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銀河帝国の綺羅星(アイドル)達へ!(旧題悔しいからアイドルになって地球を救ってやる!!)  作者: あずき犬
結成10th Anniversary BestAlbum「こす⭐︎もす尽くし」特別収録曲
28/31

Track-28.私の瞳の中の花火!(Verse)

特別編あらすじ

 売れないアイドルの女の子五人が流行りのデザート食べて、カラオケ行って、花火を見て家に帰るだけのお話しです。あと、少しだけ大切な思い出も。

 四話合わせて二万五千字程度の短編です。本編(特にTrack-14.fight!)の内容を含んでいますが、別に読まなくても大丈夫です。微百合な描写があるので苦手な方は注意してください。


「宇宙ブドウって、あれ、美味しいのかな」


 きっかけはレッスン終わりの優奈のそんな一言だった。

 確かに最近街を歩いていると、女の子達が紫色のジュースが入ったコップを持っている姿をよく見る。


「どうだろう、単なるブドウジュースのような気もするけど」


 綺麗に畳まれたライブ用の衣装をカバンに入れながら早紀が答える。次のライブはアニメとのタイアップ曲である「fight!」を中心にイベントでの公演が決まっている。五人には作中の少女達のコスチュームに合わせたライブ衣装が支給されていた。


「ちょっと気になるよね。でも夜でもお店やってるのかな」


 杏子がブラシで髪をセットしながら言う。主人公が被っている天使の輪っかの為に髪に丸い輪の形が付いている。ライブを控えた最近のレッスンは夜遅くまで行われていた。宇宙ブドウは街角のスタンドで販売されているらしく、こんな時間でも開いているのだろうか。


「ああ、やっぱりやってるの昼間だけみたい」


 綾香にブラシで髪の毛をとかしてもらっている裕子が目の前に表示させた画面を見て言った。


「次の休みやと、来週のライブの後になってしまうわ」


 ブラシを握っていた綾香がディスプレイにスケジュールを表示させて言うと、深いため息をこぼす。つられるように四人もため息をつく。

 

 鍵の管理をしている杏子がレッスン室の電気を消してドアの鍵を締める。チカチカと揺れる暗い電灯の下、狭い階段を下っていると一階から誰かが上がってくる足音が聞こえた。

 

 踊り場に姿を現したのは、両手に荷物が入ったビニール袋を下げたマネージャーの田端であった。


「お疲れ様です」


 ビニール袋の中のお菓子やジュースをチラリと見ながら綾香が吐き捨てるように言う。ビニール袋の中身は日頃体型を気にしている彼女達にとっては憎悪の対象でしかない。


「お疲れさ、ああ、ちょうどよかった」


 ただでさえ狭い通路である。すれ違う為に体を横にして立ち止まる田端が階段を降りていく五人に言う。


「明日、更新祭で通信できないからレッスン休みね」


 田端の言葉に足を止める五人。


「さあて、今日は徹夜でゲーム三昧。楽しみ〜」


 無言で階段を降りていく五人。地球文化館の建物の前の道路で立ち止まる。そして、


「明日何時に.........

「集合場所どこに.........

「洋服どんなの.........

「お昼何食べ.........

「宇宙ブドウ.........


一斉に声を出す。たまたま歩いていた人達がその声に驚いた振り返る。誰からともなく笑い出した彼女達は、歩き出し、やがて駆け足で駅に向かって走り出す。



     ※



 人の波に押し出されるように駅の改札を出ると、眩しい陽射しの下に出た。

 久々にクローゼットから出した七分丈のパンツと白のTシャツに薄水色のカーディガンスタイルにはちょうどいい気候である。

 待ち合わせ場所に指定された場所は、モコモコの毛皮に覆われた丸い体に巨大な耳がくっついている生物の石像の前だった。早紀のホームステイ先で見たペットとよく似ている。あの後調べたらケナミナという動物だと知った。

 待ち合わせ場所として有名な場所らしく、女子高生らしき団体や、カップル達が談笑しながら佇んでいる。

 

 石像が置かれた石段の横のスペースにはストリートミュージシャンだろうか、女性三人組のバンドがヴァルファーレの新曲をカバーしているらしく、杏子にも聞き覚えのある歌詞と演奏が聞こえた。

 集まる人垣の間からは長い髪を編み込みにした銀髪の女性ボーカルの姿がチラチラと見え、その歌声には人を惹きつける独特の力強さがあった。少し移動するとギターを演奏する背の高いショートヘアの女性、キーボードを弾くストレートヘアの女性が見えた。演奏もストリートに出るようなアマチュアにしては上手く、プロのミュージシャンでも通用しそうに思える。

 

 その人垣の中に長身の体に紺のジャケットにパンツスタイルの裕子の姿が見えた。凛とした切長の目、その目を隠すための少し大きめのサングラス、ジャケットの上からもわかるスタイルの良さ、すらっと伸びる脚線。腕を組んで佇む彼女の周りにはその近寄り難い雰囲気からか自然と円形に空間が出来ていた。


