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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第7章 海に揺られて
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5.嵐のような二人

喧嘩するほど仲が良い。

 レオギスから、怪物の急襲で海に落ちてこの海賊船に保護されるまでの経緯を聞いた三人は、改めて自分達を保護してくれた感謝を彼に伝えた。

 ちょうどその直後、出入り口の扉の向こうからどこか不機嫌さの滲んだ靴音が響いて来て、扉の前で止まる。


「レオ! レオギス!」


 レオギスの名を呼ぶと同時に扉が開き、部屋に一人の女性が入って来た。

 夜空のような紺色の長髪を高い所で一つに結い上げた女性で、切れ長で少々吊り気味の黄色の瞳は鋭さがあり、気の強そうな印象を与えてくる。

 彼女も頭にはスカーフを巻いているが、彼女の雰囲気とは異なる明るい朱色で、少々ちぐはぐな印象を受けてしまう。


「よお、フェーナ。どうした?」


「どうしたじゃないよ、この馬鹿船長。今後の目的地は決まったけど、どの海路で行くか決める話し合いがまだ終わってないだろ? 船長のアンタがいないと困るんだよ」


 腕を組み、苛立ちの滲んだ声で文句を言いながら、フェーナと呼ばれた女性はレオギスのそばへと歩み寄って行く。


「悪い悪い。そうイライラすんなって。美人が台無しだぜ?」


「誰のせいでイライラしてると思ってんだい!」


 苛立ちを隠せないフェーナとは反対に、レオギスは相変わらず飄々とした態度を崩さない。

 それが尚更彼女の癇に障るのだろう。

 眉間にこれでもかと皺を寄せ、彼女はレオギスの頭を軽く手のひらで叩いた。

 「いてっ」と言う声をこぼしながらも、彼は笑みを浮かべたままで懲りた様子は全くない。


「そうだそうだ、フェーナもこいつらに自己紹介しとけよ。一応お客様みてぇなもんなんだから」


 話を誤魔化すかのように、レオギスは彼女に自己紹介するよう促す。

 少々はぐらかされたような気分になった彼女は小さく溜め息をついて、睨むようにレオギスを一瞥すると、三人の方に体を向けた。


「見苦しいところを見せて悪かったね。アタシはフェーナ。この海賊団ユスティア・イグニスの一員だ。あと、この馬鹿船長のお目付役ってところ。よろしく頼むよ」


 無愛想ではあるものの、僅かに柔らかくなった口調でフェーナは三人に自己紹介をした。

 それを受けて三人も彼女に自分達の名を伝える。


「保護していただいて、本当にありがとうございました」


「感謝されるほどの事はしてないよ。アタシらはただアタシらの仕事をしたまでさ」


 アイクが自分達を保護してくれた事への感謝を伝えると、彼女はそう返して小さく微笑んだ。

 海の治安を守る事を生業としている海賊団ユスティア・イグニスに属する彼女にとって人助けは仕事の一つであり、褒められるほどの事ではないと思っているのだろう。

 とはいえ、初めて三人に見せた微笑みには、素直に感謝された嬉しさと自分達の仕事への誇らしさが滲んでいた。

 口調や雰囲気は少々粗野で鋭い印象を受けるものの、根は非常に良い人なのだろうと三人は感じた。


「おお、フェーナの笑った顔拝めるなんて、お前らレアだぜ? いっつもこーんな顰めっ面だからなぁ」


 レオギスはそう言うと、眉間に思い切り皺を寄せ、指で自分の目尻を引っ張り上げて大袈裟なほどの顰めっ面を作る。

 思わず笑ってしまいそうになる顔だったが、傍らのフェーナから殺気にも近しい鋭く冷え切った空気が放たれているのを感じ取った三人は、一瞬にしてその笑いが引っ込んだ。


「レオギス……アンタ、海に沈められる覚悟は出来てんだろうね……?」


「ほら見ろ、そっくりだろ?」


 フェーナが殺気が混じった怒気を放ってレオギスを睨み付けるが、当の本人は顰めっ面を作ったまま三人に自分と彼女の顔を見比べるように言ってくる。

