勘違いの末
あの後三人は病室へ戻ってきた。
蒼空をベッドへ横にし、渚が寝かしつけている。
蒼空が目を閉じて眠っている蒼空を見ながら渚は口にする。
「蒼空くん……こんな怪我までして…。ねぇ?響?蒼空くんは怪我したとき泣いたり叫んだりしたの?」
「…いや、全く。涙は浮かべていたけど泣きはしなかった。……泣き声もあげずに痛みに耐えているようだった…」
「………そう。……ねぇ?やっぱり蒼空くんは……」
「わかってる。……わかってるよ渚。口にしなくていいよ。…もう、間違いないと思う。」
声を上げなかった。
二人は先生が言っていたことを思い出していた。
蒼空は障害がある。
これで、蒼空の精神年齢が年相応というのも無くなった。
「そんな…せっかく、せっかく目が覚めたのにこんなのって……っ」
渚の声は震えていた。
そんな渚に響は声をかける。
「いや、むしろこれだけで済んでよかったんだよ…もしあのまま一生目が覚めなかったらと思うと耐えられない。それに比べれば…」
そう、あの日々に比べたら今は幸せ過ぎる。蒼空が目を開け、身体を動かし、食事までできる。
蒼空が眠っていた8年間に比べたらこんなこと…そう響は渚に言うのと同時に自分にも言い聞かせていたのだ。
「……ええ、そうね。目覚めてくれただけでも奇跡だったんだもの。落ち込むなんてだめよね。」
響の言葉を聞いて渚は涙を止める。
蒼空が眠ってしまった頃に比べ渚は精神的に強くなっていた。
娘の蒼海という存在。そして、守るべき息子の蒼空が生きている。その事が渚を強くしていた。
「そうだよ。だから俺達だけは元気でいよう。そして蒼空くんを支えていくんだ。」
響はそう言うと自分の考えていたことを口に出す。
「………蒼空くんのリハビリをやめさせようと思うんだ。」
その言葉に渚は一瞬戸惑うも、覚悟を決め言葉を返す。
「っ………ええ、そのほうが、良いかもしれないわね…。」
渚もどこかで響と同じことを考えていたのかもしれない。
蒼海と一緒にリハビリする蒼空を応援していた渚。応援すればするほど思うところもあったのだ。
「もう、蒼空くんが無理をして怪我をするなんて駄目だ。毎日毎日必死な顔をしてリハビリなんてする必要はもうない。蒼空くんは、もう十分頑張った。……目覚めてくれただけで一生分頑張ってくれたんだよ。……例え足が動かなくたって俺や渚が支え続けていく。たとえ渚が嫌になっても俺一人でやってみせる。」
「そうね…。私ももう蒼空くんの苦しそうな顔をさせたくない。させちゃいけないと思う。それにね響。私は嫌になったりなんか絶対にない。……蒼空くんは私達の息子なのよ。二人で、支え続けていきましょう。」
二人はお互いの目を見ながらそう決心した。
二人はすぐに先生へ伝えに行った。
怪我をしたことを既に聞いていた先生は蒼空の障害を確信していた。
リハビリを中止することを伝えると先生はすぐに理解してくれた。
トレーナーの彼女には自分のせいだと誤解しないように後日直接伝えに行く事にした。
翌日、響はいつも通りにお見舞いに来ていた。
包帯をしている蒼空はベッドの上で上半身を起こ窓の外を見つめていた。
「おはよう蒼空くん。今日からは疲れることしなくてよくなったからね?ゆっくりしてていいよ。」
響がそう蒼空に言葉をかけると蒼空は一瞬ビクッと反応したが、すぐに下をむいてしまった。
「…それじゃ、掃除しちゃうね?」
そう言って響はいつものように掃除を始めた。花瓶の水を取替え、窓ガラスを拭いてホコリを取る。
棚に洗濯してきた蒼空の換えの服を閉まっていく。
あらかた掃除が終わった響はテレビをつけて児童向けの番組を写す。
「蒼空くん?わかるかなー?これはね、お人形劇って言って――」
番組の内容をテレビを見ながら説明していく。恐らく蒼空は理解出来ていないだろうが響はやめることなく続けてきていた。
赤ちゃんの時はこうやってテレビを見ながら説明して、それを蒼空は赤ちゃんとは思えない真剣な表情で見つめていた。それを響は思い出しながら。
説明していると、ガタッと音がした。
振り返ると蒼空がベッドの柵に手をかけながら立ち上がろうとしていた。
響は驚きながら蒼空に声をかける。
