風にのせて
しばらくの間僕は父さんに抱きしめられながら泣いていた。
ある程度涙も落ち着いてきた頃父さんが僕に話しかけてきた。
「……蒼空くんは、いつから話せるようになったんだい?」
「…えっと…すこしまえ…かな…」
僕はたどたどしい口調で話し始めた。本当はもっと前には話せるようにはなっていたしもっとはっきりと話せるけどいきなり過ぎると父さんをもっと困惑させると思ったから。
「そうだったのか…蒼空くんは言葉を理解…できてるんだよな?」
確認するように聞いてくる。
「うん。…テレビとか……父さんたちのはなしを聞いておぼえた。」
なるべく自然に受け入れてもらえるように理由を考えながら話していく。
「えっと、自分が何歳だとか…あと、どうして身体が大きくなってるのかとかは理解できてる?」
「うん。わかるよ…いっぱいいっぱい寝ちゃってたんだよね僕…?」
だんだんと話し方をしっかりとさせていく。
「そっか…。なぁ蒼空くん。ちょっとパパ先生を呼んでくるから待っていてくれるか?」
「うん。待ってる。」
「いい子だ。それじゃあちょっと行ってくるね」
そう言って僕の頭を軽く撫でたあと父さんは先生を呼びに病室を出ていった。
僕は一人で待つ間にこれからのことを考える。
予定とはかなり違ったタイミングで父さんに話しかけてしまった。当然母さんや蒼海ちゃん、先生達にも伝わるだろう。
変に思われないだろうか?まだ目覚めてから1年も経ってないというのに。
……後悔したってしょうがない。もう話してしまったんだから。それに、父さんにわかってもらえたのは素直に嬉しい事だ。
先生達や母さんに聞かれたら父さんに伝えたのと同じように話そう。ありのままを話せるわけないんだから…。
少し待っていると父さんと先生が病室に戻ってきた。
「蒼空くん、ただいま。大丈夫だったかい?」
父さんは僕に話しかけて来たのでそれを返す。
「おかえり…父さん。…大丈夫だったよ。ありがとう」
「ほ、本当に言葉を話せている……そ、それにしっかりと理解をして会話をっ!」
僕が父さんに返事をしたのを聞いて先生が驚いている。父さんの話だけでは信用できていなかったのかもしれない。
「そ、蒼空くんっ!先生のことわかるかな?!」
「は、はい…わかります」
先生は前のめりになって僕に質問をしてくる。
「君は今いくつかな?!」
「…八歳だったと思います…」
「君の名前はわかる?!」
「のがみ、そらです」
「お父さんのお名前は?!」
「…のがみ、ひびきです」
「長い間どうしていたか覚えてる?!」
「えっと、ずっと眠ってたと思います…あと、夢をみてました……」
「っ?!す、すごいほんとに…っ?!」
先生は僕が質問に答えるほど驚き興奮していった。
すると父さんが見かねて止めに入る。
「せ、先生っ!息子が驚いてますから、その…」
「あ、あぁ申し訳ありません…つい熱くなってしまいました。…………たしかに、息子さんは会話できています。言語障害などは見受けられません。」
先生はふぅ。と一息吐いたあと落ち着いた口調で話始めた。
「自己認識もしっかりしていますし、知識障害に見受けられる特有の認識誤差もありません…これはほんとうに……」
先生はそういうと黙って考え始めた。
僕は父さんに手を握られながら黙って待っている。
「…野上さん、少しお話があるのですがよろしいでしょうか?ここでは何ですので私の医務室で…」
「わかりました。蒼空くん?またパパちょっと居なくなるけど一人で平気?」
父さんは優しく問いかける。
「うん、だいじょうぶだよ。いってらっしゃい。」
「ありがとう。それじゃあ先生、いきましょうか」
「はい。ではこちらへ…」
そう言って父さん達は病室から出ていった。
先生かなりビックリしていたなと思う。ある程度予想はしていたがそれ以上の反応だった。
父さんに話があると言っていたがどんな話なのだろうか?
僕の話で間違いないのは確かだが…
そんなこと考えていると病室にノックの音がする。
僕は黙って待っていると扉が開いて人が入ってくる。
扉が空いたことによって病室に風が流れてくる。その風にのって嗅いだ覚えのある匂いがした。
桜の花の匂い。とても桜の季節とは言えない筈なのに、間違いなく桜の花の匂いがした。
そしてその匂いを連れて見覚えのある少女…
以前僕に僕のことを教えてくれた彼女がそこに立っていた。




