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 美術部の人間はほとんど居なくなっていて、室内楽部の顧問に美術部の顧問が申し訳なさそうに礼を言いつつ、謝罪している。

 片倉さんに訊いたらリンの演奏を無理やり聴きに来て終わったら、美術部の人間はもう用はないと言わんばかりにちらほらと帰ったらしい。……ちょっと失礼じゃないのかな?ともらしたら耳ざとく聞いていた雅さんが「ミーハーはいない方が練習に集中できる」と辛辣だ。

 お姉ちゃん含む残ったメンバーと一緒に三年生四人で弾くという文化祭で弾く曲を聴かせて貰った。

 女子の先輩が何故か半泣きになりながら「藤堂の後とか、マジ無理」と……部内で涙を誘い周りの皆様にガンバレー!と声援を受けていた。藤咲さんも、「同意」と悲壮そうだ。雅さんが一番大きな楽器で、片倉さんがヴァイオリンより微妙に大きい……ヴィオラを弾いているらしい。

 楽しかったので帰りに鼻歌で歌ったら、リンにチョップされた。

 ……いいじゃんかー。音痴でも歌って、いいじゃんかー。

 雅さんは今日は来ないらしい。



「すまない。あまり家族から離れたくない」



 ……前世ややり直す前の経験から、出来る限り家族から離れないようにしているらしい。……独りにさせられたら困るって言ってたけど……。雅さんも全部は話してくれていないのだろう。

 佐伯さんがまだ居たので、リンが「学校は?」と聞くと「まだ留学中って事になってるみたい」と悪びれもせずに言うので、リンがチョップした。

 補正かー。



「あと、達也君だっけ?」

「何」



 ちょっと待っててとリンの家に一度引き戻し佐伯さんが片倉さんに発泡スチロールの箱を手渡す。



「これ、お兄さんからお世話になってるから渡せって。後『父共々、しばらく忙しい』だって」

「……それで、オレにどうしろって言うんだ…」

「さあ?」



 確かに帰ってこい。なのか、そのままお世話になれなのか理解しづらい。後で連絡して訊いてみるそうだ。

 箱を開けたら、肉だ!!



「焼き肉セットですね」



 わーい!と喜んだら、藤咲さんがちょっと待て。とストップをかけた。



「悪い。片倉、俺の方も着替えのついでに長谷部さんが人数分の寿司を持ってくるらしくて…」



 お寿司!



「……ルカがおあずけさせられている飼い犬状態ですね」

「こんなに喜ぶってルカちゃんって、食べさせがいがあるんだろうなー」

「焼き肉はあとでも良いよね?」

「お寿司に合う献立は……」

「それも長谷部さんが持ってくるみたいだから」



 藤咲さんの言葉にお姉ちゃんが、そこまで……と申し訳なさそうな顔をしたけど。

 ……お寿司、食べたいので黙る。

 明日は焼き肉か。む、からあげ、カレー……高カロリーが続いているような……ちょっと、お腹の肉を掴んでみる。掴みやすくなった?

 ぽにょって、効果音が着きそうな………。肥ったのか……?



『『『ーーうぅん、仕方ないよ!お客様を接待してるんだから!!』』』



 脳内会議がまだ大丈夫!お母さんが中古で買ったキャンプに入隊しようと騒ぐので、藤咲さんの目が冷たい。

 そして、その様子をばっちり見ていたのか片倉さんに「朝、一緒に走る?」と誘われた。

 見なかったふりをして!!

