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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第7章 海に揺られて
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8.それぞれの戦い

正義の炎を燃やせ。

 アイクとパルが魔法攻撃を専門とする第三部隊と合流し、その後にフェーナはマルスを治癒専門の第五部隊のいる場所へと連れて行った。そこは甲板から直通の大部屋で、中では怪我を負った船員が第五部隊から魔法や薬などでの治癒を受けていた。


「訳あってこの子も第五部隊の手伝いをしてくれる事になった。魔法は使えないが、その分こき使ってやってくれ」


「よろしくお願いします!」


 フェーナは扉を開けて第五部隊の全体に声を掛け、マルスを前に出す。

 彼が一声挨拶をすると、その場にいた船員の中からふくよかな体型をした中年の女が彼に歩み寄って来た。


「私は第五部隊長のマーレ。ちょうど良かった。怪我人を運ぶのに男手が必要だったのよ」


 第五部隊の隊長であるマーレは快くマルスを迎え入れた。

 この第五部隊はマーレ含めて女性が三人、男性が三人と男女比はちょうど良いのだが、戦闘を主とする第一から第四部隊は圧倒的に男性の割合が多い。男女の体格差もある事から、怪我人を前線からここまで連れて来るのは女船員には少々難儀なのだ。


「じゃあ、アタシは前線に戻るよ」


 フェーナはそう言って踵を返すと、前線の方へと足早に戻って行く。

 彼女の後ろ姿を見ながら、マルスは前線に出られない悔しさが込み上げて来るのを感じていた。

 アイクもパルも、レオギスもフェーナも、共に掃除をしていた三人の船員も、皆命がけで戦っているのならば、いつものように自分も武器を取って共に戦いたい。そう思うのだが、彼には魔法も使えなければ、大砲などの飛び道具を扱う知識もない。

 この状況で己が如何に無力なのか、マルスは思い知らされていた。


 悔しさに俯いて拳を握り締めていると、不意に彼の足下に何者かの影が伸びる。

 自分の前に立つ者の存在に気づいたマルスが顔を上げると、そこには前線に戻って行ったはずのフェーナの姿があった。

 性格も相まって鋭く見える彼女の眼差しが真っ直ぐに自分に向けられており、マルスは思わず緊張の色を浮かべる。


「マルス、だっけ? 一つ助言しておくよ。今この場にいる全員が、自分に出来る事を最大限やってるんだ。リヴァイアサンとやり合ってる奴らだけじゃない。ここでの怪我人の治療も、乗客の避難も、それぞれの船員が自分に出来る事を懸命にやってる。みんな戦ってるんだ」


 厳しくも、どこか優しさの滲んだ口調だった。


「だからアンタも、今自分に出来る事を最大限にやりな。仲間と一緒に前線で戦えなくて悔しいなら、その分今アンタに出来る事を死ぬ気でやるんだ。それが巡り巡って、リヴァイアサンを蹴散らす事に繋がるから。……アタシから言えるのはこのくらいだ。後は、自分で考えて動きな」


 フェーナは最後まで言い切ると、マルスの返事を待たずに彼に背を向けた。そのまま前線へと駆け足で戻って行く。


「……っ、ありがとう! フェーナさん!」


 何か返さなくては、そう思ったマルスは咄嗟にフェーナの背中に向けて叫ぶ。彼女は振り返らず返事の代わりに右手を挙げて見せた。

 彼女はマルスの抱く悔しさとやるせなさを感じ取り、彼女なりに気に掛けていたのだ。

 ぶっきらぼうな物言いの中に滲んでいた優しさをマルスは確かに受け止めた。そして、彼女の言葉通り自分に出来る事を最大限にやろうと胸中で宣言し、自奮するように両手で両頬を叩いた。


