障害が
渚と響は蒼海が蒼空の元へ走って行くのを見てハッとする。
何をしているのか、自分達も息子の温もりをと。
蒼空に駆け寄り抱き締める二人。蒼海も合わせて三人で抱きしめていた。
蒼空の目は抱きしめている渚や響、蒼海への視線が行ったり来たりしている。それを見ているだけで渚と響はまた涙が溢れてきていた。
「お、落ち着いてください野上さん」
すると先生のそんな声が聞こえてきた。我に返る三人。
ハッとして蒼空を見るとその目は少し苦しそうな目をしていた。それもそうだ、三人から抱きしめられれば苦しくもなる。
三人は一旦蒼空から離れるとすいません、と先生に謝罪した。
「野上さん、蒼空くんのことでちょっと…」そう先生は話があると言ってきた。
それに対し響と渚はここで話したいと言う。
二人は全く同じことを考えていた。蒼空から一秒でも離れたくないと。ようやく起きてくれたのだ。これまで話せなかった時間を少しでも早く埋めたいと。
先生はそう言うとわかっていたのだろうか、部屋の奥で大丈夫だと伝える。響と渚の二人は病室の奥にある椅子に腰掛け先生と話をし始めた。
蒼海はというと、こっそりと蒼空の元へ近づいていたのだがそれに二人は気づいていなかった。
「蒼空くんのバイタルは非常に安定しています。おおよそ同じ歳の子供と健康面では差はないと言ったぐらいに。」
先生は二人に対して話をし始める。
「しかし、体力はほぼ無いと言ってもいいでしょう。運動が全く出来ずに成長してきていますから同じ歳の子に比べて身長や体格といった部分はかなり劣っています。……しかしこれは今後正常にいけばいずれ追いつくとは思います。」
「あの…正常ってどういうことですか?」と、渚が先生に問う。
「はい……障害などがなければという意味です。本来、乳幼児から幼児期に成長していく段階で脳に障害がある場合気づくことができます。しかし、蒼空くんは乳幼児の段階で眠ってしまっていたため、それに気づけていない場合があるんです。」
障害…それは二人の中で重く響いた。思わず言葉に詰まる。
「元々障害というのは発生確率は低いのでそこまで気にかけることではないのですが、蒼空くんの場合は違います。……彼の脳は一度死んでいます。それがなにかの原因で生き返ったのは喜ばしいことなんです。しかし、完全に生き返ったかどうかはこれから時間をかけていかないとわからないんです。……もしすこしでも死んだままの部分があればそれは重い障害として残ってしまうんです。」
先生は話を続けている。
二人は息子の状況がまだまだわからないと実感していた。
「先程蒼空くんが起きた時に私は蒼空くんの意識を確認しました。……なにも、異常がなかったんです……」
先生はそう言ったが、二人には意味がわからなかった。
なぜ先生がそんなにも不安そうに言葉を放ったのか。異常がないのはいいことではないのか?と。
「あの、異常がないのはダメなんですか?」と、響は聞く。自然とその手は渚と繋がれていた。
「はい…異常がなければおかしいんです。……いいですか?蒼空くんは乳幼児の時点で意識を失い眠ったままの状態になっています。……言葉も話せず、満足に動くことさえできなかった乳幼児の時点で、です。」
その言葉を聞いて二人は違和感に気づく。
「蒼空くんからしてみれば、目が覚めたと思ったら知らない場所。そして自分の体は全くの別物へと成長しているんです。いくら自分の体と言っても8年近く成長していてはもはや別物なんです。身体の感覚は全然違うものに変わっているし、大きさだって違う。……乳幼児の頃は腕や足をバタつかせる事ができたでしょう。声だって、ある程度は出せていたはずです。しかし、そのどれもが今の蒼空くんの身体ではできない。しようと思っても動かないんです。」
違和感は確信へと変わっていく。二人は強く手を握りはじめる。
「そんな違いを感じて正常でいられる筈がないんです……目しか満足に動かせないとしても、まっすぐとこちらを見たりなんてできません。…先ほど野上さん達が入ってきた時、蒼空くんはしっかりとその方へ視線を向けていました。」
