 生前+αの経験値は、この腹黒イケメンにはまるで歯が立たないことを訴えるくらいで勝利への方程式なんか描いてくれなかった。


「どうする?消す?」


 ーー怖い。

 待ってくれ。ひとつの人格について消すって美形に笑顔で迫られて、じゃあ消しましょうかって、微笑んで返せたら、人として終わっている。

 うーん。ほら、えーと、……やばい。私、藤咲さんのせいで、完璧に怒りの炎が鎮火寸前だ。待て、最初から躓くんじゃない。頑張るんだ。ほら、そういう歌が懐メロで流れていたじゃないか。負けない……あ、著作権が心配だから、止めよう。頭の中ですら制限されるのか。大変な時代だ。よし、頭がいつも通りになってきた。うん、今なら言える。


「……け、消さない方向で」


 目線を外しながら頼んでみる。誰だ。ヒヨリやがってとか言った奴は!君は忘れている。私が小者だという事を!小者がそんな重大な、


「じゃあ、三日後には消しておくから」

「消さない方向で!せめて、お話をさせてください!!」


 どうして、笑顔で怖いことをいうのかな?この人。


「だって、確かに君の中に有ったものだけど、邪魔にならないくらい小さかったけど増幅させちゃったから、ちょっと邪魔になるかもしれないよ」

「藤咲さん、擬似餌って言いましたよね!?」

「言ったけど。なんにもないところから発生するものじゃないでしょ」


 にっこり、非情なお言葉。

 リーンッ!

 ちょっと友人選ぼうか。ふ、友達のいない私に言われたくないだと。甘い。私には、ひばりんとマナルンっていう、……そ、そのともだち…っていうか。友情をはぐくんでる仲の子がいるんだから!

 ちょっと、ボッチじゃなくなり始めたよ。たぶん。


「人を陥れる時は外からより中からいった方がいいよ。俺、そういう点だと便利な能力持ちだからね」

「べ、便利な能力について聞いても!?」


 あ、めちゃくちゃいい笑顔。


「教える訳ないじゃないか」



 ーーこの人、嫌い。



「まあ、『この土地』に呪われてるのは確かだから、その分、便利な能力でもないとね。」

「?そういえば、リンが『この土地』から出て行ったって。また、帰ってきますし、もともと他県から引っ越してきたはずだから不思議じゃないんじゃ」

「『外』で弱ったから連れてこられたんだよ。多分、……孫くらいか」


 なぜ、肝心なところを濁した!?


「悪魔と契約している秋月さんならある程度推測できるんじゃない?」

「相手を依存させる方法?」

「……秋月さんって、変なところで素直だね」


 かわいそうな子を見る眼をされた。な、何故だ。

 やれやれと、頭を振り少し考えてから説明してくれるようだ。


「悪魔は、契約者が自分から離れていかないようにしたい。だから『堕落』させようとしているのは、契約者自身だって知ってた?」

「いいえ、全然ですね」

「なんで、そんな元気な返事なの。秋月さん、あれに狙われてるって言ってるんだよ」


 へー。


「契約者を精神的に追い込んで、もうこの世に未練がないようにして魂を一緒に自分の国に連れて帰ろうとしてるんだよ。わかってる?」

「私、アディーに嫌われてますよ?」


 何故か、沈黙された。嫌だって、実家に嫌いな奴を連れて帰ってどうするんだ。あ、連れて帰った数がステータスとか?


