↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第7章 海に揺られて
92/132

6.驚きに次ぐ驚き

魔物の正体、二人の関係、そして敵は再び。

 マルスが落ち着いてから、三人は船長室にいるレオギスを訪ねていた。

 助けてもらったというのに何もせず、ただ目的地のアストルムまで送ってもらうのは忍びなく感じ、せめて何か手伝いは出来ないかと思ったからだ。

 レオギスは航路の確認でもしていたのか、机に地図を広げて椅子に腰掛けながら三人の申し出を聞いていた。


「助けてもらった礼に手伝いがしたいって? いやぁ、若ぇのに感心すんぜ」


 そう答えるレオギスの左頬は少々赤らんでおり、三人のいた部屋を出た後やはりフェーナにひっぱたかれたのだとマルス達はすぐに理解出来た。


「助けられた礼に手伝いを申し出て来る連中なんて、なかなかいないからね。ホント、レオにも見習って欲しいところさ。アンタらの爪の垢、煎じて飲ませたいもんだね」


 保護された礼をしたいと申し出て来る者はそう多くはないらしく、レオギスも、共に部屋にいたフェーナもこれは珍しいといった表情を浮かべていた。

 海で保護されると言えば、船が転覆したり、波に流されて溺れかけていたりと死の瀬戸際に立たされているような場合がほとんどだ。

 助かった後すぐに、助けてくれた相手に言葉ではなく行動として感謝を表せるだけ心の余裕は、そうそう多くの者が持てるわけではない。

 それ故、二人は少々驚いたような反応を見せたのだ。


「そういう事なら、船内の雑務でも手伝ってもらうか。フェーナ、後は頼むぜ」


「ついて来な」


 レオギスから船内の雑務の手伝いを頼まれ、三人は返事をしてそれを快諾する。

 フェーナが先に船長室を出たのを見て、レオギスに一度会釈をしてから三人もすぐに彼女の後を追って行った。




 *   *   *




 三人がフェーナから任されたのは、船内の清掃だった。

 今回の怪物による客船事故で乗客達を保護した際、怪我をしている者も多かったため甲板に彼らの血が残っていたり、船に乗る者が増えた事で船内の汚れも増えていたりと、普段よりも念入りな清掃が必要であった。

 その忙しい中にちょうど三人が手を貸すという事になり、清掃担当の船員達は三人を大層歓迎してくれた。


 フェーナは他の保護した乗客達の様子を見に行くと言って、三人を船員に任せ、乗客のいる部屋へと向かって行った。

 三人は清掃担当の船員から指示を受け、男船員二人、女船員一人と共に船内で最も広い部屋の清掃をする事となった。


 部屋を出てから船長室へ行き、そこから船員の部屋、そして今いる広間まで歩いてみたが、この海賊船はなかなかに大きいものだと三人は感じていた。

 船員から聞いた話では、元々この海賊船は客船で、幾らか改造を施して今の形になったらしい。

 それならば、海賊船にしては随分大きく、部屋が多い事にも、所々に見受けられる気品ある装飾にも合点がいった。

 船員達と会話をしながら、三人は清掃を進めていく。

 マルスとアイクは広い床のモップ掛けを、パルはいくつもあるテーブル拭きを手伝っていた。


「いやぁしっかし、怪物に襲われるたぁ、お前らも災難だったな」


「本当に生きてて良かったです。助けてくれて、ありがとうございました」


 共にモップ掛けをしている男船員の一人が掛けてきた言葉に、マルスは助けてもらった事への感謝の言葉を添えて応える。


「客船を襲った巨大な竜……あれはこの辺りの海ではよく出没するのですか?」


「客船を襲ったのは、リヴァイアサンって言う水竜だ。ここいらの船乗りや海辺の町なんかじゃあ有名な魔物さ」


 アイクは船員に自分達が乗っていた客船を襲った巨大な水竜の事を尋ねる。

 水竜リヴァイアサン。

 その名を聞いた三人は、キューマ神殿からの帰り道で語られたカナンの話を思い出す。

 自分達の両親はリヴァイアサンという海の魔物に襲われて死んだのだと彼女は語っていた。


「まあ、十年前にあいつは致命傷を負って、しばらく姿を見せなくなったんだ。でも、その傷が癒えたんだろうな。二年前くらいからまた出現するようになって、客船や漁師を襲ってんだ」


