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誰か知らない優しい手を握りしめて、扉を開いた夢を見たー…。
……もう一回見たくて寝ようとしたら、リンに叩き起こされた。ぐすん。
「中間テストー、ものすごくよかった……」
愕然とした。何故だ。会長のおかげか。
生徒会室に行くと先輩は居たけど会長はいない。休みらしい。ここ数日休んでいる。文化祭が近いのに不在だと他のメンバーが大変そうだ。
私が普通にドアを開けて入ると生徒会の人たちは笑顔で迎えてくれた。
「やあ、女王、暇なら仕事を手伝ってくれ」
「私にはゴミ箱を作るという使命が…っ」
「部活に入っていないなら暇だろ」
「はい。暇ですね」
うちの学校はクラスで催しはしないらしい。
部活に入れなかったダメージがここでも!
部活してない子は総じてゴミ箱作りだ。悲しい現実。
私にふる仕事は桜田先輩に任せることにした皆様は、じゃあ、見回りに行ってくると出て行ってしまった。それを好機と先輩に話しかけてみる。
「会長、まだ来れないんですか?」
「いや、全体的に終わったのだが、……秋月」
「はい」
「ゴンって良い名だな」
先輩の言葉は私にとって肯定が難しいものだったが、笑顔をなんとか保った。原因の一端を担っている身としては否定は出来ない立場だ。
「あーたんが名付けの資格を持っていると思いませんでした」
「いや、考えればあのお面は年代物で、毎日狐様が装着していたんだ。神物化していてもおかしくなかった」
『天久遵』とともに消えてしまったお面は、なんとあーたんの中にあるらしい。……意味がわからず先輩に尋問してしまったが、『天久遵』がそのまま持ってあーたんのもとに還ったのであーたんは狐様の持ち物を身に宿してしまったらしい。
とんだ置き土産だ。
あの時、騒がしかったのは急に狐様が『我の名はゴンだ!』と叫んだせいらしい。ーー狂ったと思った志鶴さんが慌てて報告しに行ったせいで騒がしくなったようだ。
そりゃいきなり、我はゴンだ。なんて叫ばれたら狂ったって判断するよねー。
天久の皆は必死に説得したらしいが、ツーンッと他の名前を拒否し、あーたんが他の候補を絞り出した時だけ吟味しているが、やはり、ゴンで良いと……。あーたん、ガンバッ。
「無責任な発言は命取りになりますね…」
「主人公様が誘導して、あの結果だ。まさか、主人公力でもあるのか」
「先輩、光原さんに警戒心むき出しですが天然です」
「仕方ないだろ。光原暎だぞ」
付き合いがない先輩は光原さんに冷たい。私も最初そうだったから仕方ないといえばそうだね。としか言えない。
「天久としては不本意だろうが、『真名』が出来たのだ。狐様も落ち着くだろう。あとは、あーたんが他に気にいりになる『真名』を与えられるか。誰かの別な名が気に入るか、だな………時間に任せて他の名を定着させるという手もあるが」
「え?『真名』って固定じゃないんですか」
「悪魔や天使はな。神は、固定ではない。他の神にもあるが同じ神の事を言っていても別な名で呼ぶ事があるだろう。……まあ、今のところ絶望的だがな」
初めてのお名前に狐様が大はしゃぎしているらしい。
「まあ、祝詞を捧げ終えれば力がうまく制御出来るようになるだろう。という首脳陣の結論だ。あれだけのメンバーで間違っていましたなら、もう神だからなというしかない」
「……祝詞もあーたんが……」
「狐様の名付けができたからな。ーー次の『鶴』候補だったからだと一族のほとんどは思っている」
先輩の言葉に私は目を見開いた。なるほど。それなら、誰もあーたんが本当は次代『鶴』ではなかったと疑う事はない。
藤咲さんを傷つけずに……だめだ。『鶴』が居なくなって傷ついてたんだった。
「先輩、藤咲さんは」
「無視された」
「は?」
「リンも片倉も……友人全体だ。あのくそ餓鬼…、一度しめてやろうと思う」
無表情に後ろにゴゴゴ……ッという擬音を背負って、やばい。先輩がキレてる。
「や、優しく」
「それは君と片倉がしているだろう。私とリンはしばく。これでバランスが保てる」
「いや、あの」
「さあ、この書類の整理をさくさく手伝ってくれ。私は、少し室内楽部に顔を出してくる」
ほいっと、書類を渡され、生徒会室で一人にされてしまった。……皆さん、私はいつからメンバーになったのでしょうか。
絶対選挙では選ばれないよーッ!
