10.カッツェ8
グレスデーンは、月にあるミストレイア・コーポレーションの基地に到着した。
あの、皇帝と通信した日から、二百四十時間がたっていた。
途中の磁気嵐や、帝国の警備艇から逃れるために、時間がかかったのだ。
そこからは、グレスデーンではなく、小型のシャトルで地球に行かなくてはならない。
通常、宇宙船はすべて、宇宙空間で作られる。専門のステーションが惑星のはるか上空にあり、そこで無重力空間を利用して製造される。
つまり、大型の宇宙船が離着陸するステーションは惑星上にはないのだ。
人々は、月からの定期的なシャトル便で地球と月を行き来する。
シャトル便「ムーンスタナー」は、公共交通機関として、最も需要が多い。
三時間おきに地球に向かって飛び立つ。これは、スターバンク社の子会社が運営しており、カッツェから渡されたスターバンク社のパスポートで四人はすんなり乗ることができた。
目的地は、首都、ブールプール。
そこに、皇帝のいる中央政府の建物があり、研究所も隣接している。ミストレイアの諜報部員の情報では、その建物のどこかに、レクトがいるらしい。
シンカは、地球人の標準的な服装をしていた。ハイネックの黒いノースリーブに、黒いふわりとしたパンツ。
すねのあたりで絞られていて、ブーツに収まるようになっている。
黒いブーツには金色のラインが入っている。
これには、警備センサーをかく乱させるための装置が仕込まれていた。
肩からかけた、長剣は、今の地球の治安であれば、誰もが装備する程度のものだ。シキも、腰に剣を挿している。
乗務員服に黒いコートを羽織り、シンカと同様のブーツを履いている。
目立ちたくなくてそうしているのに、シキはやけに目立った。
もちろん、シキの横に立つ、赤毛の美しい女性にも、人々は視線をひきつけられた。
「ミンク、すねてた?」
セイ・リンが小声でたずねる。
「そうでもないよ。ちゃんとなだめてきたから。」
自信ありげに、シンカが笑う。
「そのほうが、いろいろとやりやすいしなあ。」
ジンロがつぶやく。
「あ。なんだよ、大人のくせに、見せ付けて。」
シンカは、セイ・リンがシキの腕に手を回すのを見逃さない。
「恋人同士に見えたほうが目立たないでしょ?」
シキの肩にもたれかかりながら、セイ・リンがウインクする。
シキは、シンカの期待する顔をしていない。無表情だ。
「なんだよ。緊張してんだ。」
少年がからかう。
「うるさい。」
シキに額をこつんとやられる。
「緊張感ないなあ、お前ら。」
あきれるジンロ。めずらしく、笑っている。
混雑したシャトルは、指定席が取れなかったので、四人は窓際に立っている。
青い、美しい星が見える。
「リュードに似てる。」
「ああ。」
ジンロ以外は、初めて見るのだ。ここから、地球人が宇宙へ旅立った。
その科学技術がなければ、各惑星はいまだに、他の惑星に生命があるなど知らなかっただろう。そういう意味で考えれば、地球人の功績は大きい。
シンカは、改めて、星の大きさを感じた。
人間が、何をしても、どんなに進化しても、この星はきっと、こうして変わらず青いままなんだろうな。
同様に、たとえ、リュードの人々がすべて滅びてしまっても、あの星は、きっとあのままなんだ。カンカラ王朝が滅びたときも、そして、今も変わらず青い美しい星だ。
ユンイラは、星が自分を浄化するために生み出したものなのかもしれないな・・・。