「っ!蒼空くんっ!なにしてるんだっ!」
そう言いながら蒼空に近づいて手に触れる。
「蒼空くん!…もう歩く練習しなくていいんだよ?…歩けなくても車椅子がある。父さんや母さんがちゃんと面倒みてあげるから…」
そう言って蒼空の手を柵から離そうとした時、蒼空の手が響を振り払った。
今までそんな事をしなかった蒼空に響は何も言えず困惑していると、蒼空はすぐにまた柵に手をかけ立ち上がろうとしていた。
響はそれを見て止めなければと声を荒らげる。
「…っ!蒼空!いい加減にしなさいっ!」
初めてだった。蒼空に対して怒鳴ってしまったのは。
怒鳴ってすぐに響はやってしまったと思いつつも蒼空に話しかける。
「もういいんだ!…こんな辛いこと、しなくていいんだ…」
次第に響はその表情に悲しみを浮かばせながら話しかけていく。
「…もう、頑張らなくていいんだよ……お願いだから、これ以上辛い目に合わないでくれ…楽をしていいんだ。甘えたっていいんだ。俺は、蒼空が生きていてくれればそれで…っ」
伝わらないとわかっていながらも響はそう口にしていた。
蒼空への願い。
父親としてできる精一杯をさせてくれと。
響は蒼空の腕を掴みながらそう悲願していると、その手にふわりと何かが重ねられた。
響は自分の手を見ると、そこには蒼空の手が置かれていた。
そして……
「……………お……とう…さん…」
声がした。
蒼空が口を開け、言葉を声に出していた。
「っ?!蒼空?!」
響は驚きながら蒼空の名を呼ぶ。
「おとう…さん…ぼく、あるけるよう……になりたい…」
「蒼空っ?!お前、話せて…っ!」
頭が追いつかない。
何故、蒼空は話せる?障害は?
そう考えがぐるぐるとよぎり、ありのままを口に出すしかなかった。
「おとうさん…僕.あるけるよう…になって…とうさんたちを…あんしんさせ…たい」
蒼空の声は次第に大きくなっていく
「蒼空…」
響は蒼空の言葉を受け止め始めていた。
歩きたい。そして、安心させてあげたいと蒼空は自分に向かってたどたどしい言葉で伝えてきていた。
「とうさんたち…といっしょに、あるけるように…なりたい!」
そして蒼空は振り絞るように、そう響に叫んだ後、また弱い声で響に聞く。
「とうさんは…ぼくとあるきたく…ない?」
蒼空がそう口にして響はすぐにそれに答える。
「そんな…そんなことあるもんかっ!一緒にっ!歩きたいってずっと…っ!」
響の夢だったこと。
家族みんなでピクニックに行く。
蒼空が眠ってしまってから響はそんな夢を見ながら今まで頑張り続けてきた。
ほんの気まぐれで眠る前の蒼空に言っていた事。すぐに叶えられると思っていた小さな事。
そんな事を響は今まで夢にしていた。
しかし、響自身は諦めていたのだ。そんな小さな夢ですら叶わないのだと思っていた。
蒼空は歩けるようにはならないと決めつけていた。
自分自身もそうなるように選択してしまった。
蒼空が歩きたいと真剣にリハビリをしていたのを響は障害だと思い、決断し、蒼空の気持ちとは関係なく閉ざそうとしていた。
その事に響は蒼空自身に言われ気がつく。
「うん…ぼくも…あるきたい、から…リハビリ…させて、ください…」
蒼空は頭を小さく下げてお願いをしてきた。
こんなにも弱々しい身体で…
まだはっきりとも喋れていないのに、歩きたいと願っている。
そんな蒼空を見て響は感情を抑えきれなかった。
顔は既に涙でぐちゃぐちゃになっている。
「ごめんっ!蒼空くんごめんな…っ!父さん、お前を信じてあげられてなかった…!無理だって、諦めてたっ!ごめん!ごめんな……」
響は蒼空に謝っていた。
何故素直に蒼空の行動を応援してあげられなかったのか。
蒼空が自分でリハビリをやめたいと一度でも言ったか?
一度でもリハビリが辛いと投げ出したことがあったのか?
そんな事一度もない。ただ自分達が蒼空を勘違いしていたに過ぎなかった。
「一緒に、リハビリ頑張ろうっ…また、一緒に頑張って!家族四人で並んで歩こうっ!」
響はそう蒼空に言いながら強く抱きしめていた。
なんかこれおかしくね?とか
これは流石にないだろ。とか
ここ脱字してんだけど…ってのありましたら教えてください!
よろしくお願いします!




