我慢してる?
蒼空の指が反応してから2ヶ月ほどが経った頃、響達は医務室へと来ていた。
2ヶ月の間に蒼空は手を握れるようにまでなって回復は順調に思えていた時に先生に呼ばれた。
「蒼空くんの流動食を始めようと思います。」
先生は響達に向かってそう告げた。
「流動食ってことは…蒼空くんは食事ができるようになったってコトですか?!」
響は驚きながらそう聞いた。
驚いたのには2つ理由がある。一つはそんなにも回復してくれていたのかという驚き。
そしてもう一つは、口を全く開かない蒼空に食事が出来るのかという驚きだった。
2ヶ月経った今でも蒼空はまだ口を開けていない。
それなのに先生は食事を開始すると…
「はい、そうです。……できるようになったというよりは、出来ていた。になります」
「えっと…どういうことなんです?」
渚がよくわからないと聞く。
「はい。蒼空くんが声を出したと聞いた後に私達は何度か蒼空くんの検査を行いました。喉の状態はもちろん、食道から胃にかけてもです。」
「はい……それは私達も知ってますけど…」
「およそ3度目くらいになりますか。その頃には流動食なら食べられるほどにまで回復していました。しかし…」
先生は濁しつつも口にした。
「何と言いますか…確認のために蒼空くんが起きている時に水を飲んで貰おうとしたんです。しかし、蒼空くんは口を開けてはくれませんでした。」
それを聞いて響はよくわからなくなる。
「えっと…それは、口が開けられなかっただけじゃないんですか?」
「いえ、そんなはずはないんです。開けられないのであれば何かしらの原因が検査ではっきりと出るはずですし、なにより口を開けているのは私達だけではなく御家族の方もごらんになってますよね?
」
そう言われて渚はハッとする。
「たしかに…私と蒼海ちゃんは見てます…」
そう。渚は蒼空が口を開けて声を出したのを自分で見ている。
「それじゃあ…単に飲みたくなかったとか…?」
「はい。私達もそう思い様子を伺うことにしたんです。申し訳ありません。事後報告になってしまい…」
先生はそう言うと頭を下げる。
「いえ…話してくれたってことは、蒼空は水を飲んでくれたということですか?」
「いえ……飲んではくれていないんですが…その…」
「?どうしたんですか?」
「…おそらくなんですが、蒼空くんは我慢しているのではないかと…」
「「我慢?」」
渚と響は声を合わせて先生に聞く。
「はい。私達は何度も蒼空くんに水を飲んでもらおうとしました。はじめの頃は見向きもしてくれなかったのですが…最近になって、口を開けてはくれないのですが水を離そうとすると名残惜しそうにといいますか、はい」
先生は説明しづらそうに話していく。
「根拠は全くありません。私達がそう感じたというまでの話なんです。しかし…我々の目には我慢しているようにしか思えないんです。」
「あの…我慢してるとしたらどうしてなんでしょうか?」
渚は疑問を問う。
「我々にもさっぱり…口を開ける事が嫌なのか…」
「あと、我慢していたとして…我慢できるようなことなんですか?水を飲むのを我慢するって、私達のような大人でもかなり辛いですよね?」
「はい。当然ながら我慢できるようなものではありません。通常であれば2日と持たないでしょう。蒼空くんは点滴で水分や栄養を補給していると言っても、意識が目覚めているのですから当然喉の渇きは感じている筈です。もっと言うなら、蒼空くんの精神は乳幼児です。乳幼児ならば我慢するなんてできないんです。」
先生は困りながら話し続ける。
「我慢できないはずなのに我慢しているように見えると、なんとも矛盾したことを言っているのは我々も理解しています。しかし、それ以外には考えられなくて…」
物事には何かしらの原因が存在する。それはどんな事象にも言えることで当然蒼空にも当てはまる。
しかし、先生はそれが全くわからなかったのだ。何故、どうしてこの患者はと。
