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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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7 告げ口

 私はアルテュール様の召喚を受けた。


 アルテュール様の侍女のハンナが研究室までやってきて、手紙を寄越したのだ。信頼しているのだろう、私の返事を持って、ハンナはいそいそと戻っていく。召喚の理由はわかっていた。エリサとの衝突の件についてだ。職務の任を解いたビートも、あることないこと言いふらしているという話をラチェットから聞いた。出て行けと言ってからのビートの行動の速さに、まったくもって鼻で笑うしかない。


 最初から研究に入れるべきではなかった。あとで機関に文句を言っておこう。

 わかっていたが、誰もが王城の者たちはエリサ寄りなのだろう。アルテュール様に専属でついている癒しの聖女なのだから、疑うこともない。擁護するなどの話でなく、癒しの聖女は正義なのだろう。私は毒の聖女になったときから、過去の毒の聖女と同じように語られてきた。この国において毒の聖女は悪なのだ。


 あの日のことを思い出しそうになる執務室に呼ばれなかったことに安堵しつつも、私は半ば緊張して、アルテュール様に呼ばれた部屋に訪れた。


「お呼びとうかがい、参上いたしました」

「座って」

「失礼致します」


 呼ばれた場所は客間で、テーブルにはエリサがついていた。

 私はエリサの真向かいに座る。私とエリサを向かい合わせ、アルテュール様はそれを眺めるような位置に座った。どちらにも同じソファーに座らないあたり、私へ礼儀を持っているのか、エリサを気にしているのか。後者だろう。婚約者の隣に座らないなど、拒否されたようなものだ。


 私はキュッと唇を噛む。二人の邪魔するのは婚約者である私。それを目の当たりにして、気分が悪くなりそうだ。

 本当ならば、アルテュール様は気兼ねなくエリサの隣に座っただろと思うと、胸が締め付けられる。


「聖女が、君の研究室に訪れたそうだね」

「ええ。お話があると言うことで。仕事中でしたので、お帰りいただきましたが」


 やはり話はそのことか。ハンナがお茶を持ってきて、私の前にカップを置く。ハンナはアルテュール様に昔からついている侍女だ。年の離れた妹がいて、一緒に遊んだことがあった。ハンナは子爵夫人だが男爵家の娘なので、本来ならば私たちが遊ぶには身分差のある相手だったが、私が無理に誘ったのを覚えている。とても大人しい女の子で、周りは大人ばかりだった私の唯一の年下の遊び相手だった。


 名前はたしか、ポーリーンだったかしら。懐かしいわ。元気にしているかしら。

 そんな思い出に現実逃避して、私はアルテュール様の話を待った。先に鼻白んだのはエリサだ。


「毒の聖女様は、動物を虐待していたんです。動物は魔物に取り憑かれていて、かわいそうに、すぐに治療してあげれば、あんなに苦しむことなかったのに。私が癒しをかけなかったら、どうなっていたか!」


 話しているだけで、涙が流れると、若干垂れ目の目端を拭う。ついでに鼻を啜って、目を赤くして私を睨み付けてきた。

 私は澄まして紅茶のカップを手に取った。このカップもアルテュール様のカップも、エリサのカップも、毒はない。催淫剤は私の目には毒と認識されず、気付くことができなかったが、毒であるとわかるものは目に入る。


 催淫剤は毒ではないと認識されるところが、私の毒の聖女としての微妙なところである。他にも睡眠薬などはわからない。致死量であれば気付くかもしれないが、なんとも言えない。毒と言っても曖昧なものだ。明らかに体に悪くなければ、気付かないのだから。


 その点から見て、カップの中に毒は入っていない。

 遠慮なくその香りを楽しんで、口に運んだ。さすが王子の侍女が淹れたお茶だ。味わい深くて香りが高く、緊張している私の喉を潤してくれる。


 今日は暖炉に火は入っていない。それほどの寒さではない。とはいえ、またあったら困ると、私は解毒剤を持ち歩いていた。催淫剤の解毒剤というよりは、頭をスッキリさせるための薬だが。

 毒は使い方によっては薬にもなるものだ。その毒を消して薬にすることも可能だった。毒を消せるのだからそういうことである。できないのは癒しの力で癒すことで、癒しの薬草を調合することはできるということだ。

 催淫剤も消せればよかったのだけれど、あれは管轄外だ。


「機関の人間をやめさせたと聞いたけれど?」

「わたくしの研究に理解が及ばないということなので、出ていってもらいました」


 アルテュール様はビートの話も知っている。エルンスト卿も悪口は耳にしたようなので、王城の皆が知っているのだろう。私は背筋を伸ばしたまま、淡々と返す。


「リュシエンヌの話を聞かせてくれる?」


 私がカップを下ろすのを待つように、アルテュール様が問うた。


「騎士団より、寄生型の魔物の駆除用の毒を作ってほしいと、要請がありました。わたくしは魔物に取り憑かれた個体を得て、その治療法を試しておりました。癒しの聖女の治療のせいで、分析が不可能になりましたが」


 チロリと非難の目を向けると、エリサは顔を真っ赤にさせて立ち上がる。


「動物を苦しめるのが、あなたのやり方なんですか!? なんて非道な!」

「話を聞いていなかったのかしら」

「聖女ならば、自らの力で癒しを行います。実験なんて必要ありません!」

「騎士団からの要請と言っているのだけれど? わたくしが使う毒ではないわ」


 会話が成り立たない。私は一から説明しなければならないかと、口を開こうとしたら、アルテュール様の声が先に届いた。


「辺境での魔物に対する毒のレポートは読んだよ。どの魔物にどの毒をどの程度使うのか、三年の間に相当数の実験を行ったと」

「では、三年間も動物の虐待を行っていたということですか!?」

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