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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第7章 海に揺られて
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9.勝機を待ちわびて

早く、どうか早く。

 船は船員達の威勢を纏い、巨大な水竜に向かって突き進む。

 砲撃専門の第二部隊は移動式砲台を船の前方に展開した。リヴァイアサンが凍てつく吐息や水槍を船に放とうとする瞬間を狙い砲撃を放つ。

 魔法専門の第三部隊は魔法による防御壁を展開し、攻撃に備える。

 抜きん出た戦闘能力の持ち主が集まる第一部隊は、今は遊軍として他部隊の補助に回っていた。


 レオギスとフェーナは敵の様子を慎重に窺い、船員への指示を行う。

 パルは第二部隊の砲撃に混じって魔法を放ち、敵の遠距離攻撃の妨害を手伝っている。

 アイクはクライスの力を借りて氷結魔法の用意をしながら、敵がこちらに食らい付いてくる瞬間を待っていた。


 そして、マルスは怪我人に応急処置を施したり、それでは足りない者を第四部隊の拠点に運んだりして船上を忙しなく駆け回っていた。遠距離での戦いではあったが、リヴァイアサンの攻撃で負傷した者、船の揺れに受け身が取れず転倒したり、(へり)や備品にぶつかったりして負傷した者など、怪我人は彼の想像よりも多かった。

 今の彼は水槍に二の腕を掠められ出血している第三部隊員の手当てを行っている。

 アイクが全体に策を伝えている間から、彼は邪魔にならないよう前線から離れたマストの根元に船員を座らせ止血を続けていた。


「坊主、お前あの坊ちゃんと嬢ちゃんの仲間だろ? 坊主は前線に出ねぇのか?」


 傷付いた二の腕を心臓より高い位置に上げ、止血の痛みに時折顔を歪めながら船員がマルスにそう問い掛ける。

 船員は船に乗せた乗客の中に彼がいた事を何となく覚えていた。そして乗客にも拘わらずこの場に彼がいるという事は、先程声を上げた少年や第三部隊の大きな戦力となっていた少女の連れなのだろうと予想した。


「一緒に戦いたいんですけど……オレ魔法出来ないし、大砲だって使い方知らないから、今はこれしか出来ないんです」


 ある程度流血が治まった事を確かめ、傷薬を染み込ませた包帯を二の腕に巻きながらマルスは船員の問い掛けに答える。

 彼のどこかやるせない様子に、船員はこの話題にはあまり触れないでおいた方が良いのかもしれないと思った。彼の答えに「そうなのか」と一言だけ返すと、周囲の戦況に視線を逸らす。


「でも、オレは役に立たないけど、あの二人は本当に凄い力を持っているんです。それに皆さんも協力してくれてる。だから、絶対大丈夫。リヴァイアサンなんて倒せちゃいますよ!」


 船員の少々気まずそうな様子を感じ取ったのだろうか。マルスは明るい口調に戻ってそう言った。


「ははっ、坊主がそんだけ自信ありげに言うんなら、ますます奴を倒せそうな気がしてくるぜ」


 二人の、そして皆の力を信じている。そう笑顔で伝えてくるマルスにつられて船員も笑顔が浮かべた。

 彼の笑顔を嬉しそうに受け止めながらマルスは包帯の締め具合を確認して、手早く出ていた救急用品を鞄に戻していく。


「じゃあオレ、あっちの方の様子も見てきます!」


「おう! ありがとな、坊主!」


 片付けを終えると、マルスは船員に一声掛けて立ち上がる。船員から掛けられた感謝の言葉にもう一度笑顔を浮かべて返事をすると、彼は駆け出して行った。




 *   *   *




 ユスティア・イグニスの船は、リヴァイアサンとの距離を縮めていた。

 距離が縮むほどにリヴァイアサンの巨体が動く度引き起こされる波が船を襲った。時には立っているのが困難になったり、移動式砲台が動いてしまったりと、陣形を崩される事も何度かあった。それによって砲撃部隊や防御壁の機能が一時的に低下する瞬間を見計らい、リヴァイアサンは反撃をしてくる。


 これでは折角の策が無駄になりかねないと思った第二部隊員は、砲台の車輪を氷結魔法で床ごと凍り付かせる。防御壁を展開する第三部隊の中には凍傷が出来る事も顧みず、自身の足を氷結魔法で床に貼り付け、揺れの影響を受けないようにする者もいた。


 距離が縮めば縮むほどリヴァイアサンが砲弾やパルの魔法に被弾する回数や、被弾による損傷は増してきている。

 だが同時に、リヴァイアサンの攻撃も威力が弱まる事なく届くため防御壁には綻びが目立ち始めていた。それを狙って放たれる水槍や凍えた吐息が船員達を襲い、一時的とはいえ戦線離脱してしまう者も増えている。