「納得できる理由ができた?」

「はい、ステータス」

「まあ、あれの気持ちを代弁してやる気は一切ないからいいよ。知らないし」


 何故だろう。いま、物凄くダメな人間としてレッテルを貼られた気がする。いやだって、…あ、そっか。


「『真名』を知っているからかも」


 藤咲さんが目を丸くした。知り合って、そんなに立ってないが、こんなまぬけな顔は初めてだ。


「もう『伴侶』として誓っているの!?」


 おおう、そろそろこの口を縫え!とか誰かが突っ込んでる気がするが、仕方ないじゃないか。これが私の本分だ。……反省はしている。しかし、まずかった。


「イイエ、ツイウッカリホンミョウヲイイアテマシタ」

「なんで、片言なの」


 じーっと、女子の憧れ、碧眼の目に見つめられると照れちゃうね!私は罪を犯した罪人の気持ちだけど。


「…隠し事はお互い様だから、全部吐けとは言えないか」


 あっさり引き下がった。どうしたんだ。警戒レベルを上げろというのか。しかし、


「天使様との話が違いすぎて、どっちを信じて良いのか頭がこんがらがります」

「当り前だよ。悪魔にだって種類はあるし、あのお堅そうな白銀の美人でしょ?どれだけ、他と情報交換できてるかわかったもんじゃない。どうせ、本に載ってる事がすべての優等生だ。だから、裏をかき易い。ついでに俺は人間だけど、自分の存在の位を高める方法が有るんだ。秋月さん、協力しない?」


 にこーって、なんだろ。逆らえない笑顔だけど、逆らわないといけない気配がする。


「『この土地』から出たいから、ぜひ協力してほしいんだけど」


 う~ん、別に構わないと言って良い内容のはずなのにどうしてか、良いよとは言えない。なんでだろ?

 ……あ、信用できないからか。


「私の中で出来た彼女を消さないとしたらどうなりますか?」

「悪魔に利用される」


 そうなんだよね。それが一番憂慮すべきことなのに何故か、消す気になれない。あれ?私、こんなに甘い人間なのか?

 なんか、もっと違う理由があるような。


「……消したくないなら、あの頭の固そうな天使と『契約』すればいいよ」


 私がうんうん唸っていたら、藤咲さんが溜息とともに助言をくれる。ん、なんだって。


「もう、たいしたことは出来ない。悪魔の能力を借りなければ表に出れないけど、それでも、誰かを傷つけられたするのが不安なんでしょ?だったら、きちんと『見張って貰えばいい』」


 なるほど。私は、藤咲さんに微笑んだ。うん、結構なヒントを貰った。


「ありがとうございます。藤咲さん、さっそく、アディーと契約切りますね」

「……え?」

「は?」

「なにを?」


 あれ?いつの間にかセラ様とアディーがいる。


「る、るか!ど、どうして契約切るの?おれ、なんか、失敗した!?」


 アディーが何故か、私に走り寄ってくる。お前、あんだけのことしたくせにと殴ろうとしたら、セラ様が鎮痛な表情で首を振った。


「お前とアレの区別がつかなかったらしい。初めて、お前を『堕落』させたと大喜びしていたところを捕まえてきた」

「べ、勉強が実った」


 どこか誇らしげな美少女アディー。…勉強家だね。でも、私、周りを巻き込むなって……アディーの前では言ってないか?あれ?

 しかし、うん。それじゃあ、これで一矢報いることができそうだよ。藤咲さん。


「藤咲さん、私を聡明って褒めてくれていたのに残念です。どうやら、ヒントをたくさんくださり過ぎたようです」

「?どこが」


 あ、確かに藤咲さんの説明だけじゃ足りない。……大見得切ったのに騙るに落ちたなすっとこどっこい!が出来ないのに私、立ち上がり、びしっと指を指してしまった。どうしよう。時代劇の勢いで御用だ!!をしようとしたのに。

 えーと。えーと…、


「ま、前から知っていたことがありまして」

「……秋月さん」


 しりぼみしはじめた私の勢いに藤咲さんが話がまとまらないなら明日で言いよって。

その優しさが痛い。どうしよう。思わずセラ様を見たら、頭を押さえている。




「ふ、藤咲さんの目的は、アディーとセラ様を陥れることです」

「うん、否定しない」

 完。










 じゃないよ!!


