4.いくつかの友情4
ゴツン、という感じの鈍い音。
「…シキ、痛そう」
ミンクが口を手でふさぐ。
「違うぜ。ほら、お前らこっち来いよ」
シキに引かれて、二人は通路の一番奥、突き当りの壁の前に立った。
ごごごご。
地響きがする。
「なんだ?」
「何?」
周りを見回す二人の目の前に、突然壁から何かが出てきた。
シキの蹴った場所から、二本の亀裂が天井まで走ったかと思うと、天井のほうから傾き始め、まるで切り取ったかのように、ゆっくりと壁が倒れてきた。
「うわ!」
どん、という大きな音と、土煙。
思わず抱きついたミンクを庇うように、シンカも顔を伏せた。
「もういいぜ」
シキの声に、顔を上げる。
三人の目の前には、三角の壁が立っていた。
「サンドウィッチみたい」
ミンクの感想にシンカが笑う。
「なに、だって、そうでしょ?ほら、三角に切った形してて、この階段のとこがハムとかで……」
「階段?」
壁から現れた三角の壁は、上面が階段になっていた。それは斜めに壁に向かって上れるようになっていた。
「さ、ハムの上を登るぜ」
シキが松明を持って先頭を行く。
「これ、そういう仕掛け?」
ミンクが続いて、最後にシンカが登り始めた。
手すりも何もない、人一人がやっと通れる幅。
時折、よろけるミンクを前から後ろから支えながら、三人は壁の奥へと進んでいった。
両側は平らな壁。かすかにかび臭い。
足元のこの階段は、この壁に隠されていて、シキの操作した何かの仕掛けであの通路に出てくるようになっていたのだ。
「まるで、ケーキを一切れ切り取ったみたい。不思議ね」
「ミンクのたとえは食べ物ばかりだな」
シンカが笑うとミンクが立ち止まる。
ぶつかりそうになって、シンカはミンクの肩に手を置いた。
「もう、からかってばかりなんだから!」
その手を振り解くようにミンクがくるっと背を向ける。
勢いでシンカは後ろに倒れ掛かる。
「うわ!バカ、落ちるよ!」
手すりも何もない平らな壁。足元は急な狭い階段。
バランスを崩したまま、シンカは両側の壁に手をついてかろうじて落ちずに停まる。
「だって!」
「ほら、つかまれ」
ミンクの肩越しからシキが手を引いて起こしてくれた。
「シンカ、お前今頃になって足元ふらついてんじゃないのか?」
松明の下シキがにやっと笑った。
「そんなことないよ」
シンカは口を尖らせた。
「ねえ、それより、ここ……」
そこで階段が終わった。狭い踊り場。
その先は扉のようだ。
シンカが登りきったところで、シキは再び扉の脇の壁を蹴った。
地響きがした。
「何?」
「階段を元に戻した」
シキはそういうと、扉を開く。
金属の重い扉はぎしぎしと軋みながらゆっくりと開いた。
「あ、草の匂い」
扉の外は暗かった。
それでも髪をなでる風に、三人は深く息を吸った。
「何、ここ?シキは知ってるのか?」
「遺跡だ」
「遺跡?」
シキの松明が、崩れかけた壁の残骸や、半分土に埋まった石の柱を照らし出した。
シンカたちが出てきた扉は、こちらから見ると山のがけ下にうずもれるようにひっそりとしていた。
周りには緑の苔が生え、土がむき出しになったところからは木の根がひげのように伸びる。
足元も、やわらかい草で覆われている。
周囲は林のようだ。時折、イキモノが葉を揺らす音がする。
そこだけ林にぽっかりと穴があいたようになっていて、夜空が見える。