 あ、よくよく比べると片倉さんの茶目って、甘い方のチョコレートに似てる。……『お兄ちゃん』は、ビターだったので、佐伯さんもビターだ。

 お姉ちゃんが掃除と洗濯をしている中で長谷部さんに対応したのは私だ。

 インターホンが鳴った瞬間、待ってましたとばかりに出てきた私に長谷部さんは灰色の瞳を細め、微笑んだ。 ……それが誰かと重なった気がしたけれど、長谷部さんがすぐに口を開いた。



「大丈夫みたいですね」



 私が無事な姿がお気に召さないのかそんな事をいうので警戒心をあげる。



「なんですか?」

「いえ、葵さんと『契約』した人間は貴女が初めてですから。……こんなに長く隣に居るのに普通だとは……」



 市長に実験されているようだ。

 あの野郎。



「お寿司は、長谷部さんが?」

「いえ、赤人様です。……葵さんの好きなお店のですから味も質も保証するそうです」



 ……アボガド海老がなかった。がっかり。しかし、玉子はキープしよう。



「長谷部さんも食べて」

「冬馬くん?」



 行きますかが、遮られた。

 突然現れた万葉さんに私がポカーンと口を開くと長谷部さんが辺りを見回し、「貴女は、秋月ルカでしたよね?」と聞いてきた。いや、長谷部さん。冬馬ってさすがに私じゃないって……。

 天然?

 一応頷くと万葉さんに視線を向け、ため息を吐く。



「我々の接触は許されていない筈ですが?」

「……偶然はどうにもならないわ。……でも……赤人さんったら悪趣味だわ。まさか、ここまで似ていたなんて……私にも『制限』を掛けていたのね」



 なんだか市長を責めているようだ。

 憎々しげな万葉さん。市長のあの人間味のない算段の仕方は尊敬すべきか。……ないなー。



「万葉さん?どうしたんですか?」

「ルーちゃんが、いまだに行動しないから……からかいにきたの」



 私にそんなことを軽い口調で言いながら長谷部さんを凝視している。信じられないものを見る目付きだ。


「長谷部さん、万葉さんと初対面では無いですよね?」


 だって、この前会ってる。

 それには、同意し、それとと繋げる。



「あの方に我々は藤咲家に仕えるものは人形のように見えるように赤人様は『命じて』おられる筈です。興味を持たれると面倒と云うので、私どもも接触しないように『命じられて』いますと前にも説明しましたね……しかし、こんな風に興味を持たれるとは何か不具合でも有ったのでしょうか?」


 いや、私に訊かれても。

 市長に訊いてくださいと頼んだら、そうですねと返された。

 ちょっと抜けてる?



「長谷部さん、下のお名前は?」

「雪輝です」



 冬馬ではなかった。……あれ、そういえば冬馬って……どこかで訊いたような……あれ?光原さんのお父さんの名前だよね?


 長谷部さんを見上げる。黒髪、灰色の瞳、整った顔に……うん、二十代前半だよ。半ば?

 どうしよう。ゲーム知識に父の顔はないし、見たはずの遺影はうろ覚えだ。でも、見た目的に中学生の子供が居る筈……いや、別人だよね?名前違うんだし。なんだろう。

 万葉さんの素の動揺に私も大混乱している。

 でも、無視しちゃいけない。そんな感覚に囚われる。ーーセラ様がメインルートで行った事は本当に犯罪を無くす事だったのか。ひばりんと産まれても居ない子を世界から足跡も遺さないような非道をセラ様が行ったのかという疑問が、万葉さんの反応と彼を見て沸き立つ。

 もしかして、天使メインルート最大の秘密が……、有りそうだよね?



 『私』がため息を吐いた気がする。…脳内会議は?



『『『情報足りないねー』』』



 仕方ない。訊こう。



「長谷部さん、お歳は?」

「多分、二十代です」



 多分!?

 免許証は無いらしいので確認できない。でも、多分って……。天然?


「既婚者ですか?」

「いえ?」


 疑問系なのは何故!?

 何この噛みこめない性格。

 だめだ。この人、ヒントとかくれるけど、くれるヒントが偏ってるタイプだ。



「……家族構成はどうかしらー?」

「貴方の質問には答えるなと言われております」


 その切って捨て具合に万葉さんが私に視線を向けた。訊けってことですね。わかりました。


「家族は構成はどうですか?」

「前に教えましたよね」

「不器用な姉がいるそうです。万葉さん」



 万葉さんに情報を渡せば、目を見開き、身体を震わせたかと思うと、うふふ……と俯きながら笑う。顔をあげた瞬間、ぞっとするくらいに綺麗で心の底からの醜悪さを感じ取れる笑みを浮かべてーー次に私に対して、まるでとてもよく気のきく貢物を持ってきたわね的な笑みをくれた。


 鳥肌がたって怖い。

 長谷部さんがさりげなく私を後ろに隠した。なんだ?



