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排泄


岡部舞桜ちゃんが病室に来た翌日から僕は話す事ではなく、体を動かす事へ集中し始めた。

起きていられる短い時間の中で必死に身体を動かそうとした。


やり始めて数日はまず手足の感覚を戻るように意識した。

目で自分の指先を見ながら動けと念じながら。


前世で普通に動かせていた分歯痒かった。やり始めた当初はピクリともせず、力が入っているのかどうかも自分ではわからなかった。ほぼ念力をかけているだけの感覚。


数週間が経つ頃ようやく指先に力を入れられるようになった。力を入れられると言ってもほんの少しピクっと動かすのが限界だった。

しかしそれでも母さん達は涙を流しながら喜んでいた。

初めて指先を動かした時なんか母さん達は僕の手を握りながら泣いて喜んでいて、僕が眠ってしまうまで手を離してくれなかったほど。


母さん達は毎日代わる代わるお見舞いに来てくれていて僕のお世話をしてくれている。

お昼前に父さんがやってきて僕に着替えをさせる。

それから夕方まで幼児向けの絵本を読んだり、病室に置いてあるテレビを使って人形劇や昔話のアニメなどを見せてくれていた。


夕方になると母さんが妹の蒼海ちゃんを連れてやってくる。

最近になって蒼海ちゃんの字を知ることができた。僕の名前と同じ文字を使っていたことに驚いた。母さん達とちゃんと会話出来るようになったら名前の由来を聞きたい。


母さん達が来ると父さんは家に帰ってしまう。夕御飯を作るためと言っていた。


母さんと蒼海ちゃんはお見舞いに来ると僕の体を拭いてくれる。まるでガラス細工を扱っているように丁寧に優しく拭いてくれていて、とてもありがたい。


父さんと母さんは昼間と夜に分けて僕の体をマッサージしてくれる。早く身体を動かせるようにマッサージをして血流を良くしてくれる。


そのおかげで僕は1ヶ月たった頃には身体は動かせないものの、表面の感覚は戻っていた。

皮膚の感覚が戻ってからはマッサージやタオルで拭いてくれるのが待ち遠しくなった。マッサージはとても気持ちが良くて、タオルはスッキリする。お風呂にまだ入れない僕にとっては非常に助かるし嬉しい限りだ。



それから3ヶ月ほどが経った。

僕はだいぶ長い間起きいられるようになりリハビリに当てられる時間も多くなった。

それに連れてひとつの問題があった。空腹だ。


今では指を曲げたりできるまで回復したのだが、それで少なからず動いているためお腹が減る。

起きていられる時間も長くなったから寝て我慢するということも出来なくなっていた。


それまでは点滴で栄養を取っていたのだが、身体が回復して来たため口からの栄養摂取に変えていくと先生が母さん達に話していた。


それを聞いて僕は悩む。食べるということは当然口を動かさないといけない。

口を動かすこと自体は既にできるようにはなっていたが、母さん達の前ではそれはしていなかった。


もし、動かせるのが母さん達にわかってしまったら僕は話せなくてはおかしくなってしまう。

口が動かせるなら何故この子は話さないのかと思われてしまうからだ。


正直、話せたらどれほど良かったか。しかし僕は舞桜ちゃんの行った言葉を思い出す。

話せてしまったらおかしいよねと。


例えば僕が赤ちゃんのように言葉足らずな声を出す演技ができればそれで良かったのだが僕にはそれはできなかった。

1度深夜に起きた時に試してみたがどうしても言葉になってしまったり、上手く演技する事ができなかった。


かと言って食事をするためだけに口を動かしてしまったら母さん達は僕が声を出せないと思い込んでしまうだろう。そう、この子は声を出すことが出来なくなってしまったと。


僕は悩んだ。このまま口を動かさないで生活していくか、母さん達に声が出せないと勘違いさせるか。

結果、僕は母さん達に声が出せないと勘違い指せる道を選んだ。

いつまでも点滴で摂取していたら身体が動かせる様にならない。そうなると数年後に母さん達と話すことさえできなくなってしまうから。


母さん達の誤解は身体がしっかりと動くようになって、僕が普通に話せてもおかしくないくらい情報を得たと母さん達に思わせてからだ。


僕がそう決心してから数日後、点滴は外されて食事による栄養摂取が始まった。

食事と言っても流動食で、離乳食よりももっと柔らかい物だった。味もほとんどなくて正直なところ苦痛だった。

しかし、食べないわけにはいかない。これを越えないと普通の食事なんて一生できないから。

それに食事は必ず母さん達が食べさせてくれていた。朝と昼は父さんが。夕食は母さんと蒼海ちゃんが食べさせてくれていた。


三人とも僕のペースに合わせてゆっくりと丁寧に食べさせてくれた。一口食べる事に偉いね。とか凄いねと褒められたり喜ばれたりしていて、僕はその嬉しそうな三人を前に食べないなんてできなかった。


食事をはじめてからもう一つ問題が起きていた。それは排泄。

これまで尿はお腹に管が刺さっていてそこから自動的に排泄されていたらしい。

便は食事をとっていなかった為とても少量で匂いも少なく、オムツの中に出たのを一日の終わりに看護師さんが変えてくれていた。


しかし食事が始まったからには排泄も増える。まず排尿用の管が外された。これからは尿もオムツの中にしなければいけない。

そして便は量も匂いも、そして回数も増えた。僕にはこれがかなり苦痛だった。


まだ筋肉がついていない僕は排泄感を感じても我慢することができない。当然垂れ流しになっている。

オムツの中には不快感がたまり我慢できなくなる。しかし自分ではどうする事もできない為他の人に頼むしかない。

これまでは一日の終わりに看護師がやってくれるだけでよかったがそうは行かなくなった。


頼むのは母さん達。

どのタイミングで交換するかは匂いで判断する。オムツと言っても匂いを封じ込めることはできない。便や尿が排出されればその匂いで母さん達は交換するタイミングをとっていた。


僕は心底交換が嫌だった。自分の排泄したものを誰かに片付けてもらうなんて恥ずかしくて耐え難い苦痛だった。

僕に特殊な性癖があればこれも楽しめたのだろうけどあいにく僕には備わっていない。恥ずかしくて毎回顔を覆いたくなっていた。


自分でも顔をしかめたくなる匂い。そんな排泄物を母さん達は嫌な顔一つせず片付けてくれていた。

オムツを脱がせ、綺麗に拭き取りまた新しいオムツを履かせる。こんな行為を母さん達は嫌な顔一つしないどころか嬉しそうにやっていたのだ。


「今日も沢山でましたねー。ほら、綺麗にしましょうねー?」

なんて言いながら笑顔で作業していく。

妹の蒼海ちゃんも母さんと一緒に手伝っていた。


僕は心から申し訳ないと思いながら感謝していた。

(動けなくてごめんなさい。そして、ありがとう……)



管を通さない場合もあるみたいですね実際は

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