教えてあげる
あれから大体一週間ぐらい眠っては起きてを繰り返していた。
意識が覚醒していく。
それにつれ僕はまた眠っていたんだなと思わされる。
少しづつではあるが起きていられる時間は伸びているものの、まだまだ短い。
(せめて起きていられるようにはならないと話にならないぞ…)
僕は内心焦りを感じ始めていた。あまり回復していると実感できないからだ。
そして、情報が得られないこと。すぐに眠ってしまうため母さん達の話を聞けず自分がどうしてこうなっているのか、回復の見込みはあるのかがわからない。
自分が赤ちゃんの時からどれほど眠り続けていたのかさえまだわからない始末。焦りと不安は着々と積もっていった。
周りを見渡す。
病室は真っ暗で、誰もいない。
(誰もいないと、ほんとに何もわからないんだよなぁ)
と、僕は落ち込むがやってみたいこともあった。
それは、声を出す練習。眠る前にかろうじで声を出せたのを覚えている。練習すれば早く話せるようになるかもしれない。
だが、母さん達がいるところでやると少し音を出しただけでも涙を浮かべながら喜んで抱きかかえられてしまうので練習できなかったのだ。
そして今は誰もいない。これは練習するしかないと思った。
(よしっ!眠ってしまうまでや――――)
練習しようと思った時だった。真っ暗な病室に光が差し込む。扉をあけて誰かが入ってきた。
「こんばんわ、蒼空くん。」
そう言いながら少女……………舞桜ちゃんが入ってきた。
何故か僕は彼女の名前だけ覚えていた。いや、知っていた。
彼女の姿を見るだけでこの子の名前は舞桜だと直感的にわかったのだ。
「ごめんねこんな遅くに。でも、知りたい事たくさんあるだろうから教えてあげようと思って」
そう言いながら舞桜ちゃんは僕のベッドのとなりに腰掛ける。
「私の名前はわかるよね?岡部舞桜。生まれてすぐ病院であってるんだよ私達。覚えてるかな?」
そう言われて僕は思い出す。生まれてから退院するまでに僕はこの子に会っていた。確かあの時は………
「あの時はいきなりごめんね?指。私もまだ小さくって色々我慢できなかったみたい。」
そうだ。僕はこの子に指を舐められていた。……まぁ、赤ちゃんのすることだ。と僕は考えることにしたが、違和感がある。
(この子、ほんとに少女なのか?話し方がまるで大人だ。それに、なんで赤ちゃんの時のこと覚えていられるんだ?僕は転生しているから覚えていられたけどこの子は………)
「まぁ今はこの話じゃないからまた今度ね?……それで、蒼空くんがどれほど眠ってたか教えてあげるね。」
舞桜ちゃんは話を変える。僕は気にはなったがそれ以上にどれほど眠ってたかが知りたかった為そちらの方へ意識が向いてしまう。
「えっとね、8年…いや、まだ8年経ってないけどそれぐらい寝てたんだよ?」
そう言われて僕はようやく知ることができた。8年……そんな長い間眠っていたのか。
そうすると、僕と一緒の時期に生まれたこの子も八歳近いのかな?
「蒼空くんも私ももう八歳になったよ?小学校二年生なの。」
二年生。そう言われて違和感が増す。目の前のこの子がとても小学生の話し方とは思えない。
しかし、どんなに違和感を感じても僕は追求できない。質問をすることができないから。
「蒼空くんの妹のみ……うみちゃんは今年から小学生だよ。蒼空くんとは一個違いなの。」
なるほど。それで僕が起きた時にピカピカのランドセルを背負っていたのか。僕はほのかに感じた間違いに気づかずに話を聞いていく。
「それでね、蒼空くんが眠っている間どういう事になってたかなんだけどね……蒼空くん、ほとんど死んでたんだよ?脳死って言われてたの。」
脳死。そう聞いて僕は驚く。
脳死とはどういうものか前世の記憶で知っていた。脳が死ぬ事。人にとってそれはほとんど死ぬ事と変わらない。いや、一緒と言ってもいいくらいのことだった。
(僕は、そんな大事態に陥っていたのか?)
そう驚きながらも納得する部分もあった。
この体だ。この弱々しく動かない身体も脳死していたと言われれば納得できてしまう。おそらく食事も取れず点滴のみで栄養を取っていたのだろう。当然筋肉などつかないし骨のような身体になる。
よく目覚められたと、自分でも思う。そりゃ母さん達もあんな喜ぶわけだよ。
「蒼空くんが起きたのはほんとに奇跡だったんだ。すごいよ蒼空くん。まるで"女の子"みたい…」
彼女が言っている意味がわからなかった。女の子みたい?起きたことが?それはどういう意味なんだ?
それにもう一つわからないことがある。何故この子はこんなに僕のことに詳しいんだ。記憶が正しければ僕と彼女の接点は生まれてすぐ病院で会った1回きり。それ以外に接点などないはず。
眠っている間になにかあったのだろうか
(……だめだ。わからないことばかりだ…)
自分がどんな状況に置かれていたのかはわかったが、それ以外にわからない事が増えてしまった。
悩んでいると、彼女がまた話始める。
「……まぁ、今の蒼空くんにこんな話してもわからないよね?だって、ずっと眠ってたんだもん。身体は成長してても、精神は赤ちゃんのはずなんだから…」
彼女の言葉にハッとする。
(そうだ。僕は赤ちゃんの時から眠り続けていたんだ。身体は成長していたとしても思考…精神は本来赤ちゃんのままなはずなんだ……僕が転生していなければ…本来…)
気付かされる。僕は今まで早く母さん達と意思疎通がしたくて話す練習をしようとしていたが、話せてはいけないんだ。
中身が赤ちゃんであるはずの僕がいきなり言葉を話し始めたらおかしい。母さん達を困惑させてしまうかもしれない。
状況はあまりよくなかった。身体は動かない。声も少ししか出せない。たとえ出せるようになっても話をしたら怪しまれる。
(八方塞がりじゃないか……)
しかし彼女は言う。
「でも、これから一年間…いや、2年間もリハビリしてれば身体も動く様になるだろうし、それまでに色々テレビ見たりだとかお母さん達と話をしていれば話せるようになっても不思議じゃないよね?」
まるで僕の思っている不安を分かっているかのように、的確に道を指し示す。
2年間…それだけ時間をかければ当たり前にできると。僕はそんな道を信じるしかなかった。
(今は、この子の言う通りリハビリに集中して話や意思疎通は後回しにしないと…)
ガタっと席の立つ音。
「そろそろ私帰るね?早くしないと見回りの人が来ちゃうから。……今はまだ二人で居る所見られるわけにはいかないし…」
後半の言葉が小さくて聞き取れなかったがどうやら帰るらしい。
(待って!まだ聞きたいことが――――)
そう思ったところで睡魔がやってくる。
(くそっ!また眠く―――)
「それじゃあね?蒼空くん。また会いに来るから。それと、」
僕の意識が眠りつく寸前、彼女の言葉が聞こえてくる。
「蒼空くんは"男の子"なんだから、あんまり無茶しちゃだめなんだからね………?」
そんな言葉を聞き終わると同時に僕は眠りについた。
ブクマ120件行った!
ひゃっほうありがどう!!