「うふふ、ルーちゃん。ゴン様の件は水に流してあげるわー。あ、ゴン様ってかわいいわねー」


 すぐにいつも通りの笑みに戻った万葉さん。そうですか。

 やっぱり、怒ってました?

 そして、視線は長谷部さんだ。


 万葉さん、どうしたのー?

 何か考えてますけど、どうしましたー?この三下に口を滑らせてみませんかー。


 長谷部さんはとくに興味なさそうだ。



「あの、長話ならうちでお茶でも」



 自宅前で険悪な雰囲気はやめてほしいので、誘ってみる。



「いえ、届けたらすぐ戻るように言われています。貴女の状況も伝えないと行けませんので」



 ほうほう。実験結果を早めにね……おのれ、市長。私の方でも評価駄々下がりだ!

 あとやはり、長谷部さん、ど天然説が有力になった。タクシーがいないと驚いている。「待たせていなかったのでしょうか?」と私に訊かれても。

 携帯を出して、呼び直している。

 あの市長が何故天然を雇っているんだろう?



「万葉さんは?」

「そうねー、お邪魔するわ」



 にこっと気分を変えたらしい。その勢いで私に何か情報ください。

 なにげに情報を貰うと褒められるので。

 褒められたいので!

 タクシーが来たので長谷部さんが「入れ物は玄関前に置いておいたください。明日の朝に回収に来ます」と帰る姿を見送り、それにしても、お寿司を店側に運んでもらえなかったんだろうか?

 ーー万葉さんを家に入って貰いつつ、お寿司と天ぷらまであった!をキッチンに置こうとしたら、万葉さんが軽々と持ってくれた。

 ………細身美人の姿なのに……。

 ただ、お店の名前を確認すると「ああ、葵くんが好きなお店ね。あの子、気に入ったら赤人さんの前でもお喋りになるから分かりやすいのよー」と……、ちょっと、市長と万葉さんの好感度が上がった。

 そして、お茶を飲みつつ昨日の雅さんのお土産を出したら、ルーちゃんが食べていいのよ。と返されたので食べる。ただ、目の前の悪魔の笑顔が怖い。

 やだ、消化に悪いわ。



「光原さんのお母さん、大丈夫ですか?」

「そうねー…ルーちゃんがチョロチョロ動いてくれないけど、セラくんが頑張ってテルくんを支えているわねー」



 セラ様頑張ってる!



「……私に動いて欲しかったんですか?」

「そうするとー、お孫様の耳に入るでしょう?」



 あ、リンのおじいちゃんに用があるのか。



「リンに言いますか?」

「うーん…、お孫様ってどこまで能力を知っているのかしら?」



 そういえば、結構知らなくていいって情報を制限されてるんだ。



「あの方が教えたくない事実でも、お孫様が勝手に首を突っ込んで真実を知るのなら、不興を買わずに済むでしょう。いざとなったら便利な能力があるんだから」



 うふふー、って可愛らしく微笑まれても。

 やはり、悪魔なのだな。



「あの、それで長谷部さんって…」



 万葉さんがシッと自分の唇に人差し指を置く。

 お姉ちゃんが目をぱちくりさせて、私と万葉さんを見ている。



「ルカ、誰のお客様?」

「私のだよ?」

「え?」



 お姉ちゃんが小首を傾げたので、私も首を傾げる。

 万葉さんがころころ笑い、



「初めまして、葛西心美の母の万葉ですわ。先日は我が家の行き違いから娘がお世話になってしまったので、いつかご挨拶をと…。今日は下見のつもりでおうちの前を通りかかったら、面識の有った妹さんに見つかってしまって、手土産もないというのにお邪魔してしまったの……うふふ、かわいいルーちゃんにおねだりされると弱くて」

