冷たさ
とても幸せそうな顔をしていた。
母犬のお腹で丸まり眠っている子犬のような。
そんな顔をしながら岡部舞桜は病室で寝ていた。
まさかまだ病室にいるとは。俺は予想外の展開にどうしようか悩んでいた。
起こして事情を聞くか…いや、こんな幸せそうな顔をして寝ているのを起こしていいものだろうか?
それに、たとえ起こしたとしてもこの子はまだ幼い子供だぞ。事情を聞くにしたって、しっかりと話せるかどうかわからない。
色々な考えを巡らせていると「んっ…んぅ?」と岡部舞桜から声がした。
「ふぁ〜…ねちゃった。えへへ、おはようそらくん」
岡部舞桜…舞桜ちゃんは俺に気づいていないのか、蒼空くんの方へ話しかけていた。
「とってもよくねむれたよそらくん。えへへ、ありがとね!」
そういうと今度はこちらに話しかけてきた。
「おはよう、そらくんのパパ。ごめんなさいねちゃってた」
「い、いや、大丈夫だよ……それより、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
俺は事情を聞いてみることにした。
何故渚と病室にいたのか?あの言葉は本当にこの子が発したのかと。
「うんいいよ…あっ!まってね!ママにでんわしないと!ママにナイショできてるの!」
まさかこの子は親に知らせずにここに来ていたのか。
今まで何度か舞桜ちゃんは蒼空くんの病室にお見舞いに来てはいたがどの時も母親には伝えていた。
「それは大変だっ!すぐに連絡しよう。お母さん心配してるはずだ。」
そうして俺は携帯を取り出す。
「舞桜ちゃん、お母さんの電話番号わかる?」
「うん!わかるよ!えっとね…」
そういうとスラスラと番号を伝え始めた。
俺はその番号に電話をかける。プルプルプルと呼び出し音が続く。
しかし、携帯には出なかった。呼び出し音が続くだけで一向に出る気配がない。
「舞桜ちゃん、お母さん電話でないけど…」
「あっ!まだママしごとなのかも!だったらいそいでかえらなきゃ!」
そういうと舞桜ちゃんはそそくさと病室を出ようとする。
「ま、待って舞桜ちゃん!一人で帰るつもり?!もう暗くなってくる時間だしあぶないよっ!」
帰ろうとする舞桜ちゃんを静止する。しかし…
「だいじょうぶだよっ!わたしタクシーつかえるしお金ももってきたもん!」
そんな事を言っているが大人としてはそうはいかない。
第一まだなにも話せていないのだ。
「おじさんが家まで送っていくから、一緒に行こう?いくら女の子だからって危ないよ?」
そう、当然こうなる。女の子だからといって一人で帰せる年頃ではないのだ。
「………蒼空くんのパパ…?いいの?私に構ってて。」
「…え?」
瞬間、またあの冷たい声が発せられる。
やっぱりこの子だった。あの言葉を言ったのは。俺がいきなりのことで驚いていると舞桜ちゃんは続ける。
「蒼空くんのママ…もう起きてくるよ?それに…ほら?」
そうして舞桜ちゃんは蒼空くんの方へ指をさす。
「?!?!」
俺は目を疑った。蒼空くんの指がピクピクと動いたのだ。
「………ね?…お姫様はもうすぐ目を覚ますんだから…」
そういうと舞桜ちゃんは帰っていった。
一方俺はそれどころじゃなくなっていた。蒼空くんが動いた!頭の中はそれだけになっていた。
すぐさまナースコールをする。
呼ばれてきた看護師さんに事情を伝える。
「蒼空くん…っ!」
俺はいっぱいいっぱいになっていた。
記憶を戻した渚。冷たい言葉を放った岡部舞桜。そして、何年も動かなかった蒼空くんが動き出した。
頭の中で色々な事がぐるぐるとしていた。処理しきれない…
その時病室のドアが開く。
「せ、せんせっ――」
俺は先生だと思い声をかけた。しかし、それは先生ではなく
「……響。」
そこには俺の名前を口にしている渚がいた。
その目に怒りを宿しながら。
短めだったかな




