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軍人、上層を目指す

 ピ――

 と、電子音と同時に跳ね起きる。

 身構えていると、頭の中にシヴィの声が響いた。


『おはようございますアレクセイ、午前六時です』

『……あぁ、おはようシヴィ』


 どうやら通常のアラームだったようだ。

 安堵しつつ、すっかり乾いた服を着る。


『魔物は近寄っては来ませんでした』

『ふむ、近くで動いている人間を感知して動いているのかもな』


 昔のMMO等では、容量の都合でプレイヤーが近づかなければ全く動かない魔物も多く存在する。

 当時はそれを利用してハメ殺したりしたものだ。

 とはいえそれが確定したわけではないし、警戒はしなければ。

 ジョブに『盗賊』をセットすると、周囲に魔物の気配が生まれた。

 強い魔物が多いのか、一階層よりも一つ一つの気配が大きいな。


「ん……」


 俺が現状を把握していると、目を覚ましたのかセシルが起き上がった。


「おう、起きたか」


 俺を見てパチパチと瞬きした後、セシルは飛び起きた。


「な、なな……っ!?」

「落ち着け、ダンジョンで怪我をして、眠ってたんだ」

「あ……そ、そうだったな。取り乱してすまなかった。今は何時だ?」

「午前六時、朝飯を食ったらすぐに出発しよう」


 そう言って俺は、ポケットからビスケット型の携帯食を取り出した。

 腹が減っては戦は出来ぬ。

 半分に割り、セシルに渡す。


「……これは?」

「俺の故郷での携帯食だ。味は保証しないが栄養は抜群だぞ」

「ありがたい」


 セシルは礼を言うと、携帯食を齧る。


「な、なんだこれは! ビスケットのようだがこんな複雑な味がする食べ物は食べたことがないぞ! これも魔術なのか? アレクセイ!?」


 そう言ってすごい勢いで食べてしまった。

 気に入ったのなら何よりである。

 この携帯食は長期間の食生活に耐えるよう、絶妙に飽きずらい味に仕上がっているからな。

 慣れるとちょっと変わったビスケットだが、結構中毒性もあり俺も最初の一週間はかなりハマった。


「さて、朝食も食べたし、早く登って帰ろうぜ」

「あぁ、そうだな……つっ」


 どうやら先日の捻挫がまだ痛むようで、セシルはひょこひょこと足を庇いながら歩いている。


「やはり痛むのか?」

「……問題ない。先日に比べると随分マシになった」


 強がっているが明らかに痛そうだ。

 こんな速度で歩けば時間がかかりすぎるし、かといって放置して行くのも気が引ける。

 どうしたものかと思案していると、ふといいアイデアを思いついた。


 まだ『僧侶』のジョブを試していない。

 名前からして回復系だろうし、これを使えばセシルの傷を癒せるかもしれない。

 俺は早速『僧侶』のジョブをセットする。


 アレクセイ=ガーランド

 レベル86

 ジョブ 僧侶

 力B

 防御C

 体力B

 素早さC

 知力SSS

 精神SSSSS

 パッシヴスキル

 奇跡C 薬品精製C


 奇跡は僧侶スキルが使用可能、薬品精製はアイテムを使って色々なポーションを作れるらしい。

 どれ、回復スキルはあるかな……と。

 奇跡に意識を集中させると、スキル欄が出てきた。


 ヒール

 キュア

 プロテクション


 ヒールとキュア、どちらが回復だろう。プロテクションは明らかに防御っぽいスキルだし。

 まぁどちらも試してみればいいか。

 とりあえずヒールを発動させてみると、セシルの身体が淡い光に包まれた。


「え……? な、なんだ? 傷が治って――」


 不思議そうに足を触るセシル。

 先刻まで痛そうだったのが嘘のようだ。

 どうやらこちらが当たりだったようだ。

 キュアの方は多分、状態異常の回復だろう。また今度試してみよう。


「驚いたな……アレクセイ、君は『僧侶』のジョブも持っているのか」

「尊敬してもいいんだぞ」


