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運命の混紡者  作者: Ridge
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東部編9-4

 レオンは人の気配を感じて牢屋に近づく.横の壁に開けて中を見るとナレルが座り込んでいた.

「ナレル!無事だったか!」

 レオンは壁の穴から部屋に入り,ナレルに手を差し伸べる.ナレルは目を逸らしている.

「どうした?」

「レオン,君はどうして僕たちの味方をするんだ?」

「ん?」

「神人がどうして人間の味方をするんだ,何が目的なんだ?」

「神人…ああ,奴らは俺たちをそう呼ぶ.俺はその傲慢な名は嫌いだ」

「そんなこと聞いてない!」

「何を吹き込まれたかは知らないが,今もこれからも君の味方だ」

「君自身のことじゃない…君の種族のことだ」

「始めに言っておくが,人間が全員同じ意志ではないように,俺たちも皆が同じ意志を持っているわけではない.俺の所属する組織…俺たちの目的はこの世界と魔界を勝手に繋げないようにすること.それぞれの世界に環境に適応した思想や文化,生活がある.それを一色に染めようとしているのが魔族だ.それではどこかで環境が激変したときに対策可能な知恵のプールが存在しなくなる.それは避けねばならない」

「なぜ話し合いで解決しない?」

「もうそんな段階は過ぎたんだよ」

「……」

「…絶対に喋るなよ,俺の故郷は奴らの技術で閉じ込められた.俺を含む数人を外へ送り出すので精いっぱいだ.対話なんて無理.これは口外厳禁だぞ」

「君は泥船に乗っているのか?」

「いいや,俺が希望という名の鋼鉄船なのだ.俺は乗る側じゃない」

「はは,君らしい物言いだな」

 ナレルはレオンの手を掴んで引き上げられる.

「魔族はもう自分たちでは止まれないのだ.拡大しつづけなければ彼らの文明が作り出したシステムはもたない.そこで2つの目的を持ってこの世界へとやってきた.1つは拡大を続けるため,もう1つは棄民.賄えない分を捨てたのだ」

「…君は魔族の驚異に対抗するために人間の味方に?あいつらも似たようなことを言っていたよ.神人に対抗するために人間を教化すると」

「俺たちは危害を与える気はない.俺たちが整備した道を何の代償も払わずに通り,劣化させる者を罰する.俺の故郷を守る.その目的において人間に危害を加えることはない.難しい話はここまでだ.シンプルに行こう.もし君らに危害を加えるようなことがあれば俺が止める.俺にはできる.それだけの力を持っている」

「疑って悪かった.君は理屈抜きに信頼できる人だ」

「そうか.…早速で悪いがナレル,頼みたいことがある」

「何だ?」

「中層に連れてこられた人々がいる.彼らの中でも対立していたようだ.魔族から与えられた権力を笠に着て横暴を働いていた者たちがいるようだ.俺がアイロコを倒せば彼らは,怖い者がなくなり暴走しかねない.そうならないように諫めて来てくれないか?」

「難しそうなことを….いいよ,僕が引き受けた.君は君の戦いに専念してくれ」

「任せた.部屋に入ったらしばらくの間扉は閉じておくんだ.巻き添えをくらわないために.と,その前に…ここを突破する.俺の後ろについてこい!」

 レオンは光線を放って回り込んだ魔族たちを消滅させる.正面を走り抜けていく.

「爆弾か,放物線を描く攻撃なら直線の光線を防ぎつつ攻撃できる.対策されているが大丈夫か?」

「黙って走れ.回り込めば攻撃できる」

「後ろを向くなよ,失明したくなければ」

 レオンは後ろを向いて立ち止まり,上の階の廊下と柱を焼き切る.崩れた廊下が後ろを足止めする.

「そのまま走れ,対岸の3階上に見えるドアの壊れたあの部屋だ」

「あれか!」

「ここで別れよう.そっちは任せるぞ」

「任せろ!」

 レオンとナレルは二手に分かれて登っていった.

 ナレルに近づく魔族を光線で処理しつつレオンは上に向かった.

「部屋に入ったか.奥の手だ,受けてみろ!」

 レオンは透明になり,ポケットからプリズムを取り出して吹き抜けに投げる.落下するプリズム目がけて光線を放つ.あらゆる方向に光が放たれ,魔族たちを霧に変えていった.

 そのまま上の階へ向かっていく.

 進路上に生き残りが呆然と立っており,レオンに気づく.

「オッ,かりうヴォオオオオオオ!」

 レオンの光線を受けて霧となって消滅.

「ヒッ,く,来るなああああああ!」

 為す術なく消滅していく.

 指令室内部.アイロコは両腕に鉤爪をつけ,扉の横に構えようとする部下たちを無言で制止して離れさせる.手には小型の矢を持つ.

 指令室の扉を蹴破るレオン.矢を投げるアイロコ.レオンは矢を右手で掴みへし折る.

「必ずや打ち倒す.この追放の光,狩人レオンが!」

「お前の手番は終わりだ.次は逃さない,この世界をあるべき姿へ導く!」

 レオンは光線を放つ.アイロコは光線を避けてレオンに走り寄る.左回転して鉤爪の攻撃をかわし勢いに乗せて剣を振る.鉤爪で防がれる,反動を受けて両手を地面につけ,相手を蹴って後ろへと跳ぶ

 レオンは刀身を消して柄を下に向ける.