書類整理が終わると結構な時間がたっていた。
「お姉ちゃんと帰ろー」
あの日以降、私は先に校門前に張り、あの男の姿がない事を確認し、お姉ちゃんを待ち伏せし帰るという手段を取っている。
ふ、部活をやっていないから先に帰れる強み………泣いたりしないッ。
「あれー、るかちゃん」
マナルンがきゃるるんっと現れた。白衣を着ている。
「どうしたの。マナルン」
「うん、あのね。月くんにもあげたんだけど、クッキー食べない?」
「食べます!」
「そう良かったー」
そう言ってクラスに寄ってと誘ってくるマナルンに着いていくと、途中で藤咲さんが一人で携帯を見つめている姿が視界に入った。
あれ?部活は?
「あ、あおちゃん」
「ーーッ」
マナルンも気づいたらしく、とことこと藤咲さんに近づいていく。
あれ?藤咲さんの表情が凍ってる。
「あおちゃんもクッキー食べる?」
「その、よびかたー…」
あ、何かやばい。藤咲さんが痛みを我慢できずに泣く子供のような表情をしている。
「マナルン!ダメ!!」
「え?どうしたの。るかちゃん、あおちゃんにも…」
「やめろっ!!」
走り寄ってマナルンを背に隠すと同時に藤咲さんが怒鳴った。
周りの視線が集中してるよ。
「え?え?……えーっと」
マナルンが混乱しながらも怒鳴られた事に眦に涙を溜めている。
藤咲さんもすぐに自分の行動を後悔したように口元を押さえている。誰も何も言えずに静まり返った空間で、私はマナルンの背を押す。このままマナルンに八つ当たりはごめんだ。
「マナルン、藤咲さん、ちょっとイライラしてるみたいだから、あっちに行こう」
「で、でも…」
「ごめん……愛川」
む、まだすぐ謝れるだけの落ち着きは有ったか。……しかし、この様子の藤咲さんも一人にするのも……、
「秋月ー」
救世主!前から走り寄って来たひばりんに感動する。
「月くん…」
あ、マナルンの目から涙が流れてる。慌ててハンカチを差し出そうとしたら、先にひばりんがマナルンの頬から流れる涙をハンカチを出して拭ってあげている。ーーなんたる。イケメン!
「憎いッ私からマナルンへの好感度を奪うひばりんが!!」
「なんでだよ!?つーか、なんでマナルン先輩泣いてんの」
ひばりんの咎める目付きに私は、言葉に窮してしまった。
「俺が……八つ当たりをしたから」
藤咲さんが本当に悪かったと頭を下げる。ひばりんは、とりあえずため息だけ吐いて、ハンカチをマナルンに差し出した。
「ありがとう」
ハニカミながらひばりんを見上げるマナルン。む、もしや、恋が生まれるのか。
「マナルン、今度から藤咲さんはふじちゃんでお願いします」
「うん、でも最初はそう呼んでたんだよ。チャンネル名みたいでやだってあ……藤ちゃんが言うから」
「ごめん……」
マナルンの背中を擦りつつ、藤咲さんが本当に申し訳なさそうなので、マナルンはもういいよ。と微笑んだ。
「藤ちゃん、クッキー食べる?」
「あ、あぁ…」
「そっかー。じゃあ、一緒に行こうね!」
パタパタと、藤咲さんを引っ張って教室に走っていくマナルンに私は頷く。
「見たかい。ひばりん。自分を怒鳴った相手をすぐに許せる懐の深さ。あれが聖女というものだよ。ーー惚れるね」
「秋月もある意味で懐が深いと思う」
すぐに二人で戻ってきたマナルンと藤咲さん。
「はい、るかちゃんの分」
「ありがとうございます」
「あ、美味しかったです」
「良かったー、みーくんに作ってあげたんだけど、みーくん、最近ダイエットしてるって捨てちゃおうとして……」
淋しそうな顔をするマナルン。……しかし、何ゆえダイエット?
「こんなに美味しいのに勿体ない」
直ぐ様に袋をあけてクッキーをもぐもぐ食べる私に藤咲さんが呆れている。
サクッと美味しい。
「藤咲さん、美味しいですよー」
「ああ…」
暗い表情をしている。マナルンがおろおろと困っているようだ。ひばりんに目を向けると藤咲さんを睨んでいる。ふむ……ひばりん的にはこれ以上マナルンに気を使わせるなと言うことかな?
