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回れ、右!
と、体を半回転させようとしたら藤咲さんにガシッと腕を捕まれた。何故だ。と恨みを込めて見つめるさわやかに。
「頭の堅い眼鏡の相手をよろしく」
……えー。
「やあ、天久。今日は『鶴』もいるんだ。おとなしく反物でも織ってればいいのに」
何故、あんなに人をからかう事に全力を投じれるんだろう。え?私も?……ち、違うよ。あんなに腹黒くないよ!
しかし、鶴?ーー反物、鶴……?鶴の恩返ししか思い付かない。
「……お楽しみだったようだな」
何故、私を見ながら言うの?
むしろ、精神力はガッツリ削られたよ天久兄。会長はなんで、藤咲さんの上着見て渋面なの。確かに皺だらけだけど、別に藤咲さんがだらしないせいじゃなくって、私がおもいきっり踏みつけたせいだよ。
「無粋な事を言うなよ。遵。ああ、彼女は疲れたらしいからエスコートを頼むよ。俊平」
喧嘩売らないでください。
「ーー何故、俺が」
そうだよ。誰も要らないよ。藤咲さん、何、その嫌がらせ。会長様が私をねめつけてる。
しかし、藤咲さんがもの凄い満面の笑顔だ。
「時期当主同士の話にお前が入るのか?」
…………室内の冷房が効きすぎている。たぶん、今ならスクワットを五百回しても汗をかかない自信がある。しかし、次の日は確実に筋肉痛だけどな。カイチョー、その方を睨み付けても胃に穴が空くだけです。こっち!もう、こっちに来て、私の相手なら頭痛くらいで済むはずです!
ど、どうしよう。あの中に入りたくない。でも、会長に恥をかかせた状態も私には優しくない展開だ。
私があわあわとして、その場で固まっていたら、後ろからドンッと、誰かにぶつかられた。
「ふお!?」
淑女らしかぬ掛け声で、踏ん張ろうとし、一度は持ち直したが、なにぶん履きなれないヒールだ。すぐにぐらつく。わー、転ける。と思ったら、肩を誰かに支えられた。……やあ、会長。
「馬鹿が、
これ、私にじゃないよ。私にぶつかってきた小太りのあからさまな坊っちゃんスタイルの少年を睨み付けながら言ってるんだよ。
「な、なんだよ」
うんうん。怖いよねー。あれ?この子、どこかで…、あ、マナルンの弟……って、ゲッ、盗撮くんじゃないか!!
「美草!会場で走るなって何度言えばわかるんだ」
「五月蝿い!その女がボーッとしてるのが悪いんじゃないか!!」
あーあー、サスペンダーと半ズボン。おかっぱ刈りのゲーム時は、確か高一だった奴か。
ん、私と同い年か。高圧的な態度でいつも周りを見下し、趣味が下着泥棒と盗撮の……ギャルゲーとかって、どうしてそんなキャラを一人は創るんだろってお約束なやられキャラか。………攻略できないよ?あ、でも、選択肢次第でイケメンになってエンディングに現れたとか……、イケメンだから、犯罪が許されると思うなよって、批判されたんだった。うん、なんでコイツをこんなに覚えてるんだろ。
「私、平気です」
あの子にいつまでも関わるのは精神的にキツイ。
「謝らせないのか?」
「たぶん、謝りませんよ」
私が噛みつかないのが不思議でならないらしいが、会長様、あれ、どうにもできないタイプだから。
確か、盗撮がばれて女子にボコボコにされるイベがあったが、のらりくらりと謝罪だけはしなかった。……マナルンには悪いが、彼も彼女に関わりたくなかった一因だ。
私が、ふう…とため息を吐き、しかし、気になることがあるので、会長に頼んでみる。
「たぶん、彼、私と藤咲さんの様子を盗撮してるので取り上げてください」
は?って、顔された。
いや、あの子、確か自分が狙った獲物が大した成果も見せなかった場合、八つ当たりにぶつかっていく奴なんだよ。私が、そう言ったら会長ではなく、藤咲さんが指をパッチンした瞬間、黒服の男たちが盗撮くんを取り押さえ、どこかに連れていった。なんか煩かったけど、仕方ない。
数分もしないうちに証拠があがったのか、黒服が藤咲さんに耳打ちをする。……最初は苦笑していたのにだんだん渋面になっていく藤咲さん。
「愛川さんに言っても聞かないんだろうな。彼は」
「……言って聞いてるなら、矯正は、いくらでも出来ただろ」
ひそひそと話し合って藤咲さんと天久兄が頭を抱える図って。
私が所在なく、ぼーっとしていたら会長様に腕を引かれる。
「状況は、あとからメールしてやる。今は帰れ」
「あ、はい」
確かに今、この場に居ても天久兄に絡まれるだけか。
