7話 少女の嘘と男の答え
「……帰ってくれ」
低く、押し出すような声だった。
秋羅さんから出た当たり前の言葉にも、私には彼を待ってる間に考えた設定があるのでひるむことはない。
「帰る場所、ないです」
言った瞬間――
設定を考えているときに覚悟はしていたはずなのに、自分が嘘をついて彼を騙していることに胸が、ちくりと痛む。
本当あのくそな父がいるアパートがある。
でも。
「……は?」
秋羅さんが眉をひそめる。
「両親は交通事故で死んでいないんで」
重ねる。
もう一つ、嘘を。
喉の奥が、少しだけ苦い。
でも、やめなかった。
やめられなかった。
「バイトしながら生活費を稼いで……家については大学の友達の家とかネットカフェでどうにかしてたけど……今日は帰るとこもお金もなくて」
視線を落とす。
顔を見たら、罪悪感に襲われるから。
「だから……」
一瞬だけ言葉に詰まる。
でも――私はこの沸き上がる欲を抑えられない。
「少しでいいから、ここにいさせてください」
秋羅さんに拒絶されるかもしれない……。
欲望のまま言い切った瞬間私の脳はクリアになり、欲望の陰に隠れていた可能性が顔をだす。
私の中に焦りと不安が沸き上がる。
静かな沈黙が落ちる。
秋羅は何も言わない。
ただ、じっとこちらを見ている。
その視線を感じるたびに私の中の不安が増幅していく。
「……迷惑なのはわかってます」
続ける。
事前に考えてなんていなかった言葉を私の感情のまま発する。
「でも、私……」
顔を上げる。
ちゃんと見てほしくて。
「秋羅さんのこと、放っておけなくて」
それは――
嘘じゃなかった。
本当の、本音だった。
「……」
秋羅は、まだ何も言わない。
その沈黙が、怖い。
でも――
逃げなかった。
「……一晩でいいです」
小さく付け足す。
逃げ道みたいに。
でも本当は――
「……ダメ、ですか」
私の中の不安があふれでたかのようなか細い声で私は言った。
「……一晩だけだ」
長い沈黙のあと、秋羅が言った。
「それ以上は知らない」
ぶっきらぼうな声。
でも、その一言で――
張り詰めていたものが、ふっと緩む。
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げる。
その時、ほんの一瞬だけ。
胸の奥で、何かが軋んだ。
――これで、入れる。
ずっと、遠くから見ていた場所に。
お読みいただきありがとうございます!!
明日、朝6時に8話を投稿します!8話も読んでいただけるとありがたいです。
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