 リヴァイアサンとしては、今のところ全てが好都合だった。

 幸運な事に、自ら動かずとも獲物は勝手に近づいてくる上に、少々反撃してやるだけで獲物は疲弊していく。あとは船が自分の捕食圏内に入った所で、脆くなった防御壁ごと獲物を喰ってやればいいのだ。

 愚かにも近づいて来る獲物が捕食圏内に入る事を待ちながら、リヴァイアサンは水槍を船目掛けて放つ。

 人が小動物の考えている事など分からぬように、水竜にもまた小さな生き物の考えなど分からなかった。そして、己の怠慢さと慢心が仇となる事も。


「お前ら気張れよ! ここが踏ん張りどころだ!」


 戦線離脱者が増え、防御壁の綻びも目立つようになり、船員達の士気は下がりつつあった。離脱者の増えてきた第二部隊に混じって砲撃を行いながら、レオギスは声を張り上げて皆を激励する。

 リヴァイアサンとの距離は、あと五十メートル程。敵が直接食らい付いてくるのも時間の問題と言える距離だ。

 船体や床板、真っ白な帆にはいくつも穴が空き、船員達以上に船は満身創痍といった様子だった。

 船が壊れるのが先か、リヴァイアサンが食い付いてくるのが先か。少々おかしな表現ではあるが、誰もが早く食い付いてくれと願う。


 アイクも強くそう思いながら、いつでも魔法を放てるよう構えていた。

 魔法はこれまでに何度も実戦、訓練問わず使ってきたが、今ほど自身の魔力を酷使した事はない。まして、自身の今出せる最大限の魔力に加えてクライスの力も合わさっているため、彼の体に掛かってくる負荷は非常に大きかった。

 魔法に切り替わった魔力は今か今かと解き放たれる瞬間を待ち望んでいるかのようで、行使すべき時が来るまで抑え付けているのが苦しいほどだ。

 脂汗が額に滲み、呼吸が荒くなる。少しでも気を抜けば予期せぬ時に魔法が放たれ、全ての計画が水泡に帰してしまうだろう。


(早く、早く掛かって来い……!)


 深く息を吸い込んでリヴァイアサンの巨体を見上げる。その巨体は、もう船の目と鼻の先まで迫っていた。

 刹那、リヴァイアサンが動いた。(もた)げていた鎌首を前へと突き出すようにして船に迫って来たのだ。

 敵の動きと共に起こった波が船を大きく揺らし、船員達は倒れそうになった。

 今までどうにか踏ん張って揺れに耐えていたアイクもこの揺れには耐えられず、船と共に体がぐらりと揺れて後ろへと傾き――


「アイクッ!」


 体は後ろへと傾く途中で何者かに止められた。

 咄嗟に振り返ると、あちこち駆け回って働いていたはずのマルスの姿が視界に入る。


「大丈夫?」


 倒れかけていたアイクの体は、マルスによって支えられていたのだ。

 マルスはアイクが魔法を制御するために構えを解けない事を分かっており、彼の体を押すようにして体勢を戻してやる。

 倒れそうになった事に焦りはしたものの、咄嗟にマルスが体を支えて転倒するのを止めてくれたおかげで、誤って魔法を放つのをどうにか抑える事が出来た。


「すまない、助かった」


「良かった。アイクが倒れたら大変だからね。オレは今応援しか出来ないけど……頑張ってよ、アイク! じゃあオレ、あっちの怪我してる人の手当てしてくる!」


 アイクは意識を再び敵に集中させながらも、視線だけマルスに向けて礼を言う。

 マルスの方は、激励の言葉と共に笑顔を向けて彼の背中を軽く叩くと、怪我人のいる方へと駆けて行った。

 笑顔と激励を受け取ったアイクは、去っていくマルスの背中に「ああ」と一言だけ返す。その顔には、つい先刻まで緊張と焦りで決して浮かぶ事のなかった笑みが浮かんでいた。

 そして、アイクは視線をリヴァイアサンに戻す。まさにその瞬間だった。


 接近していたリヴァイアサンが、獲物を喰らおうとその巨大な口を開けて船員達の集う甲板に迫る。

 空気を震わせるかのような蛮声と迫る巨大な口への恐怖に誰もが気圧されそうになった。

 だが、アイクにはここで恐怖している暇などない。


「今だッ!」


 アイクはリヴァイアサンが船に食らい付こうとした瞬間――心臓が無防備になった瞬間を見逃さず、抑え込んでいた魔法を解き放った。

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