宝石の王
不気味にも蹴破った先には何もいなかった。女妖精や男妖精が襲ってくる様子もない。後ろで木造の建物が燃える音以外は何もなかった。
壺の中で寝ていた間に夜になってしまっていたようだ。花畑は月明かりに照らされて幻想的だった。よく見ると遠くで妖精が転がっている。一応麻痺の果実は食べたらしい。
ボスを探して歩き回ると巨大な妖精が倒れているのを発見した。それを見て驚き、そして疑問に思った。猪や人間はこのボスのために用意されたものであるはずだ。ボスが果実を食べないだろうと予想していたのだが…。
ボスの腹を見ると美しい宝石がボスの腹から零れ落ちていた。月明かりに照らされたエメラルドの宝石は不純物が一切なく見事に照り輝いていた。まさに光が織りなす芸術。それを特等席で観覧している気分だった。この世に生まれたことを今日ほど感謝した日はない。
しかしよく見ると宝石の足元には男妖精や女妖精の屍が転がっている。
その宝石は人型をしていて、硬く翡翠の外皮はさながらフルフェイスの甲冑のようであった。
二つの緑の剣を手にし、どこか退屈そうに見えた。
直感が過去最大級に警告を鳴らしている。それでも近づこうとする足を止めることができない。本能が告げる。こいつがボスだ。叩きのめせと。
火は花畑の方まで回ったようだ。遠くで甲高い声の悲鳴が聞こえた。
気づけば駆け出していた。距離を一気に詰める。軍刀で突きの姿勢をとる。
間合いの大きく外でエメラルドの宝石は二つの剣を縦に振った。ふわっと優しい風が吹いた後強烈な斬撃が体に浴びせられた。
軍刀を握る手は守られたが、脇差を握る手は肘から体と分離していた。
これが妖精の斬撃の完成形なのだろう。無くなった左手を見て頭が冷えた。無気を思い出せ。こいつは俺の攻撃の意識を読んで今先手を潰したのだ。今度は向こうから攻めてくる。右肩から左脇に抜ける。
未来予知のように敵の攻撃がわかった。直感のレベルが確実に上がっている。勝手に審査したらパラディンに怒られるだろうが今までとは確実にレベルが違う。【直感 3】だ。