義姉
今日は1度光さんの所へ行ってから病院に行く。
「それじゃあ渚。行ってくるな。食器は流しに置いといてくれればいいから。」
「……うん。いってらっしゃい響。」
「お、おう」
珍しいな。渚が玄関に来ないなんて。
まぁ流石にわかってくれたのかな。今度何かしてやらないとな…
光さんの家に着く。
「こんにちは光さん。受け取っていた原稿持ってきました。」
「あら響くん。ご苦労様。それじゃあこれが次の原稿だから、よろしくね?」
光さんから新しい原稿を受け取る。
光さんは他の作家さんに比べて原稿が早いらしい。そのおかげで俺は仕事には困ることなくやらせてもらっている。
出している本はミステリー物で、今までにも何冊かそのジャンルでベストセラーをだしている。
最近では映像化の話も来ているそうなのだが光さんは断り続けている。理由を聞いてみると、「小説は頭の中で想像出来るからこそ面白い。映像化しちゃったら、主人公のイメージがそれに固定されちゃって面白くなくなっちゃうでしょ?」とのことらしい。
あまり小説を読んでこなかった俺としては映像化したのも見てみたいのだが、光さんの言う事もなんとなくは分かる気がする。
「少し上がっていかない?差し入れで美味しいケーキ頂いたの。よかったらどう?」
「すいません、これから病院なので俺は…」
「そっか、残念。…………蒼空ちゃんの容態はどうなのかな?」
光さんが申し訳なさそうに聞いてくる。多分光さんなりに気を使ってくれているんだろう。
「……相変わらず眠ったままですね。もうそろそろ一般病棟の個室に移動できるようにはと聞いていますけど…」
「…そっか。響くん、無理はしないでね?貴方まで倒れちゃったら、それこそ蒼空ちゃんが悲しむわ。……あっごめんなさい。プレッシャーをかけるつもりじゃなかったんだけど、こんなこと言われたら嫌でも感じちゃうわよね…」
光さんがしまったという顔をして謝ってくる。
「大丈夫ですよ光さん。むしろありがとうございます。光さんのおかげで何とかこの生活を続けていけている様なものなんです。…光さんが気にしてくれていることは伝わってます。本当にありがとうございます。」
「私こそありがとう響くん。私も響くんのおかげで仕事が捗って助かっているの。お互い様ね♪」
光さんはそう笑いかけてくる。
あの日以降なんどこの人に元気づけられたことか。
本当にありがとうございます……
「それじゃあ光さん、また後日。」
「ええ、またね」
そう言って俺は病院に向かった。
「あら?今誰か居たような………気のせいかしら?…さぁ、原稿原稿♪」
病院につくと先生が待っていた。
「野上さん、蒼空ちゃんのことでお話が…」
そう聞いて俺は取り乱す
「ま、まさか意識が戻ったんですか?!」
先生に詰め寄る。
「お、落ち着いてください野上さん。とにかく、ここではなんですから私の医務室まで一緒に来てください。」
「っ!…はい、取り乱してすいません。」
「いえいえ、それじゃあこちらへ」
先生に案内されて医務室へ向かう。
俺はこんなにも簡単に取り乱してしまうくらい追い詰められていたのか?自分ではさっぱりわからなかったのも相まって怖くなる。
頭では押さえ込んでいたつもりだったが全然だった。
医務室につくと先生が口を開く
「蒼空ちゃんなのですが、本日付でNICUから一般病棟に移ることが決まりました。」
「ほ、本当ですか?!それはつまり、蒼空ちゃんの容態が安定したと?!」
「は、はい。………しかし、安定したと言っても………とても言いづらい事なのですが………」
先生が口篭る。
「…どういうことですか?」
「……蒼空ちゃんが脳死と判断されました。それに伴い、NICUから一般病棟への移動となります。…回復の見込みがない。とのことで…」
先生が口篭りながらそう言う。
脳死。先生は今そう言った。
蒼空ちゃんの脳が死んだと。回復の見込みが無くなったと。
「……それは、死んだと言うことでしょうか?」
恐る恐る聞く。この先を聞くのが怖い。
「いえ、あくまで脳死という判断です。身体機能は生きています。…これまでと違うのは、医学的にもう意識は目覚めない、ということです。」
「それは、絶対なんでしょうか?」
「申し訳ありませんが、間違いなく…今までで何万件という脳死患者が世界中で報告されていますが、意識が回復したというのは10件にも満たない。しかも回復したというのは全て大人の話です。新生児であった蒼空ちゃんではまず間違いなく…」
先生が言っていることはほとんど死亡宣告だった。いや、100%死亡宣告だったのだろう。
俺は、心の中で何かが音を立てて壊れるのを感じた。
駄目だ。何も考えられない…
「……すいません先生。話は明日でもいいですか?…今日は何も考えられそうにありませ。………すいません、失礼します」
俺はそう言って医務室を抜け出した。
「の、野上さん!まだ話は―――」
先生が何か言っていたが今の俺の耳には入ってこなかった。
俺は何も考えられず家に向かった。
気がついたら家の前にいた。
今日はもう休もう…なにも考えられないから。
そう言って中へ入っていく。
何故か明かりのついている我が家に。
お姉さんいい人かな?かな?