「その致命傷を負わせたのが先代――今の船長の親父さ。先代は奴に致命傷を与えた代わりに……っつったらアレだけど……そのまま死んじまった」


 少々重苦しい空気が部屋に流れる。

 船員の話によれば十年前、リヴァイアサンはユスティア・イグニスの先代船長――レオギスの父親によって致命傷を負ったらしい。

 だが、先代船長は致命傷を負わせる代わりに自身の命を散らしたのだ。

 軽く客船の倍はある巨体の魔物に致命傷を与えるという事が如何に困難な事なのか、この話だけでマルス達にも容易に想像がついた。


 そして、父親を亡くし、その後を継いで船長として皆を先導しているレオギスを思うと胸が苦しくなった。

 カナンとティア、レオギス、その他大勢の誰かにとっての大切な人が、皆あの怪物に喰われて帰らぬ人となっているのだと思うと腹立たしさすら感じる。


「もー暗い話はやめやめ! 明るい話しよ! 何が良いかなぁ……。あっ、三人はさ、船長と姐さんの事どう思う?」


 パルと一緒にテーブル拭きをしていた若い女船員が、重苦しい空気を掻き乱すように声を上げた。

 彼女の一声で暗い部屋に明かりが灯されたかのように、空気がふわりと軽くなる。

 暗い話に持って行ってしまった男船員は少々ばつの悪そうな顔を彼女に向けていた。


「レオさんとフェーナさんですか? ええっと……レオさんがフェーナさんにすごく怒られてる感じだったけど、仲は良いのかなって思いました」


「フェーナさんは……レオギスさんの、お目付役……って感じが、強いです……」


 女船員の投げ掛けた質問にマルスとパルはそう答える。

 アイクも二人と同じように思った事を、彼女の方を向きながら頷いて伝えていた。

 三人の反応に女船員は納得と残念さが入り混じった表情を浮かべる。


「やーっぱそんな感じだよねぇ。仲は悪くなさそう、お目付役……うん、分かる分かる」


 表情同様に納得と残念さが混じった口調で彼女は呟く。

 男船員二人も彼女と同じ表情を浮かべながら、小さな笑い声をこぼしていた。


「船長と姐さんはね、ああ見えても恋仲なんだよ」


「お互いの髪色のスカーフ付けてんのがその証拠だな」


 女船員が告げたレオギスとフェーナの関係に、三人は思わず驚いた声を漏らす。

 頼り甲斐はあるものの少々サボり癖があり、いつでも飄々としているレオギスと、真面目で厳しい性格のフェーナ。

 仕事の相棒としては、互いの欠点を補い合える良い関係だとマルス達は思っていた。


 だが、仕事を抜きにしたら性格的な相性はあまり良くないのではとも思っていたために、二人が恋仲だという事実が非常に意外であった。

 とはいえ、フェーナがあまり彼女の服装や印象に似合わない色のスカーフを頭に巻いていたのも、恋人であるレオギスの髪色を表している物であるのならば合点がいった。


「まあ、いっつもあんな感じだから、全然恋仲になんて見えないんだよねー。折角付き合っているんだから、お互いもっと素直になれば良いのに」


「姐さんはあの性格だし、船長は変なとこで素直じゃねぇからなぁ」


 女船員の話を補足するように、男船員の一人が言葉を続けた。

 確かにフェーナは自分から好意を素直に表現する方ではないのだろう。

 それは初対面の三人にもすぐに分かった。


 意外だったのは、レオギスだ。

 裏表のないさっぱりとした性格の彼ならば、恋人には呼吸するかのように自身の好意を伝えていそうだと三人は思った。だが、船員の話ではどうもそうではないらしい。

 恋愛感情における好意とは、それ以外における好意とはまた違うのだろうか。

 何となくマルスはそう思った。

 予想外の二人の関係と様子を知ったマルスの中に、二人の馴れ初めへの興味が湧いてくる。


「二人はどうやって付き合い――っ、うわぁぁ!?」


 マルスが質問を口にしたその時、不意に船が大きく揺れた。

 質問の言葉は途切れ、代わりに悲鳴が彼の口からこぼれる。同時に彼はよろけて足がもつれ、床に尻餅をついてしまった。


「大丈夫か?」


「は、はい、何とか。一体何が……」


 男船員の一人がすぐに手を差し伸べて、立ち上がるのを手助けする。その手を借りながら立ち上がり、マルスは辺りを見回した。

 天井にぶら下がる照明が振り子のように弧を描いて揺れ、並べた椅子やテーブルは元いた位置からずれており、中には倒れてしまった椅子もある。

 船員三人も、アイクもパルも、警戒した表情を浮かべていた。


 そして、警鐘が船内に鳴り響く。

 同時に船内を慌ただしく駆けて行く足音がいくつも聞こえてきた。

 何か緊急事態が発生した事は明白だ。


「非常事態! リヴァイアサンが出やがった! 第一から第四部隊は今すぐ甲板に! 第五部隊は乗客の避難にあたってくれ!」


 声を拡散させる魔法道具によって、船内にレオギスと思しき男の声が響く。

 それを聞いた瞬間、三人の船員は掃除道具を投げ捨て、部屋の出入り口へと向かって行く。


「私達、第三部隊だから行くね! 君達は階段で下の階に向かって。避難誘導の船員がいるはずだから、その指示に従って!」


 女船員は口早にそう言うと、男船員二人と共に部屋から飛び出して行った。

 三人だけが残された部屋に、警鐘の音が鳴り響く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。