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軍人、合格する

「驚いた。君は想像以上にすごいんだな」

「ふっ、惚れるなよ」

「……バカ」


 何故顔を赤らめているのか。気持ち悪いやつだな。

 俺は階段を上ると、マップを確認する。

 どうやらまだ探索していない階層のようで、真っ白だ。


『どうやらここが二階層のようですね』


 ということはこの階も同様に踏破しなければならないようだ。

 現時刻は午前八時、前の階層は二時間近くかかったことになるか。

 一階層は完全にルートが分かっているとはいえ、レアスライムを倒して帰る必要があるのを考えるとこの階は一時間程でクリアする必要がある。

 のんびりしてはいられないな。


「セシル、敵は無視して一気に走り抜けるぞ。スピードポーションを使ってついて来いよ」

「わかった」


 ジョブを『盗賊』にセットし、全力で走る。

 シヴィの指示のもと、右へ、左へ。

 幸い敵は大したこともなく、俺たちの速度についてこれない雑魚ばかり。

 だがやはりというか俺には運がなく、結局またマップ全域を走り回ってしまった。

 上る階段を見つけたのは一時間半後だった。


「ファイアアロー」


 背後から炎の矢を放ち、階層ボスを一撃で撃破する。

 犬っぽい獣人が消し炭となり消滅した。


 コボルトを倒した。320EXP獲得。

 クラスアップしました。


 お、ジョブ欄の『魔術師』の文字赤く光っている。

 どうやらさっきの戦闘でジョブレベルとでもいうのだろうか、それが上がったらしい。

 クラスアップしますかという問いに、当然はいと答える。


『魔術師』が『魔導師』にクラスアップした。


 アレクセイ=ガーランド

 レベル86

 ジョブ 魔導師

 力C

 防御C

 体力C

 素早さB

 知力SSSSS

 精神SSSS

 パッシヴスキル

 魔術B 鑑定B


『盗賊』のときと同じくステータスが少し上がっており、スキルレベルが上がっている。

 スキル欄を見るとファイアランス、アイスストライク、エアブラストと名前からしていかにも強化されているようだ。

 鑑定もより深い情報を得られるらしい。

『盗賊』の時と違いそれ以外は増えてないな。

 スキルの数はジョブによるのかもしれない。


「どうした? ぼけっとして」

「おう、すまんすまん」


 そうだった。急がないとあと30分で時間切れだ。

 スキルは戻ってからゆっくり試そう。


「アレクセイ」

「ん?」

「世話になった。だが僕たちはまだレアスライムを倒していない。ここからは別れて脱出を目指すべきかと思うんだが」


 ふむ、言われてみれば確かにだ。

 帰りがけに見つかったのがレアスライム一体だけだったら、争いになるからな。


「わかった。そうしよう」

「武運を祈る」


 セシルはそう言うと、反対側へと走っていった。

 さて、俺も行くとするか。


『シヴィ、レアスライムの場所と入口までのルートを検索してくれ』

『了解』


 幾つか、ルートが検索される。

 各々所要時間もだ。どれもレアスライム一体狩って15分前後で入口に着く。これなら楽勝だ。

 ……だが少し待てよ。俺はしばらく考えた後、その中から一つのルートを選んだ。


 ■■■


 ――25分後。

 暗がりの中に一筋の光が見えてきた。

 階段の前に立つミラが俺を見つけてにっこり微笑んだ。


「何とか間に合いましたね。アレクセイさん。おめでとうございます。合格です」

「愛する君の為に帰ってきたよ。ミラちゃん」

「あーはいはい、そうですねー」


 愛の言葉を軽くスルーされた。つらい。


「ところでその手に持っているものは?」

「ん? あぁ、レアスライムだけど」


 俺に右手では、先刻捕まえたレアスライムがその身をくねらせていた。


「あまり気にしないでくれ」

「はぁ……」


 俺の答えに、ミラはやはり不思議そうな顔をしている。


「それよりセシルはまだ帰ってないのか?」

「えぇ、間に合わないかもしれませんね」


 ステータス画面に表示された時刻は、九時五十八分を示していた。

 むぅ、間に合わなくなるぞ。

 苛立ちまぎれに靴を鳴らしていると、気配が近づいてきた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 足音が徐々に近づいてくる。

 制限時間があと一分となったその時、ようやく息を荒らげながらセシルが現れた。


「はぁ、はぁ……つ、ついた……!」


 安堵の息を吐くセシルの手にはレアスライムが握られていた。

 もしかしてセシルの奴、俺と同じ事を考えていたのだろうか。

 すなわち俺がレアスライムを狩れなかった時の為に、余分に捕らえていたという事を。


「よかった……アレクセイ、君は先に合格していたんだね」

「当たり前よ。そしてその手のものはお互い不要のようだな」

「いや、こっちは必要なんだ」


 そう言ってセシルは、レアスライムに一撃を加える。

 消滅と共にミラはにっこり微笑んだ。


「はい、セシルさんも合格です。お二人ともお疲れ様でした」


 まだ自分でレアスライム10体倒してなかったのか。

 ということは俺の為に捕獲してきた、のか?