 俺がにやりと笑うと、セシルも苦笑いを返す。


「……やはりいけ好かない男だ」


 と言いつつも、先日までの暗い雰囲気は薄れていた。

 調子が出てきたようである。


『シヴィ、現在位置から上層へのルートを割り出せるか?』

『確実なルート検索は現在の取得データでは不可能です。行き止まりを排除した仮想のルートなら可能ですが』

『構わない、やってくれ』

『了解』


 シヴィはマップを色分けし、先に通じている道を示す。

 この仮想ルートは探索状況に応じて適宜変更され、出口への最短ルートを示す。

 精度は探索範囲が広がる程、正確になっていく。

 あとは出来るだけ敵を避けながら進むだけだ。

 ジョブを『盗賊』に戻して、探索を始める。


「こっちだ」


 俺はずんずんと歩いていく。

 セシルは戸惑いながらも付いてくる。


「随分迷いなく進むが、道筋がわかるのか?」

「カンだ。別行動したいなら好きにしていいぞ」

「……いや、行くさ。怪我を治して貰ったんだ。戦闘でその借りは返す。君は魔術師だろう? 前衛は任せてくれ」


 そう言って微笑むセシル。

 かなりのイケメンだ。悔しいが様になっている。

 それじゃあ雑魚戦はお任せしますか。


「てああっ!」


 セシルの斬撃が、色違いのゴブリンを真っ二つに斬り裂く。

 多分ゴブリンの上位種なのだろう。

 以前戦ったものより、動きが鋭かった。

 しかしセシルの動きはそれ以上で、あっさりと斬り伏せてしまった。

 口だけの男ではないようだな。


 魔物を倒しながらも俺たちは順調に進む。

 とはいえ思ったよりも広く、時間がかかっていた。

 一時間ほど経過し、やや焦り始めた頃である。


『アレクセイ、この階層の地図がほぼ完成しました』

『やっとか』


 提示された全ルートを探索し、ほぼマップ全域を回ったぞ。

 最後の最後で引き当てるとは、本当に運がない。

 ともあれようやくゴールだ。俺はその場所に向かう。

 近づいていくと一際大きな反応が見えてきた。


「この反応……妙にデカいな」

「ダンジョンには各階層ごとに、そのフロアを守るボスが存在する。恐らくそれだろう」


 どうやら階層ごとにボスがいるらしい。

 ん、ちょっと待てよ? ということは上る階段と降りる階段、両方にいるんじゃないか?

 この先が降りる階段の可能性もあるのか。だったらまた振り出しである。


「ま、行ってみようぜ」


 立ち止まっていても仕方ない。

 俺は警戒しながらも近づいていく。

 壁を曲がったその先に見えたのは、巨大な上り階段だった。よし、当たりだ。

 階段の先には、大きな魔物が見える。

 ツノが生え、手には棍棒を持った鬼のような後ろ姿だった。


「……オーガだ。強敵だぞ」


 セシルがごくんと唾を飲み込む。

 階層ボスだし、それなりに強いのだろうか。


「僕一人では絶対に勝てない相手だ。しかしアレクセイ、君と一緒なら勝ち目もあるかもしれない。まず僕が突っ込んで敵を翻弄する。隙を見つけたら即座に魔術を撃ち込んでくれ」


 そう言ってセシルは立ち上がり、剣を抜こうとした。

 おいおい、ここから斬りかかるつもりかよ。

 戦いでは高い場所にいる方が圧倒的に有利だ。


「ここから狙い撃つ」

「へ?」


 呆けるセシルに構わず、俺はファイアアローを発動させる。

 炎が俺の右手に集まり、さらにデカく、次第に弓矢の形を作っていく。

 ファイアアローは溜める事で威力を増すのだ。

 極限まで溜めた炎の矢を、放つ。

 ばしゅう! と飛んでいった炎はオーガを貫き、上半身を消しとばした。


 オーガを倒した。562EXP獲得。


 あれ、思ったよりあっさりだったな。

 経験値もそんなに多くないし、そこまで警戒するような敵ではなかったのかもしれない。

 セシルは口をあんぐりと開け、オーガが消滅するのを眺めていた。

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