悩み続けた結果、結局確証は得られず自らの感性に委ねるしかなかった。
苦しそうな顔をして説明している先生に響達は声をかける。
「先生。先生がそう判断してくださったのなら私達はそれを信じます。私達は先生とは違って素人ですから、自信をもってください。」
「申し訳ありません…ありがとうございます。」
「それで、我慢している蒼空くんに食べさせることってできるんですか?」
渚は不思議に思いそう聞く。
「いえ、本人が口を開けてくれるまではできません…しかし、恐らく蒼空くんはもうそろそろ限界な筈です。」
「エッと…?」
「はい。蒼空くんは今手だけならある程度動かせるようになっています。筋肉も少しづつ付いてきていてとても順調と言えます。」
それは渚達も実感していた。毎日少しづつ出来ることが増えてきている。
「身体を少しでも動かしていますから、当然エネルギーを眠っていた時より使っています。人はエネルギーを消費すると、エネルギーを補給しようと頭が働いて空腹を感じます。」
人は運動したあとお腹が減る。運動していなくても普通に生活をしていればお腹が減るのは当然。それは蒼空にも同様のはず。
「蒼空くんは間違いなく空腹状態なはずなんです。もちろん胃が何年間も働いていなかったのですこら我々と同じような空腹感ではないものの、確実に空腹を感じます。おそらく、それが原因で最近になって水を飲みたくなっているのではないかと。」
ここまで説明されて渚達ははっきりと理解できた。
「我々が強引に口を開けさせて食べさせる事は可能ですが、それは……」
「はい。それは、私達がしなきゃいけないことです。」
響がそう答える。
蒼空が何を嫌がって我慢しているのかわからないが、強引に食べさせようとするのならそれは親がしなければいけないと。親としての責任の1つだと考えた。
「ありがとうございます。それで、御家族には今日の夕食からお願いしたいと思っています。…そして…」
看護師の人が奥からお皿を持ってきた。
「これが、蒼空くんに食べてもらう予定の流動食となります。」
お皿に乗ったそれはお粥よりももっとしゃばしゃばとしたものだった。
「今日はまず水を飲んでもらうことから始めて、もし飲んでくれるのであれば一週間ほど慣らしてからこの流動食を始めようと思います。」
わかりましたと響達のは答える。
話が終わり、病室に戻る響達。
いつものようにマッサージをし、身体をタオルで拭いたあと渚が水を持って蒼空の元にきた。
「……ね?蒼空くん。……お水…飲まないかな?」
そう言って水の入ったひよこを口元に近づけるが、蒼空は口を閉じたまま。
「蒼空くん…なんで我慢してるの?……なにか、飲みたくない理由があるの?」
言葉がわからないであろう蒼空に渚は優しく問い続ける。
「蒼空くん…我慢しなくていいんだよ?…蒼空くんは、もういっぱい頑張ったんだから、我慢なんかしなくていいんだよ…っ」
声が震え始める。
飲んでくれない事へのショック。
そして、なぜ我慢しているのかわからない。愛する息子が何を思って我慢しているのか理解できていない自分が悔しくて。
「渚…」
響はそれを見てそっと渚の肩を抱く。
「今日は、きっと気分じゃなかっただけだよ…また明日、飲んでもらおう?」
「……えぇ…」
そう言って渚がひよこを離そうとした時だった。蒼空が口を開けてひよこの先をくわえたのだ。
「えっ?!」
渚は驚く。蒼空はそんな渚にチラッと視線を移したあと、一口ごくっと水を喉に通した。
こんな描写あったっけ?ってなるかも。
蒼空が空腹と戦った結果、口を開けることを選ぶ事になってたと思います。
それはどうしてそうなったのかって話ですね。
判断を後押ししたのは母の涙でした。
そして!昨日のPVが5000超えてました……(゜O゜)
とても嬉しいですがやっぱり原因がわからない……
読んでくれた人は検査の結果してきてくれてるの?
それともどっかで拡散されてたの?!
ちょろっと作者に教えてくれたりしたら嬉しいですはい。