 自分が合格出来ないかもしれないのに?

 訝しむ俺を見て、セシルはふいと目を背ける。


「僕がこの場に立っているのはアレクセイ、君のおかげだからな。僕が合格して君が出来ないなんて事があってはならない」

「セシル、お前……」


 なんというイケメン。

 はにかむセシルを見て、ミラも感心している様子だ。

 むぅ、悔しいが今回は譲らざるを得ないな。

 負けたぜセシル。お前の方がいい男だよ。

 ほんのちょっぴりだけどな。


 ■■■


 合格した俺とセシルはすっかり意気投合し、屋台で飲み明かしていた。

 いい気分だ。歌でも歌いたい気分である。


「全くよぉ、最初はむかつく野郎だと思ったが……ヒック、お前意外といい奴だなぁ」

「僕なんて大したことないさ。アレクセイ、君こそ凄い男だ」

「へっ、そいつはどうも……おっとと」


 フラつく俺を、セシルが支える。

 ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐった。

 こいつ、男の癖にいい匂いがするな。


『飲み過ぎですアレクセイ、これ以上のアルコール摂取は身体に毒ですよ』

「むぅ、まだいけるぞー」

『はぁ、声に出てますよ。今日はもう帰りましょう』

「アレクセイ、そろそろ帰ろう。あまり飲むと身体によくないぞ」


 シヴィと同調するようにセシルが言う。

 やれやれ、そこまで言うなら仕方ない。

 確かに少しフラついてたし、目の前もクラクラする。今日のところはこの辺にしておくか。


「わぁったよ。ったく、じゃあ帰るとするか。セシル、お前の宿はどこだ?」

「そこの角を曲がった先にある所だ」

「おー! なら俺と一緒じゃないかよ!」

「そ、そうなのか……」


 まさか偶然同じ宿だったとはな。

 まったくもって世間は狭い。


 ■■■


「さーて、風呂に行くとするかぁ」


 機嫌よく鼻歌を歌いながら、俺は大浴場へと向かう。

 酔いが回っているのか、頭がふわふわしている。

 脱衣所で服を脱ぎ、中へ。

 身体を洗い流して湯船に入ろうとすると、湯煙の中に人影が動く。


「ひゃっ!?」


 俺に気づいた人影が悲鳴を上げた。

 まさか女性が入る時間帯だったか?

 この大浴場は二時間おきに男女が入れ替わる仕組みだ。

 俺は慌てて後ろを向いた。


「す、すまん。先客がいたとは……」


 と言いつつ横目で湯船の方を覗く。男の子だからね、仕方ないね。

 湯煙の中、目を細めてようやく見えたのは……湯船に隠れるように浸かるセシルだった。


「あ、あ、アレクセイ! 何故こんなところに……!」

「……なんだセシルか。びびって損したぜ」


 そして残念だった。女だったらよかったのにな。

 確かにセシルはきゃしゃで丸みを帯びた身体だが、男である。胸もないし間違いない。

 俺はざぶんと風呂に入った。

 セシルは顔を赤らめたまま、顔を半分水に浸けていた。

 妙及に及び腰である。


「何恥ずかしがってるんだよ」

「は、恥ずかしいに決まっているだろう! 何を考えている全く……!」

「へぇへぇ、そうですか。別にいいけどよ」


 俺から離れたまま、近寄ろうとしないセシル。

 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。ちょっと傷つくぞ。


『アレクセイ、まさか気づいていないとは思わなかったのであえて言いませんでしたが、セシルは……』

『んあ……』


 シヴィが何か言っているが、頭が働かない。

 酔いと湯当たりで頭がぼおっとしてきた。

 これ以上はいかんな。

 そう思い湯船から立ち上がると、俺の一物を見たセシルが両手で目を塞いだ。


「ななな、何をしているっ!?」

「はぁ? もう上がるんだよ。お前こそガン見するなよ」

「するかっ!」


 してるけど。指の隙間から目をしっかり開けているのが見える。

 まぁいいか。さっさと出よう。


「ふぁぁーぁ。寝るわ。おやすみ」

「う、うむ……」


 やはり深酒からの長風呂はよくないな。

 俺はまっすぐ部屋に帰ると、水を飲んで眠りについた。

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