判別方法は
後日また響達は医務室に呼ばれていた。
「先日お話した事で伝えておきたい事がありまして…」
先生はそういうと話始めた。
「蒼空くんはこれからどんどん身体を動かせるようになっていきます。そうなると自然と障害となっている部分が露呈してくると思われます。例えばどんなにリハビリを長く繰り返しても動くようにならなかったり、本人がそれに困惑して暴れてしまったりする可能性もあります。」
動かしたいのに動かせない。そのことを受け入れられずヒステリックを起こすことだ。
「……しかし、もう一つの可能性として蒼空くんが年相応の精神年齢だった場合も露呈してくる場合があります。」
先日先生が話した可能性。それも確かめる機会が訪れるというのだ。
「蒼空くんが年相応の精神年齢だった場合、リハビリをこのまま続けてはいけないでしょう。」
「えっと…どういうことですか?」
「蒼空くんがもし8歳から9歳の精神年齢だったとします。そうなりますと、これから彼が行うリハビリは中々耐えられるものではないんです。……順調にいけばもうすぐで立ち上がり歩行するリハビリにはいるでしょう。そのリハビリは想像以上に根気が必要になります。そして辛い。…交通事故でリハビリを余儀なくされた大人でさえリハビリが耐えきれず諦めてしまう人も多いです。そんなリハビリを今のペースのまま続けていくのは蒼空くんには無理なんです。」
先生は可能性としてですがと挟みつつ話を続ける。
「ゆっくりと、かなりのスローペースでなら誰でもリハビリには耐えられます。しかし、今現在の蒼空くんのペースはとても早い。我々の予想では上半身を使える様になるまで1年と見積もっていましたが、蒼空くんはかなり早く動かせるようになりました。…恐らく蒼空くんは同じようにリハビリをしようと考えているかもしれません。」
蒼空に知能がしっかりとあった場合、8歳の彼はペースなど気にせずリハビリに励むだろう。そして、挫折する。そう先生は言っていた。
「もしこのままのペースで蒼空くんがリハビリを続けられた場合、それはもう脳に異常があると考えた方が得策です。…リハビリの辛さを頭で理解できない…といったようにです。」
つまりは知的障害の可能性。身体が悲鳴をあげても脳がそれを認知出来ずに身体を動かし続けるということ。
「あとこれは中々機会がないかもしれませんが、もう一つ単純な判別方法があります。」
「単純なことですか?」
「はい。それはびっくりした時や突然の事で驚いた時に声を上げるかどうかです。まぁ説明しなくてもある程度はわかると思いますが、蒼空くんが例え話すのを我慢していたとしてもとっさのことに声を上げてしまうかもしれないというとです。…まぁあくまで話すのを我慢していて、それ相応の精神年齢だった場合です。頭の片隅にでも置いておいていただければ。」
こうして話は終わり、またリハビリの日々が始まる。
蒼空のリハビリは変わらないペースで進んでいた。
食事が取れるようになった事と、徐々に身体を動かせるようになっていた為筋力もついてきていた。
腕の力だけで起き上がれるようになり、下半身のリハビリも始まっていた。
トレーナーに付き添われながらリハビリする蒼空を響は複雑な表情で見つめていた。
今蒼空は立ち上がるリハビリを行っている。額に汗を浮かばせ、顔は苦痛に歪みつつもまっすぐと前を見てリハビリに専念している。
何故、そんなにも真剣に取り組んでいるのか響にはわからなかった。
障害があるかもしれない蒼空。そんな蒼空がなぜあんなにも真剣に取り組めるのか。
先生は障害があるからこそ続けられると言っていた。
しかし蒼空の表情にはとても障害を抱えているようには思えなかった。
仮に蒼空に障害もなく、年相応の精神年齢でリハビリに耐えていたのだとしたらそれは自分の知っている蒼空なのか?