しかし、向かう先が何故、エントランスなのか。私、神取の元に戻らないといけないのに。ああ、そういえば、神取と知り合いだってわかんないからか。
「会長、私、おじ様の元に戻りたいんですが」
ピタリッと止まる足に私はホッとした。いやー、足が痛くてね。
「……お前、売りはしてないと言っていたな」
「もちろんです」
どうしたんだろうと、そそっと顔を伺えば難しい顔だ。
「ならば、藤咲が好きなのか?」
好きか、と聞かれて……どうなんだろう。ひばりんがヒロイン様に感じる恐怖とは別物ではあるけど、怖い。
「底意地の悪さを感じます」
「質問の答えになっていないが、男女の仲でもないのだな」
よし、その喧嘩買った。
「会長、保健体育の授業を実地無しで私から受けたいようですね。ええ、会長と私の二人っきりなんて無謀はしませんよ。ちょうど、マナルンのところで新人教育もするとか聞いてますので、結構な大人の中で、延々と私の知る限りの知識を会長様に教えましょう。…睡眠教育も視野に入れましょうか。『無責任な恋愛・教育費地獄』が入門編ですがどうします?」
「入門編からだいぶハードな気がするが」
バカな。世の中これ以上のどんどこ蟻地獄があるというのに話を聞くだけで顔色を悪くしていては騙されるぞ。私が、ファイティングポーズをとろうとしたら、会長様が苦々しい表情のまま、
「ウリもしていない。藤咲の恋人でもない。なら、その姿はなんだ。短い付き合いだがお前にはそんな姿は似合わん。馬鹿なのだから、ただ、へらへらしていれる場所にいろ。…何故、誰かの目に留まろうとする」
「あ、そういえば、よく私だとお気づきになりましたね」
話題を変えようとかじゃなく、ただ天久兄と藤咲さんも私だと気づかなかったのに何故か、いっぱつで気づいた会長に称賛の気持ちを送ったのに憎々しげに睨まれた。
「お前が、俺と一緒に居すぎるせいだ」
会長様の私を判別する勝因は、人付き合いの少なさのせいか。
「俺を見た瞬間、どう逃げようとか考えただろう。捕まったら、そのよく回る口でどう切り抜けるかか?」
「あ、ときどき何にも浮かびません」
「………タクシーを呼んでやる。そのまま帰れ」
「お金がないので乗れません」
「どうして、そういうところだけ現実的なんだ!?」
「バカな。支払わないで乗れるとでも!?」
「俺が払うから帰れ」
「人を待たせているので却下します」
何故か会長と睨みあってしまった。だが、眼光の鋭さに三秒も持たずに視線をそらす。そこでこらえきれなかったとばかりに笑う神取の声が響いた。
「おっさん、いつの間に」
「こら。まだ、人の目があるのだから口の聞き方には気をつけなさい。すまないね。天久君、娘がお世話になったみたいだ」
でっかい爆弾を落としやがった。
「むすめ?」
「いでんしじょうは」
下手に騒ぐのも得策じゃないと判断。
「神取蓮の?」
「不可抗力です」
何故、頭を抱えるんですか。
「知っていれば、真っ先に付き合いを控えたい候補だ」
「おや、正直だね」
正直、私も関わりたくないのだが。
「姉もいたな。そっちもか?」
「会長、私の全力のタックルをくらいますか?」
私の殺意を感じ取ってくれたらしく、会長は視線をそらしながら、すまないと。
「なんというか、売春の噂が流れても仕方ないな」
諦められた。私、確実に会長様に諦められた。げんなりしないで欲しい。しかし、ここで終わるのは面白くない。何か名言を残して帰ろう。
「昔の人は良いこと言いました」
「…なんだ」
何故、身構えるんだ。会長。
「死なばもろとも」
きゃって、最大限に媚びて見せたのに無言で頭を抑えつけないでください。
しかし、話はここで終わらなかった。神取はこれから予定があると別な車で帰るらしく私は太刀川さんと神取の自宅に戻る。明日のために英気を養おうといそいそと玄関に入ろうとしたら、後ろで太刀川さんが「ルカさん、申し訳ありません」と呟いた。
なんだろと、思いながら玄関への一歩を踏み込もうとしたら、どこかでシャーっという威嚇音が。な、なんだ?聞き覚えが、
「随分、遅いお帰りね。ルカ」
女神ーーではなく、背負っているスーパーマングースは大きな角をはやし、目が全く笑っていないお姉ちゃん………魔王が来たよーー。
ぷるぷる震えるしか出来ない私にお姉ちゃんは優しく甘いセイレーンってこんな声で舟人をたぶらかしたのかなと思える声で、
「お姉ちゃんに何か言うことはないのかな」
のちにそれを見ていた太刀川さんは語ったらしい。
「あんなに見事な土下座をする中学生を初めて見た」とーー。
床に額を押し付けて全力で謝ったおかげだろうか。