「藤咲さん、あんまり暗い顔をすると桜田先輩に告げ口しますよ」
「……なにを?」
「はい。友人を無視したツケを支払わせるとリンと言っているらしいので、連絡をー…」
私が携帯を取り出すと、藤咲さんが慌てる。
「あの二人がなんで組むんだ!?」
「私と片倉さんが藤咲さんに優しいので、リンと先輩は厳しくするとバランスが良いって」
沈痛な表情をする藤咲さん。
「では、その分、私が最大限に優しくしてあげましょう!マナルン、ひばりん。優しい行動って何?」
「るかちゃんそのものだよ」
にっこり即答。
やだ、マナルンに後光が見える!
私がマナルーンと抱きつくと、よしよしとマナルンが頭を撫でてくれる。
「……あれが優しいというものか」
「ええ、参考になります」
何か二人が言ってる。一通り、マナルンを堪能していると携帯のメール音が。
「あ、お姉ちゃんからだ」
部活が終わったから帰ろーというメールだ。ハッ、まだ校門チェックしてない!!
「マナルン、ひばりん、もう帰る?」
「うん、一緒に帰ろー」
「誘いに来たんだ」
「藤咲さんは……リンと先輩に叱られてください。明日にすると天使が鬼になります」
「わかった……愛川の件も含めて叱られてくる」
項垂れているけど、大丈夫だろうか。片倉さんに一応フォローを頼むメールを送る。
私の草の根活動を知っているマナルンに先に校門に行くねーと手を振って、ひばりんとともに校門に走る。む、お姉ちゃんが先に歩いている。
「おねえちゃーん!」
「あ、ルカ」
「好き!」
ひしっと抱きつくと私もーっと抱き返してくれる。至福!
その間にひばりんが校門に行って誰もいない事を確認してくれたようだ。うむ。………ひばりんの付き合いの良さに泣きそうだ。
「いつもマナさんとひばりんとルカは先に校門に行っちゃうけど、どうしたの?」
「敵がいないかの確認です!」
「お姉ちゃんは確認しなくていいの?」
「お姉ちゃんが護衛対象だから大丈夫だよ」
小首を傾げるお姉ちゃん。む、狙われてると告げない方が良かったのか。
「ルカ、誰から護衛してるの?」
「むー」
「お姉ちゃんが用のある人かもしれないでしょ」
「……お姉ちゃん、深託に行かないじゃないか」
「深託の生徒なの?」
「うん」
「……」
お姉ちゃんが黙って考えてる。
「何のご用だったのかな?」
ーーやはり、狙われてるようだ。
「体育祭のお疲れ会は終わったし…親しくなった子とはメルアド交換はしたし」
何!?
知らない間にメルアドが増えただと確認しなければ…っ。
「るかちゃん、携帯を見る行為はだめだよ」
後ろから来たマナルンに注意された。
「別にルカに確認されても………やっぱりだめかも」
一瞬浮上しかかった気持ちをお姉ちゃんが木っ端微塵にしたー!
なんでーとマナルンが聞くとマナルンには見せたよ。それで、ああ、と頷くマナルン。ひどい妹の私には見せられないのか。
「るかちゃん、マルちゃんにも隠し事をさせてあげて」
「むー……」
不満があったが、三人で手を繋いで校門まで行くとひばりんが、何かこっち来ちゃだめという仕草をしている。
「ハッ!もしかして、奴か」
「こら、ルカ。だめよ。何のご用事か聞いてからにしなさい」
むむ、やはり喋ったのは失敗か。
「そうだねー、案外大したことじゃないかもしれないよ」
マナルンまで。
「それに月くんがいざとなったら助けてくれるよ」
ーーやはり、恋の予感がする。
仕方なく、校門の方へ歩いていくとひばりんと誰かが言い争っている。
「だから、迷惑だろ」
「聞いてからにしてよ!あ、あたしだってわかってるけど」
あれー、ココさんの声だ。私はその声に走り寄った。
「ココさーん」
「ルー!」
嬉しそうにひばりんを遮って私に走りよってきたココさんは……あれ?キャリーバッグ付きだ。
「ルー、も、もう、きらわれちゃったの」
「?誰にですか」
「ママに!!」
ふるふる震えて、ぐずぐずと鼻を啜るココさん。
「せ、セラとのお付き合いは考えなさいとか好きになっても無駄って…ッ」
わー!と人目も憚らぬ勢いで号泣するココさんにお姉ちゃんがハンカチを差し出し、涙を拭ってあげている。
わ、私はどうすれば、
「ねえねえ、るかちゃん」
くいくいっと制服を引っ張るマナルン。
「とりあえず、車を呼んだからうちに来ない?」
マナルンがとても頼もしい。