「さあ、早速働いてもらうわ。こいつらと一緒に、重傷の怪我人を運んでちょうだい」


 部隊長のマーレは、フェーナが去って彼が奮起したのを見届けてから声を掛ける。彼女の隣には、第五部隊の男船員三人が立っていた。


「それと、簡単な治療くらいなら出来るかしら? 小さい怪我はその場で応急処置をしてちょうだい」


 マーレは彼が問い掛けに対して頷いたのを見て、布製の肩掛け鞄を彼に渡しながら言葉を続けた。

 鞄の中を覗くと回復薬や包帯、消毒薬など応急処置に使う道具が入っているのが分かる。

 彼はマーレの指示に返事をしながら、その鞄を身につけた。


「よし、行こうぜ」


 マルスの用意が出来たのを見計らって男船員の一人が声を掛けてくる。それに頷いて返事をすると、マルスは彼らと共に前線へと駆けて行った。

 彼の海色の瞳にもう悔しさの影はなく、気概の煌めきが宿っているのだった。




 *   *   *




 一方、アイクとパルは前線で第三部隊に混じり、リヴァイアサンへの魔法攻撃を行っていた。二人は守護聖霊の力によって強化された魔法をリヴァイアサンにぶつけて怯ませ、船への接近を阻む。

 何度か鼻根と胸部分にある心臓を狙い魔法を放ってみたが、数百メートル離れた敵の体の限定された部分に正確に当てる事は難しかった。偶然当たったとしても、心臓を守るように顔の硬い皮膚や胸鰭(むなびれ)が邪魔をする。

 もっと近い距離でなければ、リヴァイアサンの心臓を潰すのは不可能であった。


 とはいえ、守護聖霊の力で強化された二人の魔法は、他の船員の魔法や大砲より威力が強く、リヴァイアサンは回避と防御に気を取られていた。

 そのおかげでリヴァイアサンが水槍を放ったり、凄まじい冷気を纏った息を吐き出したりするのを幾らか防ぐ事が出来ていた。


 そして、アイクとパルがリヴァイアサンの足止めに加勢してから十分程が経過しただろうかという頃。不意に拡声器を通して船上にレオギスの声が響いた。


「乗客十三人の避難は完了した! 乗客の方は第四部隊に任せてある! オレ達はこれからリヴァイアサンを沈めに行くぞ! あのデカブツによる悲劇をここで終わらせる!」


 聞こえてきたレオギスの言葉に、船員達が返したのは威勢の良い返事ではなかった。誰もがあの巨大な水竜を、先代船長が命を散らしても右目一つしか潰す事の出来なかった相手を今ここで倒すなど不可能だと思ったのだ。

 皆戸惑いに満ちた様子で近くの船員と顔を見合わせたり、レオギスに視線を向けたりしていた。


「アイツを倒すのは不可能じゃないかもしれねぇんだ! 第三部隊にフェーナが連れて行った坊ちゃんと嬢ちゃん、あの二人が自分らにはリヴァイアサンを退けられる強大な力がある、そう言っていた。アイツをここで葬れるんなら、オレはそれを信じようと思う。お前らにも信じて協力してほしい」


 レオギスがそう言うと、一斉に船員の視線がアイクとパルに集まる。

 二人のそばにいた第三部隊長の男も、二人に一度視線を向ける。それからレオギスに視線を戻し、首に提げた、魔法陣が彫刻された直径四センチ程の石を口元に寄せる。その石はごく簡易的に作られた魔法道具で、拡声の魔法が掛けられていた。