「ーーはい!ルカ、可愛いですよね!!」



 あ、お姉ちゃんが悪魔の手口に陥落した。

 パアッと瞳を輝かせて、妹自慢を始めたお姉ちゃんに万葉さんは、うんうん頷いて……、すっかり、お姉ちゃんと仲良くなったよ。この悪魔。

 ……家に招いた事が間違いなのですね。わかります。



「じゃあねー、ルーちゃん、マルちゃん」



 万葉さんが帰って行った。何故かお姉ちゃんと私のアドレスをGETして帰って行った。やばい。すっかり、お姉ちゃんの心をわし掴んでる!


 私は定期的にシスコンを爆発させているが、お姉ちゃんはどうやら溜め込んでいたようだ。話を聞いてにこにこ同意してくれる万葉さんが、すっかり大好きに……なんて恐ろしい!!

 しかし、前向きに考えよう。もうすぐ、藤咲さんと出掛けるんだ。好きそうなお店とか場所とかメールで聞こう。……遊ぶ場所とか全然思い付かない。

 だって、ぼっちだったもん!そして、今周りは、ノープランでも大丈夫な方々しかいないね!!

 ……ふぅ、やれやれ。



「そうだ、今日、美術部なんで室内楽部の見学に?」

「うーん…」



 お姉ちゃんがPC持ってきてと云うので、お父さんたちの寝室から持ってくると、自室から出てきたお姉ちゃんに紙のメモを渡され、どこかの動画をアップするように頼まれた。……ん?あれ……?



「リンだ」

「海外留学中の映像みたい」



 何話してるのかさっぱりだけど、リンが真剣な目付きで女の人に指導されている……む、メリハリの効いた美人だ。なんだろう。べたべたして、リンが迷惑そうじゃないか。しかし、甘いな。そんなに身体を寄せようがリンが好きなのはひんにゅ………ピンクな思考から離れるんだった危ない。


 ひんやり、後ろにマングース様の気配を感じたりしていない。



「『天才ヴァイオリニストの卵復活か?』か…」



 なんで今ごろ、こんなのが流れるのだろう?



「これを見た女の子たちが、先生に見に行きたいって……迷惑になるからって先生は言ったんだけど私がいるから、大丈夫だって……音楽関係って人に聴かれて育つんだよ。って言われると止めて良いのかわからなくて……」



 お姉ちゃんがしょんぼりしている!



「それにリンくんも嫌々弾いてたみたいで……あんまり調子よくないみたいだったし」



 昨日、衝撃の事実を話したからリンも疲れているのかもしれない。

 ……薄っぺらになったか……。

 リンは、お姉ちゃんとの事を私に応援してくれと頼んだのに。

 その私の言葉が薄っぺらになったら……傷ついてた、不安そうだった……。

 このタイミングで、この動画って作為的な物を感じる。


 じーっと動画を見つめていると、お姉ちゃんがぽつりと呟いた。



「……リンくんの隣で教えてる人……」



 お姉ちゃんが自分の身体をぺたぺた触り確認している。どうしたの?

 とある部分を確認した後、少し、無言になった。そしてー…、



「ルカ、明日の帰りに牛乳をたくさん買いましょう」

「……うん」



 なんだか逆らってはいけないものを感じる。

 お姉ちゃんに請われるままネットでバストアップのストレッチを調べた。私はお腹を凹ませる運動を……あ、逆立ちがダイエットにいいのかー……。ほんとかな?

 首をぐきってやりそうで怖い。

 とりあえず、お酢がいいらしいので飲もう。よし、さっそく飲むか。


「ルカ、コップ半分のお酢はさすがに飲めないと思うよ?」



 お姉ちゃんの指摘で三分の一にしたけれど、それでも噴くほど不味かった……。

 明日は、飲む専用のお酢も買う事が決定した。



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