そう言われて思い返す二人。蒼空はあの時、しっかりとこちらを見ていた。なんの異常も感じられず、当たり前のように。それが、おかしな事だと思いもしなかったのに…
「……はっきりと申しますと、かなりの確率で脳に障害があると思われます。…詳しくはこれから検査を繰り返していかないとわかりませんが、どうか…そのおつもりでいてください。」
障害がある。それは二人に重くのしかかっていた言葉がさらに深く突き刺さるような感覚だった。
「わかりました…でも」
そう、二人はそれで落胆こそはしていたが絶望はしていない。
「例え障害があっても、目覚めてくれたんです。2人で蒼空くんを支えていきます。」
目覚めてくれた。その事実が二人を絶望させず、希望を持たせて歩み続けてていく力を与えていた。
「息子さんは幸せですね。」と先生が言う。
「当然ですよ。だって、私達の子供ですから。」そう、渚は真っ直ぐに先生へと言った。
「それは羨ましい。……あと、まだ蒼空くんのことでお話が…」そう先生が話始めようとした時だった。
「……ちゃん?お兄ちゃん?…お兄ちゃんっ!!」
蒼海の声が聞こえてきた。先生の話に夢中だった二人は声の方へ視線を向ける。
蒼空のベッドの横で蒼海が蒼空を見ながらそう叫んでいた。
「ど、どうしたの蒼海ちゃん……っ?!」渚が近づいて気づく。
蒼空がまた目を閉じて、今までと同じように眠りについていた。
「せ、先生っ!蒼空くんがっ!」
「落ち着いてください野上さんっ!大丈夫ですから!……このことでお話があったんです!」
そう言いながら先生は三人を落ち着かせる。
「……蒼空くんは数年ぶりに起きた事で疲れたんです。それで、眠ってしまったんです」
先生が話始めるが響と渚は落ち着かない。
「そ、そんなっ!また眠り続けるんじゃ!」響は先生に強く問いかける。
「大丈夫です!…一度覚醒した意識が再度長く眠りにつくことはありません…ですから、落ち着いてください。」
眠りにつくことはない。その絶対の言葉を聞いてようやく落ち着き始める二人。蒼海はおろおろとしながら蒼空の手を握っている。
「数年間眠っていたんです。起きているだけでも相当な体力を消耗するでしょう。……ある程度体力がついてくるまではこうして突発的に眠りにつくことはありますが、それは通常の睡眠と変わりありません。数時間もすればまた目を覚まします。」
先生は二人にそう伝える。
それを聞いてようやく完全に落ち着きを取り戻す渚と響。
「よ、よかった……すいません、先生」
「すいませんでした、先生」
二人は先生へ謝罪する。
「いえ、一番はじめに話しておくべきでした……それで、今後は頻繁に眠ることはありますが、安心なさってください。……2ヶ月もすれば長い間起きていることはできるようになる筈です。」
先生は話を続ける。
「恐らく今日はもう起きないとは思いますが、明日また目が覚めるはずです。……今日は1度家に戻って御家族で話し合ってください。今後のことを。」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「先生、ありがとうございます」
そう言って二人は先生にお辞儀をした。
「蒼海ちゃん、お兄ちゃんはちょっと疲れて眠っちゃっただけだって。だから安心して?……今日はもうお兄ちゃん起きないから、家に帰ろ?」
そう渚は蒼海に告げる。
「……うん。わかった……」
そう言うと蒼海は名残惜しそうに蒼空の手を離す。
「じゃあねお兄ちゃん……またあしたくるからね。」
「蒼空くん、また明日ね。」
「ママ、明日も必ず来るから待っててね蒼空くん。」
三人はそう蒼空に告げて病室を出る。
渚と響の心には障害という言葉が突き刺さっているものの、とても明るい光が灯っていた。
ブクマ100件超えてるじゃねーか!
ひゃっほう酒盛りじゃ!
ほんと、読んでくれてありがとうございます!