「二人の力は確かにすげぇし、船長が信じて、姐さんがそれを止めなかったのなら、オレ達も信じて良いとは思うが……何か策はあんのか? ただ力があるって言われても」


 二人の加勢によって、魔法攻撃の勢いが格段に上がっているのを船員達は感じていた。

 だが、策がなくては力があっても無駄になる。それは他の船員達も思っていた事で、彼の言葉に頷く者や「そうだ」と言う者が何人もいた。

 レオギスは彼らの声に応えようと口を開きかける。だが、その声が発されるより早く、船上に一人の声が響いた。


「それなら、俺に考えがありますッ!」


 声を上げたのは、アイクだった。彼は皆に気づいてもらえるよう、右手を高々と挙げて腹の底から声を出した。

 砲撃音や水竜の咆哮が響く中でも彼の声は多くの船員に届き、いくつもの視線が一気に彼に集まる。

 気を利かせた第三部隊長は、自身の持っていた拡声器を彼に手渡した。アイクは礼を言ってから拡声器を通して話し始める。


「船をリヴァイアサンに近づけてください! その間、魔法を扱える方は防御壁の展開を! 第二部隊の方は、砲撃で可能な限り奴の攻撃を妨害してください! 距離を詰めて、奴が我々に直接食らい付こうとした瞬間……心臓が無防備になる瞬間を狙って、俺が奴を凍らせます! 身動きが取れない間に、二ヶ所にある心臓を破壊してください!」


 リヴァイアサンとの距離を詰め、敵がこちらに食らい付こうとした瞬間に凍らせて心臓を破壊する。それがアイクの提示した策だった。

 清掃の手伝いのため船内を移動していた時、彼はこの船の下方に強い魔力を感じていた。鋭い魔法の感知能力を持つパルに確認をしたところ、船底に防御魔法が働いているらしい。魔物や賊との戦闘が多い船だからこそ、見えない所の守りが徹底していたのだ。

 船底への攻撃に強い事に気づけば、リヴァイアサンは船の上部を狙ってくるだろう。そして、遠距離攻撃の手段を封じてしまえば、確実に直接船に食らい付いてくるに違いない。その瞬間を狙うのだ。


 攻撃の瞬間ほど防御が疎かになる時はない。加えて至近距離ならば、大砲や魔法以外の武器での直接攻撃も可能になり、心臓を確実に破壊出来るはずだ。

 とはいえ、攻撃方法の提案だけでは皆の賛同は得られない。それを理解しているアイクは、防御壁を展開して万が一の事態に備えるという提案も策の中に含めていた。

 彼の策を聞いていた船員達は少々不安を顔に浮かべていた。だが、彼の堂々とした声はその不安を掻き消すほどの力強さを持っており、第三部隊の方から徐々に賛同の声が上がり始める。


「でも、それじゃ、アイクだけが大変……。私は、どうしたらいい……?」


 賛同の声が飛び交う中、パルがアイクの服の裾を軽く引っ張ってそう声を掛ける。

 聞く限り、彼の言う策は彼にのみ負担の掛かるものだ。共にリヴァイアサン討伐の大きな鍵としてこの場にいるパルは、それでは忍びないと思ったのだ。


「不測の事態が起きた場合、俺より魔法の出来るパルが動ける方が安全だ。だから、ひとまずここは俺に任せて、防御壁の展開と奴の攻撃妨害の補助に回ってくれるか?」


「……分かった……」


 不測の事態に陥った場合、自身よりも魔法の能力に優れるパルが動ける方が、リヴァイアサンを倒せる可能性も犠牲者を出さない確率も格段に高くなる。

 アイクがその考えを伝えると、パルは彼への負担の大きさをまだ幾らか気に掛けながらも、彼の考えを受け入れて頷いてみせた。


「よーしお前ら、策は聞いた通りだ! 第二部隊は砲撃用意! 第三部隊は防御壁を展開しろ! 第一部隊は遊軍として動いてもらう!」


 アイクの策を受け、レオギスはより細やかな指示を全体に伝える。


「船を前進させろ! 今日こそリヴァイアサンをぶっ潰すぞ! 正義の炎を燃やせ!」


「正義の炎を燃やせ!」


 レオギスの言葉に続いて「正義の炎を燃やせ!」と威勢の良い声で船員達は連呼しながら、各々指示された行動に移った。

 ユスティア・イグニスの船は、白波を立てて真っ直ぐにリヴァイアサンへと突き進んで行く。

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