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「こ、こんな高い店…支払いとか…」


 うさちゃん先生が私と同じことを悩んでいる。

 姉弟喧嘩の仲裁をした藤咲さんは、私共々姉弟を近くの自分のオススメの店に強制的に連れてきた。ショッピングモールの中もピンキリなんだと改めて恐怖する。


 働いている大人が支払いを恐怖する店って、水に値段のついてる店ですね。わかります。………何も注文しないのはダメだろうからお水だけ飲んで帰ろう。雰囲気的にイタリアンかな?


「軽く食べる?それとも、デザートがいいかな。連れてきたのは俺なので遠慮せずに」


 うさちゃん、半泣きになってはいけません。情けなくないです。この人がおかしい。デザートが二千円近いとか、私なら泣く。メニューを眺めながら顔面蒼白なうさちゃんは正しい。私、支払い無理。いつか食べたいと願っている学校近くの喫茶店のジャンボパフェだって、約八人前の量で千八百円だ。

 それなのに普通サイズでこの値段。高い、高すぎる。己、ブルジョワめ。金銭感覚が狂ったらどうしてくれる。

 隣に座っている藤咲さんを睨みつけたら、耳を貸せとジェスチャー。近寄って、耳を貸したらヒソヒソと。


「話を優位に進めたいなら、自分のフィールドにあげるのも手なんだよ」


 ……なるほど。

 確かにあんなに暴れていた弟ーー鮫島陽翔(さめじまはると)は、借りてきた猫よろしく大人しくなっていた。

 鮫とうさちゃん…なんかそんな昔話があった気が…。


「で、卯佐島先生。そちらの子は?まさか、未成年と付き合ってる訳じゃありませんよね。」


 藤咲さんの話の入り方にえ?となった。何故、うさちゃんを責める。悪いのあのヒーロー様だ。


「違うわ。弟なの」


 慌てて訂正するうさちゃんにヒーロー様が傷ついた顔をした。ん?


「そうですか。弟さんですか。初めまして、天匙中の三年藤咲葵といいます。てっきり、我が校の教諭が未成年と痴情の縺れなんかしているのかと思い、慌てて学校法人に連絡するところでした。良かったですね。とりあえず、話し合おうと」


 チラッと私を見る藤咲さん。なんでしょーか?


「彼女が、言ってくれたお陰ですよ。俺一人ならどうなってたでしょうね。せんせい(・・・・)?」


 サーッとうさちゃんとヒーロー様の血の気を引いていく。そして、うさちゃんが私の方を見て、半泣きで頷いてる。なんだ?

 勝手に注文されたデザートに手をつけながら、…考えたら、お姉ちゃんの服がキツくなってきたのただ単に私が横に伸びてきたせいじゃ…ち、違うよ。ちゃんと図書館通いをしてるから、動いてる。ハッ、お母さんが買ってきたアイスをこっそり二個食べてるせいか。一日一個なのにお父さんが内緒って言いながらくれるのがいけないのか。己、お父さんめ!……自業自得です。はい。

 しかし、私、なんにも言ってないのに何で、私の手柄みたいな言い方するんだろ?藤咲さん。

 ジーッと見つめても、意図の読めない笑顔だ。


「あ、…えっと」


 お財布の中身の確認を始めて、涙ぐむうさちゃん。わかってる。大人だもんね。生徒に奢られる訳にはいかないよね。みんなの分奢りたいだろう。

 私、下着買ってもらったけどね。……代金の返済は十回払いで良いでしょうか!


「先生。支払いはもう終えてるので。後、秋月さん、あれはプレゼントだから」

また、心を読まれてる!?

「ご、後日に」

「要りません」


 きっぱり断りやがった。欲しがろうよ!お金は大事だよ!?

 うさちゃんの大人のプライドズタズタだよ。

 怖い。ちょっと、藤咲さんの詳しいプロフィール思い出せないだろうか。えーと、確か……駄目だ。脳が霧がかっている。これ、興味なかったせいか?

 ……しかし、ヒーロー様が俯いている。なんだろ。この『嫌われヒーロー』あるいは『ナルシー男』『自分大好き愚図』……数々の暴言を欲しいままにしている彼が黙ってると怖いな。

 ヒロイン様で懲りていたせいで、この男も未攻略。ネット上の荒れ具合はヒロイン様を超えていたような。あんまりにも病んでいる意見ばかりで、私が病みそうになった。コイツ、一体何やったんだ。逆に怖い。

 End自体は攻略本を見る限り『天使ルート』は幸せそうなスチルだったし、『悪魔ルート』は、女主人公に後ろからめった刺しにされるという『天使と悪魔の楽園』のオチとしては普通の部類なのになー。

 ……………うん、これを普通とか言えるとしたらとんでもなく病んでるね。知ってたよ。


 紅茶を飲んで、解散となった。あの程度のことでよかったのか。もう少し釘を刺すべきなんじゃと思ったけど、藤咲さんが黙って私を誘導した。


「藤咲さん」

「彼、今、プライドが刺激されただろうね。ついでにうさちゃんにご退場してもらったから、そろそろ来るよ」


 にこやかに殿に呼び出してもらったと語る藤咲さんに私は疑問符が浮かぶ。

どうして、プライドが刺激されるんだ。

この人の言うことは、わからん。ううん、頭が曖昧にしたがっている。……ん?従っている?


「……秋月さん、考えることは良いことだよ。でも、ちゃんとついてこないと転ぶよ」

「あ、はい」


 自然に差し出された手を反射的に握ろうとした瞬間に


「おい。藤咲葵とチビ」


 聞きなれない声が後ろからしたが、私はチビじゃないから振り返らない。

 しかし、藤咲さんは振り返り、なんでしょうと答えた。まあ、フルネームで呼ばれたしね。


「姉さんの前で、恥をかかせやがって」


 んん?

 うさちゃんに恥をかかせた度合いは君の方が高いよね?

 むしろ、人前で抱き着いていたお前、なに?

 そして、あれの方が恥じゃないの?


「秋月さん、頭のかわいそうな人はどこにでもいるから」


 頭を撫でられた。私の心の疑問に答えないで、藤咲さん。

 しかし、そんな態度の藤咲さんが気に入らなかったらしく、睨みつけるヒーロー様。


「おい、聞いてんのか!」

「聞いてますから、出来れば、どこかゆっくり腰を据えて話しましょうか。ああ、今度は『君でも支払える場所』でいいですよ」


 にこやかな藤咲さんの嫌味にようやく気付いた。私とうさちゃんは大人のプライド目線で戦々恐々していた場所で、彼は同い年くらいの少年が余裕の態度を崩さず、大人ですら、支払いを恐怖する場所ですまし顔で支払いを済ましていたのだ。 そりゃ、男の子だもんね。ラッキーと思えるか悔しいと思うか多感な時期の子の心理は難しいが。彼はシスコンらしいから好きな人の前で違う男がカッコいいふるまいしたら悔しいか。

 歯噛みするヒーロー様に当たらずとも遠からずだろうと勝手に推測する。

しかし、またお茶しなきゃいけないんだろうか。そろそろ、私のおなかはみずっぱらなのだが…。




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