「ごめんね、待った?」


 しばらくその様子を眺めていた杏子は裕子の側に駆け寄る。その途端、裕子は強張っていた唇を緩めて、サングラスの隙間の目を細めた。


「この格好、絶対場違いだよね」


 サングラスを外した裕子は身を折り曲げて言う。


「どっかの芸能人かと思った」


 笑い声を押し殺しながら杏子は答える。サングラスを胸ポケットに入れていつもの眼鏡に変えた裕子は肩を落として笑う。


「ホームステイ先のおばさんが、顔が刺したらダメだからって」


「完全に逆効果だよね」


 言いながら杏子は腕時計を見る。時刻は集合時間の五分前を指していた。いつもは個人ディスプレイの端に常に時刻を表示させていたが、たまには腕時計もいいかもしれない。


「うわぁ、裕子かっこいい」


 声に振り向くと、白いブラウスに黒いリボン、黒いミニスカートに黒タイツ、ツインテールの髪の毛にフリルの付いたヘッドドレス姿の優奈が立っていた。


「優奈かわいい、ゴシックアンドロリィタ?」


 裕子が目を輝かせながら優奈に近づく。


「ずっと着てみたかったから、今日着れてうれしい」


 優奈は恥ずかしそうに顔を赤らめて言う。確かに可愛らしい姿であるが、杏子は一抹の不安を感じていた。事前にどんな服装で来るかは特に決めていなかったはずである。昨日の帰りの電車内では「せっかくだからおしゃれして行こうよ」くらいの熱量の話だったような気がするが。こうなると、あの人も.........。


 チラリと見た腕時計は集合時間ピッタリを指していた。 

 杏子の周りの男性達がざわつきはじめる。

 振り返ると、真っ白のショートワンピース姿の早紀が歩いていた。白雪のような白い肌、華奢な体にも関わらず豊かな胸元。肌の露出は少ないはずなのに、ライブで着る衣装よりも際どく見える。

 

「今日の予定だけど」


 早紀は周りの声など気にせずカバンから分厚い雑誌を取り出す。雑誌には付箋がいくつも貼り付けられていた。


「すごい、早紀、それ昨日帰ってから作ったの?」


 杏子の問いかけに、早紀は雑誌のページをめくりながら頷いて答える。


「今日、ディスプレイ使えないみたいだから、ちょうど最近買った雑誌があったし」


 早紀が開いている雑誌には、食べ物の写真と地図が所狭しと載せられており、それぞれのコメントや評価が書き込まれた付箋がいくつも貼り付けられていた。


「ディスプレイ使えないの不便だよね。なんでこんな日が祝日でお祭りなんだろ?」


 雑誌を覗き込んでいた優奈が呟く。


「なんでも、システムのアップデートは帝国の進化に直結しているからって聞いた事あるけど、あ、ここがおすすめの宇宙ブドウのスタンド、で、こっちがすごい評価が高い洋服屋とか雑貨屋さん」


 一体この付箋を貼るのにどのくらいの労力がかかったのだろうか。杏子は写真を指差して説明する早紀の顔を覗き込むが、完璧な化粧が施された彼女の表情には疲労の跡は微塵も見えない。


「ごめーん、電車間違えてしもて遅れたわ」


 雑誌から顔をあげると、四人の方に向かってくるライオンがいた。


「これかっこいいやろ、うちらの街では勝負服っていったらやっぱりこいつやねん」


 満面の笑みでデカデカとライオンの顔が描かれたTシャツを指さす綾香をチラリと見た四人は無言で頷き合い、宇宙ブドウのスタンドに向かって歩き始めた。 



     ※



 街は活気に溢れていた。駅前のメインストリートは歩行者天国となり、老若男女が肩を触れ合うような距離で行きかい、あちこちに人だかりができている。

 集まっている人達の輪の一つに近づいてみると、大道芸人が大きなリングを使った大道芸が披露さており、金属製のリングが空高く投げ上げられるたびに歓声と拍手が湧き上がっていた。

 別の人だかりからは、バイオリンのような音楽も聴こえる。

 露店が出ているのか、どこからかパンが焼けるような香ばしい匂いが漂い、どこかで子供の笑い声やただをこねて泣いている声が聞こえる。

 ふらふらと人だかりに顔を突っ込む綾香と優奈と違い、雑誌を握りしめて先頭を歩く早紀はただひたすらにジューススタンドに向かって歩き続けていた。

  

「なんか、昔テレビで見たどこか外国のお祭りって感じだね」


 杏子の横を歩いていた裕子がつぶやくように言う。

 そう、いかにもフェスティバルという感じ、例えるならテーマパークに向かう道すがらのような。誰かから与えられて無理やり感じるような非日常感。


「もっと縁日みたいなお祭り想像していたんだけどね」


 杏子がそう呟いた頃、前を歩く早紀はメインストレートから、狭い路地に入っていった。

 狭い路地の通路に沿って、一階部分に洋服屋や雑貨屋が入った雑居ビルが立ち並んでいる。さっきのメインストリートと違い、こちらには杏子達と同い年くらいの女子で溢れかえっている。