 当然フェーナはますます不愉快そうな様子でさらに顔を顰める。

 確かに今の彼女の表情はレオギスの大袈裟な顰めっ面によく似ていた。だが、彼の問い掛けに答える事も笑う事も、三人にはとても出来なかった。


「こんのアホ船長が!」


「うおっと!」


 怒声と共にフェーナはレオギス目掛けて平手打ちを放とうとする。

 レオギスは少々驚いたような声を上げるが、軽やかにその一撃を躱した。

 怒りに満ちた表情で彼女はその後も平手打ちや手刀を繰り出すものの、レオギスは軽い足取りと身のこなしで部屋を逃げ回る。

 三人はその様子をただただ見つめているしか出来なかった。

 一度だけレオギスに盾にされたマルスは、危うく彼女の鋭い平手打ちを頬に食らいそうになりもした。


「ああ、そうだそうだ。オレ達が保護した乗客達全員、乗ってた客船の目的地だったアストルムまで乗せて行くからな。おっと、危ねっ」


 フェーナの攻撃を巧みに回避しながら、レオギスは三人に向けてそう言った。


「本当!? ありがとう!」


 また港町バルコに戻って船に乗り直すという、振り出しに戻される事になるのではとどこかで思っていたマルスは、嬉しそうに感謝を伝える。


「良いって事よ。んじゃ、オレは船長室に戻っから、なんかあったらいつでも来いよ」


「待ちなレオギス!」


 部屋の扉を手早く開けたレオギスはそう言い残して部屋を出て行く。彼の後をまさしく鬼の形相をしているフェーナが追いかけて行き、部屋の扉は乱雑に閉められた。

 扉の向こうに聞こえる二人の足音と声が徐々に遠退いていく。

 フェーナの一撃が遂にレオギスを捉えたのか、「痛っ!」と言う彼の声がかすかに耳に届いた。


「……嵐のような人達だな……」


「でも……二人共、良い人そう……」


 二人が去って行った扉を見つめながら、アイクとパルは呟きをこぼす。

 レオギスがフェーナの神経を逆撫でするような言動をするのが大きな原因だが、二人揃うと随分騒がしい印象を受ける人物だ。しかし、彼らの人柄の良さは本物であり、彼らに保護されて良かったとアイクもパルも心底思っていた。

 二人の足音が完全に聞こえなくなってから、パルは傍らにいるマルスに視線を向ける。


「マルス……カイル兄が、どこかで生きてるかもって……分かって、良かったね……」


 いつものぽつりぽつりとした口調ながらも、パルは微笑みを浮かべてマルスに声を掛ける。


「うん…………うん……」


 マルスは俯いて、両手で顔を覆いながら彼女の言葉に頷いていた。

 本当はレオギスから自分を助けてくれた者の話を聞いた時、泣きたくて泣きたくて堪らなかった。

 だが、事情も分からぬ彼の前で泣いてしまっては余計な心配を掛けさせてしまうだろうと思い、泣くのを堪えて明るく振る舞っていたのだ。

 そして、レオギスとフェーナが部屋から去って三人だけに戻った今、彼の抑えていた思いが一気に溢れ出していた。


 客観的に考えれば、助けてくれたのが兄という確証はなく、兄がどこかで生きているのではないかというぼんやりとした希望がほんの少し形を持ち始めた程度の出来事だ。

 だが、マルスにとっては数年の長い間何も見えなかった闇の中でようやく僅かな光を見つけた、という出来事であった。

 兄が生きている、また会えるという嬉しさと期待もあれば、何故そのまま自分のそばにいてくれなかったのかという寂しさと疑問が一気に彼の中に押し寄せて来た。


「ようやく希望が見えて良かったな」


「私達も、嬉しい……」


 俯いて顔を隠したまま泣くマルスの肩をアイクが優しく叩き、パルが手を伸ばして柔らかな彼の茶髪を撫でる。

 彼の抱く思いは、ずっと時間を共にしてきた自分達でも計り知れないほどに大きいと理解している二人は、ただ黙って彼を今の思いに浸らせ、見守っているのだった。

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