もし、年相応だとしたらいつの間に成長していたんだ。
どうして俺達に何も教えてくれないんだ。
話してくれとは言わない。せめて泣いたり笑ったりはしてほしい。
蒼空が目覚めてから俺たちに見せた表情の殆どは苦しそうなものだった。
子供らしい顔はまだ見ていない。
見せたくないのだろうか…
もしかしたら、蒼空は俺達を恨んでいるのかもしれない。
目が覚めたら何もできない身体になっていて、どうしてこんな体にしたんだって。
なぜ自分ばかりこんな目に合わなくちゃいけないんだと。
そんなことばかりを考えてしまう。
蒼空がリハビリで苦しそうな顔をする度にどうして俺は蒼空にそんな顔ばかりさせてしまうのか…
蒼空がリハビリに専念すればするほど響は自責の念に囚われていった。
それから数日後、その日もまた蒼空はリハビリに専念していた。
何度も何度も立ち上がっては歩こうとしては座りを繰り返していた。
トレーナーと響はそんな蒼空の両側から見守っていた。
ふと響は思った。今日はいつも以上に長くリハビリをしていると。
いつもは蒼空が座り込んだ時点で辞めるのだが今日は中々座り込まなかったのだ。
響はそろそろ止めさせないとと思っていた。さすがに無理をしすぎだと。
そんな事を思った時だった。
目の前で立ち上がった蒼空がバランスを崩した。
響はとっさに支えようとしたがポールと車椅子に挟まれている蒼空には手が届かなかった。
ガシャンという音と共に蒼空が倒れる。
蒼空が倒れた方向は運悪く後ろ側で、車椅子の金具部分に頭をぶつけていた。
響はすぐさま駆け寄り蒼空を抱き抱える。その手には真っ赤な血がついていた。
「蒼空っ!蒼空!!」
響は名前を叫ぶ。蒼空は顔を痛みに歪ませている。
早く治療を…。
響は蒼空を抱き抱え立ち上がると響はすぐに治療室へと運んだ。
蒼空は治療室で手当が行われていた。
幸いすぐに外科の医師が駆けつけ蒼空を見てくれた。
医師には手当が始まる前すでに大事には至らないだろうと伝えられていたが響はそれでも落ち着けなかった。
治療室の前で待っているとトレーナーがやってきた。
「申し訳ありませんでしたっ!私がついていながらこんな事故を起こしてしまい申し訳ありませんっ」
そう言うとトレーナーは膝をついて謝ってきた。
響はそんなトレーナーに怒りを抱いてはいなかった。
その代わりに思っていたのは、自分こそ何をしていたんだという自責。
目の前の人は今自分のせいで助けられなかったと謝罪している。
しかし、助けなければならなかったのは俺だ。俺は蒼空の父なのに目の前で事故を防ぐことすらできなかった。
あの日、何に変えても蒼空を守ると自分に誓ったのに。
「……頭をあげてください。俺も目の前にいたんです。助けられなかったのは、お互い様なんですから…」
お互い様というのは響がトレーナーに気を使って言った言葉だった。
その本心はあくまで自分を責めるもの。トレーナーのせいでなど微塵も考えていなかった。
「で、ですが、私のせいでお子さんは…」
トレーナーはそれでも頭を下げ続けていた。
「…お願いです、顔をあげてください。息子もそんな事されたくないと思っている筈ですから。」
「……………申し訳ありませんっ」
トレーナーはそう言うと立ち上がりまた頭を下げた。
無言のまま待つ二人。
するとそこにパタパタと走ってくる音がした。
「っ!響っ!蒼空くんが怪我したってほんとうなの?!」
渚だった。蒼空が治療室に入ったあと病院が連絡してくれたのだろう。
「……本当だよ。蒼空くんは――」
そう言いかけたとき、治療室の扉が開き車椅子に乗った蒼空と外科の医師が出てきた。
蒼空にかけより言葉をかける渚と頭に包帯を巻かれている蒼空を響はどこか遠い目で見ていた。
響は考えていた。このままリハビリを続けさせてもいいのかと。
障害だからと容認していいのか?
やれるのだからやれと、そんな事でいいのか?
いや、ダメなんだ。蒼空にはもう何一つ辛いことなんてさせちゃいけない。
歩けなくたって、障害があったって幸せに暮らしている人はいるんだ。
蒼空は、俺達が幸せにしてあげなきゃいけないんだ――――
ギリギリ投稿
何とか今日中間に合った……
そしてほんとに書き溜めしないとやばい気がしてきた