「お、おかみにも慈悲ってものが」

「落ちつけ」

「が、がんばれ」

「ファイト」


 貶められている。いま、悪魔と悪魔みたいな人に確実に貶められている!

 藤咲さんの上着を思いっきり踏みつけてしまった。た、高そうなのに!!

 お、おかしい。私は怒れる復讐者なはずなのにどこで間違ったんだ。

 藤咲さんが、私のテンパった姿を哀れに感じてくれたらしく、自分の発言を思い出しながら、私の代わりにまとめ始めた。


「えーと、つまり、俺が『この土地』から出て行く為に自分の位を上げようとするために天使と悪魔を陥れようとしている。で、いい?」

「…ひゃい」

「で、悪魔と契約している秋月さんをカモにしてた。それで、もうひと企みを起こして、天使と契約を薦めたのになんで、悪魔との契約を切ろうとするのかってとこまででいい?」


 ベンチに座りなおすことを藤咲さんに勧められた。そして、丁寧に自分の悪だくみを説明せざる得ない状況にされた悪役に申し訳が…。


「で、どうしてって聞いた方がいい?」

「せ、セラ様のお力が供給できる状態じゃないからです」

「な」


 あ、やばい。これセラ様に聞いてないことだった。まあいっか。セラ様がびっくりしている。だって、無尽蔵な力なら『メインルート』で消えないじゃん。


「だから、私の為に力を使ったら消えちゃうんじゃないかと。なら、アディーは契約しているのが私だから『彼女』と交信できるんじゃないかと思って。もう、あんなに元気だから。契約切っても大丈夫かなって」


 アディーよ。なんで、滂沱のような涙を流している。感動か。私から卒業できることの感動か。藤咲さんがふぅーん、と頷いた。


「軽く見ていたつもりはなかったんだけど……、わかった。自分のやったことだから、『彼女』が消えるまで、外に出ないようにはするよ」

「え、話し合いの場も欲しい」

「あのね。秋月さん」


 呆れ声ととも耳を摘ままれた。痛い。な、なぜ??


「彼女は、君の中に居たの。つまり、小さくても君自身。同じ人間が同じ空間に存在できる訳ないでしょ。さっきも言ったけど、秋月さんは君だから。一緒に外に出した瞬間あっちが消えちゃうよ。消したくないなら、ほっといてあげなさい」


 そうなのか。でも確かに自分が何人も存在したら怖いな。


「えー、あと口約束じゃ信用できないので、なんかないですか?」

「……本当に聡明な子で」


 そういって、自分の指を噛み血を…え、やな予感。


「はい、口開けて飲んで」

「セラ様、代わりにどう!?」

「いらん」

「ご、ごめん。同種の血、伴侶でもないとだめ」


 誰も助けてくれないんだ。そうですか。


「血液って、きたな…」

「突っ込むよ」


 あ、ちょっとマジでいい笑顔ですね。



 拝啓、お父様、お母様、お姉ちゃん。ルカは、今日、人様に口の中に指を突っ込まれえずくという経験をしました。素直にぐれた方が楽かもしれない娘でごめん。



 ぐったりしながら神取の元へ戻る。エスコートはいりませんが、藤咲さん。


「一緒に出て行って別々に戻るとか外聞が悪いよ」

「そうなんですか?」


 世の中、知らないことばかりだ。セラ様たちは太刀川さんのほうに先に帰って貰った。


「片倉に謝るとき一緒に行かない?」

「え、良いんですか?」

「うん。片倉も君が一緒の方が……、げ」


 げ、ってなんだろ?

 視線の先を追えば、あ、確かにゲッだ。


「藤咲に『小鳥』?」

「藤咲に……お前は」


 もう遅い時間です。子供は帰りましょう。

 やばい。天久兄に会ったことより、確実に私を誰か認識した会長様の方が厄介だ。待ってくれ、私、明日お姉ちゃんにスライディング土下座を決行する予定なんだ。

 やめてください。会長様、射殺す勢いの目がマジで怖い!!



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