4.いくつかの友情2
二人は、地下に下りていく。
じんわりと空気が湿っている。御香のような、甘いけだるい香りがしている。
「これ!」ミンクが口をふさぐ。
「シキ、この香り、ユンイラの煙よ!」
「なんだと?」
「この煙を吸うと酔ったようになる。デイラにいた私たちでさえ、長時間されされてはいけないって言われてた。吸いすぎると何も考えられなくなる。人形のようになって、死んでしまうの」
地下に充満した香り。
いつからこんなことを。
二人は見合わせて走り出す。
地下牢は、一番奥の一室を除いて空だった。
暗い天井の低い部屋の床に、シンカが横たわっている。
何もない、毛布一つない牢。青い顔をして、深く眠り込んでいる様子の少年を見て悪寒が走る。
「どおりで、牢番もいないわけか。キナリスはここで、シンカを殺すつもりだったんだな」
「どうして?皇帝陛下は、どうしてシンカを?」
「俺に聞くな!」
先ほど倒した衛兵から奪ったカギをミンクが手渡す。シキが扉を開くと、シンカを抱き起こす。
「シンカ!大丈夫か!おい!」
強くゆする。
反応がないので頬を叩いた。
「!いて、何だよ。うるさいな。夕食か?」
意外にも少年は深い蒼色の瞳をパッチリ開いた。のんきなことを言っている。
「シンカ、大丈夫?」
「ミンク。お前こそ、大丈夫か?」
立ち上がって、逆に少年が少女を心配する。
「何だよ、平気じゃないか。脅かすなよミンク」
シキは気が抜けたようだ。
でも、と言いたそうな顔でミンクがシキを見上げる。
「……っと!」
ふらついたのはシキだ。額に手を当てて自分の視界を確かめるように瞬きする。
「シキ…!?ユンイラか!」
今さらのようにシンカが気付いた。
「ありがとう、シキ。ミンク。早くここを出よう!俺はともかく、シキは慣れてないだろうし」
「確かにな。強烈な酒を一気飲みした気分だぜ」
頭を軽く振ったシキの髪がふわ、と頬に張り付く。
「!風だ」
「換気し始めたようだな。このままじゃ、兵が降りてこられないからな。入り口には大勢待ち伏せているってことか」
壁にもたれかかったシキがうなる。
シンカが風のくるほうをくんくんと嗅いだ。
「草の匂いがするな」
「動物かお前」
「酔っ払いは黙ってついてこいよ。行こうミンク。多分、この先、何かある。外に出られるはずだ」
シキの懸念を無視するように、シンカは笑った。
「換気できるってことは、入り口以外に風の通る道があるってことだろ。ほら、奥から空気が流れてきている」
「分かるのか?」
シンカは目を丸くしてシキを見た。ミンクは二人を見比べるばかりだ。
「草の匂いがするだろ?あ、ダメか、ユンイラの香りが強いから。ほら、あっちだよ。俺、昔から鼻は効くから」
シンカが風のくるほうをくんくんと嗅いだ。
「動物かお前」
「酔っ払いは黙ってついてこいよ。行こうミンク。多分、この先、何かある。外に出られるはずだ」
三人はシキを真ん中にして、暗い牢の奥へと進む。
灰色の石を積み上げた壁が、だんだんと狭くなり、整えられていた表面も石がただ積まれているだけのものに代わっていく。