 洋服店に入ろうとする優奈の背中を押し、肉まんのような出店に誘われる綾香の腕を引っ張って歩く早紀の足が止まった。


 人だかりの向こう、小川沿いの小さな公園に建てられた仮設の店舗に宇宙ブドウジュースと書かれた幟が立ち、立ち歩く人皆が手に手に紫色のジュースが入ったコップを持っていた。

 

 あっさりと宇宙ブドウジュースを購入した五人は人混みに押し出されるように川沿いの公園にたどり着き、木陰のコンクリート擁壁の前に集まる。

 手にしているコップの中には紫色のブドウジュースと小粒のブドウ果実が入っており、蓋には場違いなほど太いストローが刺さっていた。

 

「ではリーダーから一言お願いします」


 綾香がコップを握った手を前に出す。つられるように杏子以外の皆がコップを前に出して俯く。

 突然の指名に慌てて思わずジュースをこぼしかけた杏子だったが、気を取り直して皆とコップを合わせる。


「えー、本日は忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます」


 思わず出た言葉は、部活動の合宿の打ち上げの時のあいつの言葉であった。真面目ぶった言葉に皆がクスクスと笑っていた記憶があった。

 狙い通り、四人は笑いを噛み殺しているのか、触れているコップが震えてぶつかる。


「思えば、右も左もわからないこの地にやってきてかれこれ.........」


 言いかけた杏子の言葉を遮って、皆が叫ぶ。


「かんぱーい!」


 高々とコップを空に掲げてストローを口に入れてジュースを吸い上げる。

 ただただ甘いブドウジュースと共に太いストローから口の中に少し硬めでコリコリとした食感のブドウ果実が流れ込む。体験したことのない不思議な感覚が喉を通過していく。


「無茶苦茶ブドウだね、これ」


 優奈はストローを口から抜くと、ブドウ果実をコリコリと噛み潰して言う。


「無茶苦茶ブドウやな」


 綾香はコップの底に残っているブドウ果実を音を立ててストローで吸い上げていた。


「私は、意外とこれハマるかも」


 甘い物に目がない裕子のコップはすでに空になっていた。


「もう、急にあんなのやめてよ」


 ポコポコと音を立ててブドウ果実を吸い取りながら杏子は頬を膨らませる。


「リーダーたるもの、いつインタビューを受けても大丈夫な強いメンタルが必要なんやで」


 綾香が笑いながら言って杏子の頭を撫でる。


「なんとなくわかる気がするけど」


 杏子は口の中の果実をポリポリと噛み締めて、ジュースを飲み切る。

 ふと横をみると、早紀がストローを加えたまま雑誌のページをめくっていた。器用に果実を吸い取り、ズルズルと音を立てて喉にジュースを流し込んでいた。

 完璧なお嬢様スタイルな早紀に似つかわしくない下品な行為に何故か目が離せなくなる。


「早紀はどう? 美味しい?」


 杏子の声に顔をあげた早紀は雑誌を閉じて、ストローを口から抜くと、少し乱れた前髪をかきあげる。


「私は好きな味かも、杏子は?」


「確かに、喉越しは独特だけどね」


 杏子の返事を聞いた早紀は、少し残念そうに目を伏せたのち、雑誌を開いて杏子に見せる。


「宇宙ブドウジュースの他にもいろんなジュースがあるみたいだから、また行こう」


 雑誌のページは、『宇宙ジュース』シリーズの特集ページだった。

 見開きページには星雲イチゴ、銀河バナナ、星空メロンの他、見たこともないカラフルなジュースの写真が一面を埋め尽くしていた。

 

「これってこんな感じで展開してるんだね」


 色とりどりのジュースや果物の画像を見ているだけで、杏子の胸の内が明るくなる。


「よし、宇宙ブドウジュースは達成。次どこに行こうか」


 空になったコップを持った綾香の言葉を合図に、五人は早紀が広げた雑誌を覗き込む。買い物マップのページにはジューススタンドから歩いていける範囲にもいくつも早紀の付箋が貼られていた。

 

 まず向かったのはジューススタンドに来る途中に通過した狭い通りだった。個人経営の狭い雑貨店では展示されていた色ガラスが付いた指輪をはめ合い、女子高生達でごったがえす服屋では優奈の見たてで綾香がパンクロック調の服を試着し、露店では、マヨネーズがたっぷり入ったたこ焼きを煎餅で挟んだものを見つけて迷わず購入。いつか行った縁日で食べたあの味を思い出す。


 少し歩き疲れた五人は橋の欄干に背を預けて一息つく。

 売れないアイドルがなけなしのお金で買ったのはガラス玉の安物の指輪ひとつづつ。

 右手の薬指にはめた、赤いガラス玉が付いた安物の指輪を見ていた杏子の手の甲に冷たい雫が落ちる。

 

「雨」言いながら見上げた空にはいつのまにか厚い 灰色の雲が広がっていた。降雨情報なんて、と思いかけてディスプレイ表示が出来ない事を思い出す。周りの人達も雨を避けるために慌てて移動しはじめる。

 風が強くなり、雨が少し大粒になる。

 顔を上げると、優奈がすこし先の雑居ビルを指差していた。


「ねえ、あれ行ってみない?」


 彼女の人差し指の先には『カラオケ』の看板があった。


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