「どうした?観念したか?」

「バッテリー切れだと?馬鹿な!?昨日は日の光に当てておいたのに…」

「見え透いた嘘だ.滑稽だな」

 アイロコはレオンに殴りかかる.レオンは刀身を出して突きを受けて突き放し,剣を振り上げる.素早く剣を返しつつ,全身して振り下ろす.鉤爪で剣を受け,レオンの牽制用の軽い剣に対しては強く押し,重い剣については後ろへ後退し,空振りさせる.空振りする途中で刀身が消え,光線が放たれる.アイロコの体にわずかな時間照射された.

「馬鹿なっ…」

 アイロコはよろめいて崩れる.レオンはとどめを刺そうと構えるが,背後からの攻撃を避けるために引き離される.

 アイロコの持つ力は人から発せられる予兆を読み取り先読みする能力.光線を避けるには光速が必要だが,射線上に立たないように避けるにはそれほどの速さは必要ない.危機察知が極まり肌で受けても大したことにならないダメージも避けてしまう癖が生じる.レオンは先読みされる前からあらかじめ時限式で光線が照射されるように仕掛け,剣先が相手に向けるように相手がかわすであろう大振りを多めにしていた.照射量が少なく相手を消滅させることはできなかった.

「アイロコ様,しっかり!一先ず離脱して回復を…」

 側近たちがアイロコとレオンの間に入り,レオンは攻撃を避けながら側近たちに光線を浴びせる.アイロコは側近たちに肩を支えられ脱出用のポットに足をかける.

 レオンは連戦の疲れで体の動きが鈍くなりつつ攻撃を避けて机の影に隠れる.体のキレが落ち,外に出るのが危険だと感じ取っていた.

「くそっ…逃げやがってこの臆病者め….まあ魔王が幹部にしか力を与えない小心者だ,部下も同様か…」

「アイロコ様,立ち止まらないでください!」

「?」

「お前,今なんと言った?」

「アイロコ様!」

「何だ?」

「魔王様を馬鹿にする奴は死ねえ!」

 アイロコは制止を振り切ってレオンの隠れる机を蹴り飛ばす.レオンは目の前に現れた敵に光線を放つ.アイロコは体が徐々に霧となって消えていく.

「ああ,アイロコ様が!もうだめだ助からない,逃げろ!」

 残党は脱出ポットに乗って飛んで行った.


 アイロコの消えゆく意識の中,囚われのジンジャと目が合う.レオンはジンジャの首輪の鎖を切り,目をつむって壁にもたれた.

「ジンジャ…」

「私は目をつむれば,炎に照らされたあなたの横がを思い出せる.それほどまでに,あの光景はよく覚えている」

「……」

「それは憎いからだとずっと思っていた.憎いのは事実,でも今気づいた.憎いだけではなかったみたい…」

「…私もだ.…生まれ変わっても会うことのない,交わることのない世界.それでいいんだ,これっきりだ」

「……」

 ジンジャが手を伸ばす.アイロコは霧となり,ジンジャの手は空振りした.

「ごめんなさい.私は弟たちの期待を裏切ってしまった…」

「なぜ謝っている?誰も見ていないから分からないや」

「…!」

 レオンは目を開けて壁にもたれつつ立ち上がる.

「君が奴に屈することは無かった.弟たちは俺が来るまで守れた.だから君は何も裏切るようなことはしていないんだ.感情という心の上澄みにおいて,裏切るという意志は浮上しなかった,それで十分」

「どうして…どうして私を助けようとするのですか?」

「人助けは当然のことだ.力が無ければ助けたくても助けられない.それで心を痛めないように目をそらす,仕方のないことだと考える,だから忘れてしまう.本当は当然のことなんだよ.…答えになったかな?」

「ありがとう…気持ちはわかりました」

「まだ残党がいるかもしれない.下の階の人々と合流して外に出る」

「私,きれいですか…?」

「……」

「皆苦しんでいたのに,私だけこんな姿じゃ皆の怒りを買ってしまいます.会うのが怖い…」

 レオンはジンジャの手を引いて走り出す.ジンジャはつられて走る.

「ちょ,ちょっと…」

「考えるなんて面倒だ.俺の好きにさせてもらうぞ.お前にも,そしてあいつらにも文句は言わせない」

 2人は階段を下り,廊下を走り,中層へと走っていく.

「それにな,お前の弟たちだって早くお前に会いたいんだ2vs1だ.多数決でお前の負け」

「そんな,ずるいです!」

「んー聞こえなーい」

「もう!」

 中層に着き,レオンはナレルと再開する.

「勝ったのかレオン?」

「当然.そっちは?」

「何とか抑えたよ.大変だったんだ」

「お姉ちゃん!」

 男の子2人がジンジャの元へと走り寄る.ジンジャは2人を抱きしめて泣き崩れる.

「さあ帰るぞ皆!この忌まわしき城とはおさらばだ!」

 レオンとナレルは拳を天に掲げる.その強い声から人々は状況の大きな変化を感じ取り,停滞した心を高揚させた.

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